心地よい眠りからは起床を促す鐘の音でたたき起こされた。時計を見るとまだ三時間しかたっていない。この瞬間、今日鐘を付いた者は地獄行きにすると決めた。まぁ地獄勤務だから鐘をついているのだが。
眠い目をこすりつつシャツに袖を通した。半乾きである。どうやら洗濯担当者も地獄に行きたいらしい。確かに、一日にシャツを4枚変えたのは多かったかもしれない。だが、だとしても、洗濯し乾かして渡すのが仕事ではないか。私のように書類を決裁したり、裁判したりするわけではないのだ。そのことだけでも非常に不愉快だというのに、今日の裁判担当は私だった。別に時間がかかる仕事ではないが、その間の書類の決裁が滞るのだ。すなわち今日も残業が確定する。裁判まであと30分もあるので書類を片づけようと部屋の前の書類入れを見る。なんとまだ空。こっちは空き時間を利用して少しでも書類を片づけようとしているのに事務の連中は7時と決められれば7時きっかりにしか持ってこない。理不尽な怒りかもしれないが、乱暴にドアを閉め中に入る。閉めた風圧で風が股を通って心地よかった。制服がスカートなのは本当に救いだった。おかげで涼しくていい。そして驚愕の事実に気づいてしまった。通常股に風はあたらない。裁判まで25分しかないというのに私は付け忘れた下着をつけるため服をすべて脱がねばならなかった。
何とか裁判開始の時間に間に合い、重々しい雰囲気を作って入場する。こういうものは形が大事なのだ。女だからって舐められるわけにはいかない。扉を開けて目の前の席に着くと、一人目の被告が頭を垂れていた。当然手足は拘束されている。さて、こいつは何をしたのか。最近は鏡を見て事実を把握し、最後に軽く被告の話を聞いて行き先を決めている。薄情に思われるかもしれないが、話を聞くのが私の仕事ではないし、何より後ろが閊えているのだ。それに緊張する空間にいつまでも座らせておくのは被告にとっても、書記官にとってもつらいだろう。それでもたまに、今までで聞いたことのないような奴の話は聞くこともあるが、大抵嘘が混じるので不愉快である。改めて鏡を見るとこの男はキノコを採ろうとして崖から転落死したようである。まぁよくあることである。鏡は死亡原因を映した後はその者の罪となる行動を映し出し、最後にその者の善行を映す。鏡は次にこの男の罪を映すはずである。私は鏡に再び目を向けた。しかし鏡には何も映らない。フム。この男はよほど誠実に生きてきたと見える。罪を犯していないのだから地獄行きの可能性は消えた。とそこに鏡がある情景を映し出す。