Coolier - 新生・東方創想話

働く閻魔様

2016/10/26 09:16:29
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 部屋から出て審問部屋に向かう途中、私担当の事務官がちょうど向こうからやってきた。あの書類の量は異常である。何か理由があったはずだ。
「お疲れ様です。いきなりですが事務官殿、少々伺いたいことがあるのですが」
 事務官に就くような死神は試験を受けてその職に就いている。それに比べ十王を除く閻魔は皆、十王の面接だけで職を得ている。立場でいえば当然閻魔の方が偉いのだが、専門的な仕事は彼らがやってくれているためどうにも事務官と書記官には頭が上がらないのである。
「これはこれはお疲れ様でございますヤマザナドゥ様。いかがなされましたかな?」
 事務官は人のよさそうな笑みを浮かべ軽く頭を下げる。この男、基本的にのんびりしているが恐ろしく仕事ができるのである。私は書類にハンコを押してるだけだが目の前にいる男はあの山のような書類を作成しているのだ。その能力に感嘆するとともに少し憎らしくも思える。誰もがあなたほど優秀ではないのだといつか説教したいくらいである。だがそれをしてしまうと自分は無能だと言っているのと同義であるから実現には至らないが…
「いくら何でもあの書類の量は多すぎませんか?事務官殿も大変だったのでは?」
 ここでストレートに事務官に不満をぶつけると怠け者だと思われそうなので、相手を気遣うようにして本音を隠した。聞きようによっては嫌味に聞こえるかもしれないがストレートにいうよりはずっといいはずである。
「いやぁ、あれはですな、私は半分しか作ってないのですよ」
 通常、一人の閻魔につき一人の事務官が就き書類を作成する。よって私が処理すべき書類は全てこの事務官が作成したものになるはずなのである。
「いったいどういうことですか?」
「いやぁ、実はですな、幻想郷を担当していらっしゃるもう一人の閻魔様がですな。3日ほど有給休暇を取られましてな。あ、いやもちろん私も今朝知りまして驚いたのですが。やはり閣下にはご相談はされてなかったのですな」
「あの野郎…」
 申し訳なさそうに頭を掻きながら事情を話す事務官が目の前にいるのも忘れ思わず心の声が漏れてしまう。
「確か…天界のご友人に宴会に呼ばれているとかで、何やら温泉地へ行って存分に骨休めしてくるそうですな」
 こちらがくそ暑い中働いているときに、奴はのんきに温泉で汗を流しているのだ。そう、私は腹を立てている。すなわち、はらわたが煮えくり返っている。それは同じく煮え立つような地獄の暑さのせいでもある。寝不足なせいでもある。無神経な部下のせいでもある。勝手に休む同僚のせいでもある。だが今大事なことはただ一つ、私、すなわち四季映姫は腹を立てている。

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