Coolier - 新生・東方創想話

No life

2013/12/01 00:05:26
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15606日目

 霊夢が死んだ。いまだに信じられない。まだ五十代だったというのに早くはないかしら。私が前見たときはまだピンピンしてたし、絶対長生きすると思っていたのに……。霊夢の訃報を聞いたときは思わず手に持っていたティーカップを落としてしまうほど衝撃を受けたけど、それ以上にお嬢様の方が心配になった。
 葬式には、今まで霊夢が顔を合わせた人妖がほとんど揃っていた。ああ、こんなにも霊夢は愛されていたんだなぁってしみじみとしたものだわ。今代の博麗の巫女の目には、これからの道標を失って、どうしたらいいのかわからないという深い不安が宿っていた。無理もない。だってあの子は、霊夢の足元にも及ばないほど弱いのだから。でも、確証はないけど大丈夫。あの子の周りにも、霊夢と同じようにたくさんの仲間がいるんだもの。力は継げなかったけど、人を惹き付ける力は霊夢譲りだから。
 魔理沙や早苗は怖いほどの無表情で。気持ちは痛いほどわかる。だけど多分、霊夢は、いつまでも私たちがずるずると引き摺ることをよしとしないだろうことは、暗黙の内に理解している。だから、二人も、私も、今まで通りの暮らしに戻らなきゃいけない。
 さて、肝心のお嬢様の話だけど、それは酷い荒みようだったわ。霊夢の死に顔を見るや否や、すぐに神社を飛び出してしまった。紅魔館に戻って自室に籠ったきり、誰も私も部屋にいれようとはしなかった。夜になってようやく、私だけは許されたのだけど、部屋の中はもうめちゃくちゃに荒れていた。唯一原型を留めているベッドにお嬢様はうずくまり、静かに泣いていらした。私がその隣に座ると、お嬢様はいきなり私に抱きついてきた。長々と心の内を吐露されていたのを要約すると、霊夢の代わりはいないってことだった。
 死因もはっきりとしないし、受け入れられなかったのだろう。もしかしたら、霊夢はその身に秘めていた力のせいで命が削られていたのではないかと思うと、私たちの手が届かないところに原因があるせいでむしろ余計に惨めになってきたわ。いけないいけない。
 ……でもお嬢様の傷はいつか癒えるし、その長い生涯の中でもしかしたら、霊夢と並ぶくらい面白いやつも出てくるかもしれない。今はああやって吐き出しておいた方が、後々のことを考えると楽なのよね。きっとそう。でもお嬢様は次にこうおっしゃられたの。咲夜、お前を失うことの方がもっと怖い。霊夢の死に顔を見て、咲夜のことを連想してしまって私はあの場所から逃げ出したんだ。だから、お願いだから私の眷族になれ。不死身になれるぞ。……と。
 お嬢様の姿を見ていたら心が痛んで、だけど私の決心は揺らがなかった。不死よりも、人間のままお嬢様と時を歩むことができれば、私は幸せなのですから。お嬢様に、馬鹿、と言われてしまいましたけど。

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