Coolier - 新生・東方創想話

働く閻魔様

2016/10/26 09:16:29
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 男は村の起床を知らせる鐘をついていた。私は唖然としてしまった。いや、まぁ確かに今朝は鐘をついたやつを地獄送りにしてやるなんて息巻いたがさすがに冗談。鐘を突いただけで地獄に送っていたら地獄があふれてしまう。しかし鏡も鏡である。映すに事欠いてまさか私の揚げ足をとるようなことをするなんて。そろそろ買い替え時だろうか。その後、鏡には男の善行が次々と映し出される。まぁ、大きな人助けをしたわけではないが真面目に生きてきた、というところであろうか。よし冥界行き。っと、そうだ最後に話を聞いてやらねば、さすがに一言もしゃべらせずに判決を下すのも寝覚めが悪い。巷では私が一言もしゃべらせずに判決を下しているなんてうわさが広がっているがさすがにそこまで非情ではない。おおかた小町が言いふらしているのだろう。
「被告、頭を上げなさい。何か言いたいことはありますか?」
男はゆっくりと顔を上げ私の顔を見て驚いたように言った。
「ホントにきれいなお方だ…」
 私は男を冷たい目で見降ろしていた。この男どうやら私をおだてて判決をいい方向にもっていこうという算段のようだ。閻魔も甘く見られたものだ。やはり地獄行きにしよう。そう決めて口を開きかけたとき、男が再び話し出した。
「いや、私は閻魔なんて言うと牙が生えていて、大きくて、すごく偉そうな男を想像していたのですが、まさか船頭さんが言う通りだとは思いませんでした」
 まぁ、世間一般に閻魔は恐ろしいものとして伝えられる。そうやって脅して善行を積ませるのが目的だ。しかし、三途の川の船頭が閻魔について話すなんてこちらも到底信じられない。船頭は基本無口である。
「船頭さんが言ってました。もし緑の髪のきれいで説教が長い閻魔に当たったらラッキーだって。何に対しても公平な方で、理由のない罰は下さない方だと」
 ああ、一人いた。おしゃべりな船頭が。私はいい部下を持ったものだ。しかしそう下心なしで褒められると悪い気はしない。無論それで判決を変えたりしないが。ああ、もちろん元の判決、冥界行きである。手元の書類にハンコを押し、席から立ち上がった。
「判決を言い渡します」

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