Coolier - 新生・東方創想話

No life

2013/12/01 00:05:26
最終更新
サイズ
21.21KB
ページ数
26
閲覧数
8288
評価数
17/58
POINT
3490
Rate
11.92

分類タグ



29200日目

 昨日咲夜が死んだ。だから代筆しているのは私、レミリア・スカーレットだ。咲夜の願い通り、この日記帳を埋めようと思う。咲夜はペンを持ったまま息絶えていた。最初は何か考え事をしているのかと思ったけど、そんなものただの現実逃避でしかなかった。運命を変えることなんてできなかった。私は無力だ。
 咲夜、お前に名前を与えたとき、私はお前が辿ることになる数奇な運命に胸を躍らせていたよ。こいつは面白いことになるな、とね。やっぱり思った通りだった。時間が経てば経つほど、お前は私にとって大きな存在になっていた。衣食住が揃っていれば何処でもよかったみたいなことを言っていたらしいと知ったときは少しショックだったがな。ただ、お前が少し他人に冷たいことが不満だった。冷たいというよりは、他人に興味がないようだったみたいだが、それが少しつまらなくて、私はお前に日記を渡した。周りに目を向けるようになれば、また楽しくなるぞっていう期待を込めて。お前が私に日記を見せることを躊躇ったとき、着実に成長していることがわかって私は満足したものさ。つまるところ、私は自己満足するために日記を書かせていたのさ。全く我ながらひどいと思うね。
 だけど、お前が本心から私を慕っていてくれる内に、そんなものはどこかへ吹き飛んで、純粋にお前が欲しくなった。眷族になれって誘ってもお前は断ったけどな。予想してたことだけど、やっぱり悲しいものは悲しいんだ。私は人間であり続けるお前が欲しかったんだけど、最後まで素直になれなくて、なんだか悪いわね。
 お前が書いていた七十九冊にパチェに保護の魔法をかけてもらった。これも書き終わったらかけてもらう予定だ。たった八十冊じゃ図書館の棚の半分も埋まらなくて、でも図書館はおろかこの館、幻想郷を満たしてもまだ足らないほどの思い出が詰まっている。やっぱり人間ってのは面白く、それでいて残酷だ。これからずっとお前は私の傍にいないんだから。……いいや違うな。
 お前はいる。この日記の中にいる。館の中にいる。私たち全員の中にいる。だって、脳裏にはお前の顔がすぐに浮かんでくるんだからな。何を言われるかも一言一句わかる。百年先、千年先、いつだって鮮明に思い出せる。お前は期せずして不死を手に入れているよ。人間が不死になるっていうのは、そういうことだろう?
 ……お前への思いを綴っていたら、何年かかるか知れないな。だから心の内に留めておこう。吸血鬼はずっと変わらないまま、前に進み続けるのだから、心配はいらない。

 ありがとう、咲夜。お疲れ様。







コメントは最後のページに表示されます。