8000日目
今日ほどはっきりと、お嬢様に迫られたのは初めてかも。お嬢様を就寝前に着替えさせて、退室しようかと思ったら呼び止められた。お嬢様は気丈に振る舞うこともせず、自分の心をそのまま吐き出すように、私に眷族にならないかと訊いてきた。まるで、見た目相応の女の子のようで、少し胸が痛んだけど、私は丁寧にお断りした。そうしたら、お嬢様は目尻に涙を溜めて、無理矢理な笑顔を浮かべて、そう、と一言だけ呟いた。
見ていられなかったわね。そのままお嬢様はふて寝しようとなさったけど、私はお嬢様を抱き締めてあげた。もちろん時間を止めて。だってお嬢様の事、多分嫌がったでしょうし。予想通り少しだけ抵抗して、だけどすぐにそれも収まった。静かに私は肩を震わせるお嬢様を包んで、お嬢様も私の背中にお手を回してくださった。あのときの温もりは、まだ体に残っているわ。そしてお嬢様がお眠りになるまで、ずっとこのままで。
……申し訳ありませんお嬢様。こんな聞き分けのないメイドを許してくださらなくても構いません。だけどせめて、私が死ぬまではずっとお嬢様と一緒にいたいです。それだけが私の、たった一つのわがままです。