Coolier - 新生・東方創想話

■お遣いと浴衣と酒と花火と■

2012/02/23 19:38:31
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【旧都:大通り】



人間達との共存を拒み、幻想郷のルールも性に合わない妖怪達は地下に潜った
先日の間欠泉騒ぎ以来、比較的弾幕ごっこやスペルカードルール、そして地上との交流は増えたが、依然として地下は地上とは一線を画していた

アウトロー、スラム、溜まり場
外れ者や嫌われ者、極悪人等の逃げ込む場所でもあるが、独自のコミュニティや習わしによって治安は保たれていた

価値観や拘束から解放され、むしろ独特の活気となっていた


それが地獄の都、旧都



「さ、咲夜さん…」


「何?」


沢山並ぶ薬草の壺を咲夜さんはリストと見比べていた


「一つ位…持って下さい…」


既に両手は塞がり、頭の上に重ねた購入品が落ちない様にバランスを取りつつ訴えたが


「嫌」


案の定受け流された


「ほ、ほら! このポシェットなんて咲夜さんに似合」
「お嬢様の御召し物よ」


「ぬうぅ……」


頭上にそびえる荷物の塔の根本がガサゴソガサゴソガサゴソと悶え塔が揺れる


「…これ、二袋お願い」


屋台の妖怪が手慣れた手つきで薬を紙袋に入れ、突き出す


「ありがと」


袋を受け取り、その手に代金を乗せた


「……」

「……」


その際、何とも言い難い暗く、重い視線を向けられた


「ありがとう」


そこは咲夜さん

お手本の様な笑顔でやり過ごす


「咲夜さん」


「何?」


「気付いてると思いまアムッ!?」


「当然よ」


紙袋二つの端を口に入れられた



「予想はしてたけど…結構あからさまに仕掛けてくるのね」


振り向いた先では、旧都の妖怪達が私達を取り囲んでいた


第三者からしてみればメイド゙服とチャイナ服はこの旧都ではかなり浮いていた様だ

やはり、余所者を歓迎するような場所ではなかった


「…何か?」


やはりお手本の笑顔で問い掛ける

取り巻き達は値踏みする様な、いつでも飛び掛かれそうな殺気に近いものを放っていた


「地上の方ぁ?」


着物を着崩し、口に紅を塗った女郎らしき女が手に煙管をユラユラと近寄って来た


「えぇ」


「そちらの荷物持ちさんは置いといて…」


「ウぇ?」


「あなた、人間じゃなくて?」


咲夜さんの全身を舐める様に眺める

一歩で踏み込める様に気を練ろうとしたが、咲夜さんに背中で止められた


「…えぇ」


「ふぅぅぅん……結構な上玉じゃない」


取り巻き連中からも含み笑いが聞こえる気がする


女郎は煙管をくわえて続けた


「ちょいとウチに来て働いてみないかい?見た所どっかの使用人みたいだけど、そこよりは良い目見させて」


コンッ


「あげ…」


女郎の煙管が木管と金管の境でスッパリと切れていた


「申し訳ありませんが」


…咲夜さんがナイフを太股に戻した


「私の居場所は紅魔館…仕える主はお嬢様だけですので」


取り巻きの熱気が強まった…


「……ほぉ~ん…?」


女郎は半分になった木管を歯と舌で口に収め、ボリボリと噛み砕き、呑み込んだ


「荷物持ち付けてまで人間に、この旧都にお使い頼む世間知らずなお嬢ちゃんにねぇ?」


女郎の絡み付く言葉も咲夜さんは笑顔で切り裂いた


「仕方ありませんよ こんな薄汚い町が存在するなんて、お嬢様の育ちの中では知りようもありませんから」

「はくやひゃん!!」


「美鈴、物をくわえたまま喋らな」



ジャキンッ!!



「……」


女郎の右の袖から鎌が延び、足元を少しえぐった


「…誰の育ちがどうだか知らないけどさぁ…」


女郎は今までにない笑顔

嗚呼、頭に来てるな


「あんたが分かってないのは間違いなさそうだねぇ?」


全方向から物騒な音と息遣いが聞こえる



「ここがどこで、どんな所か」


女郎の目は、狩りをする蟷螂の目だった


「美鈴」


「ふぁい!?」


「ニ秒作って頂戴、逃げるわよ」


「れひたらひかんをほめて…」


「時間を止めたら貴女も動けないでしょ?」


「、」


「貴女が手放した荷物を時間を止めて私が回収、直後に貴女が稼いだニ秒で逃げるわよ」


「……」


「何ブツブツ言って…!」







カコーーーン………!!








「…あん?」


野次馬、取り巻き、女郎、そして私と咲夜さんが音のした方に振り向く



「……」



緑色の髪を頭の両側で纏めた小柄な少女が釣瓶(つるべ)に入っていた

さっきの音は、彼女が地面に着いた時の音だろうか

少女は申し訳なさそうに頭を下げる


自分の胴体程ももある漆塗りの杯を抱えていた



「ぉぃ、あの餓鬼…」
「つぅかあの杯って…」


「…ゥむ?」


急に周りがうろたえ出した


「…けっ」


ジャギっと鎌が袖に引っ込んだ


「興醒めだわ…帰るよ」


落ちた金管を広い、女郎はユラユラと立ち去った


周りの連中もこちらを睨みつつ立ち去って行く



「美鈴」


「?ッはい?」


咲夜さんが口から紙袋を取る


「行くわよ」


「?……は、い…」






擦れ違い様に見えた咲夜さんは笑っている様に見えた


自嘲してる様な、呆れてるような笑顔だった


カコンッ カコンッ カコンッ


「?」

「美…?」


振り返ると、さっきの少女がヒョコヒョコと釣瓶ごと飛び跳ねこっちに近寄って来た


「…?」


杯には紙が一枚


「……」


両手が塞がってて取れない


「何これ?」


咲夜さんが紙を手に取ると…


「…地図みたいですね」


簡単な、手書きの地図


カコンッ カコンッ カコンッ……


「あっ…」


少女はそのまま恥ずかしそうに跳ねて行ってしまった


「何なんでしょう…」


「…行くわよ」


「は、はいっ」


結局荷物は紙袋二つしか減らず両腕と首を酷使して後を追った

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