【宿屋:玄関口】
「これで最後、っと…」
数回に分けて運んだ荷物も後は軽く抱えられる量だった
「お嬢ちゃん」
「?」
振り返ると、女将さんがヒトの手で野良猫に餌をやりながら、長い蜘蛛の脚で私に酒壺を突き出した
人の胴程はある、酒壺としては大きくも小さくもない酒壺
「…頂けるんですか?」
「久しぶりの新顔さんだからね 私は呑まないし、やるよ」
「…どうも」
蓋をしてるのにいい匂いが漂って来る
「…白い方のお嬢ちゃんは」
「?」
「色々と苦労して来たみたいだねぇ?」
「はぇ?」
白い野良猫は立ち去り、壁を登って行く
「やけに血の臭いが強いし…」
(あー でしょうな)
「あの歳の人間にしちゃ“ここ"の連中みたいな面(ツラ)してたからね」
「……」
女郎達に絡まれた後の咲夜さんの顔を思い出す
「まぁ、幻想郷から来て旧都をほっつき歩く人間がまともな筈無いか」
「……」
「あぁ、風呂ならいつでも入れるよ」
「…分かりました」
残りの荷物と酒壺を抱えまた二階に上がる