ここ数年で最悪の目覚めだった。
身体の節々が痛い。
頬っぺたに固い床の感触。
とにかく立ちあがろうとして、
けれど両腕が全然動かなくて、
そのことにギョッとする。
がむしゃらに身体を動かそうとして、
両足も全然動かせないことに気づく。
両手両足を縛られてる!?
【空】っ!!?
何これ、やだ、ちょっと!!?
サーっと血の気が引く音がする。
身体が自由に動かない。
銃を出せない。逃げられない。
殺せない。抗えない。
一瞬でパニックに陥る。
呼吸すらうまくできなくなる。
頭がグルグルして、吐き気が込み上げる。
【???】うるさいなぁ。
あんま騒がないでよね。
気だるそうな女の子の声。
それと同時に椅子が軋むような音。
聞こえてきたのが女の子の声で良かった。
吐きそうな最悪の気分の中、
遠い思考でそんなことを思う。
もしもこれで男の声がしてたら、
冗談じゃなく私は舌を噛んでた。
迷うことなく。
【???】当然の処置だと思わない?
アンタ、私たちを殺そうとした。
生きてて感謝して欲しいくらいだ。
ギィ、と床板を軋ませて、
誰かが私の顔の前にしゃがみ込む。
奥歯を噛み締めながら目線を上げる。
その瞬間、時間が止まったように感じた。
黒髪、黒服の女の子。
ずいぶんと際どいワンピースを着て。
そんな子が目の前でしゃがんでるせいで、
姿勢も相まってパンツが丸見えだった。
わざと見せつけてきてるのかと思うほど。
フリル付きのピンクで可愛らしい。
硬い表情とのギャップがあまりに激しい。
思わず絶句しているのを、
落ち着いたと勘違いしたのか、
彼女はパンツ丸出しでため息を吐いて、
【???】ぬえ。私の名前。
アンタは空だってね。
連れの子に聞いた。
【ぬえ】アンタ、何しに来た?
この街に。
空白になった思考に
鋭く質問が差し込まれて、ハッとする。
目を見て話したかったけど、
体制的に難しい。仕方なく、
目の前のパンツを見つめたまま、
【空】……DeSの出所が、
この街だって聞いたの。
だから、調査しに。
【ぬえ】誰が言った?
そんなこと。
【空】言わないよ。
これでもプロだから。
【ぬえ】自分の立場、判ってる?
私がその気になれば、
今からでも死ねるんだけど。
金属が床板を擦る音がする。
首筋に冷たく硬質な感触。
怖くはなかった。
パンツのせいもあるけど、
それだけじゃなくて。
【空】それ、本当に知りたいこと?
タレコミしたのが誰かとか、
本当に興味ある?
【ぬえ】…………。
首筋に当たる得物越しに、
わずかな動揺を感じた。
確証があった訳じゃない。
でも、違和感はあった。
本気で脅してない、みたいな。
ややあって、得物が首筋から離れる。
ぬえが面倒くさそうにため息を吐いて、
【ぬえ】まぁね。そんなの興味ない。
DeSのことは、私もよく判らない。
どうでもいい。知りたくもない。
【ぬえ】知りたかったのは、アンタのこと。
話ができるのか。交渉の余地はあるか。
それを確認したかった。
【空】交渉? 私と?
【ぬえ】正確には、アンタたちと。
この街の状況は、もう判った?
【空】ぜんぜん判らないよ。
天使が出たり、化け物が出たり、
ワケが判らない。
【空】清貧な仏教徒たちが、
信仰を拠り所にして、
ひっそり生きてるって聞いたのに。
【ぬえ】アンタたちは天使って呼ぶんだね。
さとりもそう呼んでた。
ため息を吐いたぬえは、
得物を肩に担ぐようにして、
【ぬえ】私たちは、
アレを『獣』って呼んでる。
大きいのも、小さいのも。
【ぬえ】ここが仏教徒の街なのは本当。
正確には、仏教を信奉してた指導者に
惹かれた奴らだと思うけどね。
【ぬえ】基本的には、仏教徒の街で良い。
ただし、この街ではどういうわけか、
仏罰が異常なほど覿面に現れる。
【ぬえ】アンタたちの前で、
信徒のひとりが獣に変わったんでしょ?
アレがそう。この街を統べる理。
【ぬえ】悪心を抱くと、獣になる。
だから誰も彼も、信仰に必死になる。
アンタたちも気を付けな。
【空】え、怖。
なんで街から出ないの?
そんな怖いことになるのに。
【ぬえ】酷なこと言うね。
この街に流れ着いたのなんて、
他の街で生きられない食い詰めものだよ。
【ぬえ】力が弱い。意志が弱い。
優しすぎる。他のやつを傷つけられない。
そんな連中が助け合って生きてる。
【ぬえ】他に行く場所がないんだ。
けどこの街なら、助けてもらえる。
たとえ、仏罰が目を光らせてても。
その説明で、色々と納得できた。
目の前でいきなり天使になった蜥蜴も。
ターミナルに集まっていた妖怪たちも。
言うなればあれは相互互助会で、
外からくる連中を助けることで
仏罰とやらを回避しようとしてたわけだ。
結果的には、どういうわけか
あの蜥蜴も、仏罰の餌食にはなったけど。
【空】で、交渉って?
【ぬえ】話が早いね。
頭が回るのか、何も考えてないのか。
まぁ、どっちでもいいけど。
【ぬえ】いまこの街では、
三体の巨大な獣たちが暴れてる。
【ぬえ】アンタたちも会った奴らさ。
虎の獣。拳の獣。血の獣。
【ぬえ】どいつもこいつも、
私たちの連れでね。
できれば救ってやりたい。
【ぬえ】私たちができれば良いんだけど、
どうにも攻撃が効かないんだよね。
暴れるのを邪魔するくらいが精々。
【ぬえ】だけど、アンタたちの攻撃は、
どうもアイツらにも効きそうだ。
だから協力して欲しいな、って。
【空】私が首を縦に振ったら、
アナタは私の縄を解いてくれる?
【空】それだけ?
【ぬえ】いや、流石にそこまで
厚かましくないつもり。
DeSのこと、調べてるんでしょ?
【ぬえ】心当たりがある。
協力してくれるなら、
情報を提供しても良い。
【ぬえ】それでどう?
【空】なるほどね。
因みに、さとりは何て言ってる?
【ぬえ】全面的に協力してくれるらしい。
あの子には、獣ーー天使か。
天使を元に戻す方法があるんだってね。
【ぬえ】自分がやるべき仕事だって、
そう言ってたよ。
ただ、アンタの許可は得たいみたい。
【空】ありがと。状況は判った。
【空】縄を解いてくれる?
協力する。
【ぬえ】良かった。
思ってたより、ちゃんと話が通じた。
【ぬえ】まったく、面倒だなぁ、もう。
私、こういうキャラじゃないってのに。
交渉とか、協力とかさぁ。
【???】ーーいいじゃないか。
アウトサイダー気取りも、
インサイドが居てこそだ。
スイングドアの蝶番が軋む音。
ぬえのパンツが大部分を占める
視界の脇から誰かが入ってくる。
見たところ、ネズミの妖怪。
逆にあれでネズミが関係なかったら
ちょっと引くレベルの判りやすさ。
ぬえよりも一回り小さい彼女は、
私を見下ろしたかと思うと、
フン、と尊大に鼻を鳴らして、
【???】……獣もろとも我々を
消し飛ばそうとした狂人には、
とてもじゃないが見えないね。
【ぬえ】かと言って、
心優しい花屋さんにも
見えないけどね。
【???】同感だ。
小動物の勘が全力で言ってるよ。
関わり合いになるな、とね。
そう肩を竦める彼女の側に、
薄桃色の煙が立ち込める。
煙はフワフワと形を変えたかと思うと、
ポン、という小気味のいい音がして、
親指を上げた手の形になった。
【ぬえ】そこのネズミはナズーリン。
で、ピンクの雲が雲山。
【ぬえ】何か質問はある?
答えられる範囲なら、答えるけど。
【空】さとりはどこ?
【ナズーリン】向こうの部屋で休んでるよ。
ナズーリンが言うと、
傍らの雲山がスイングドアの
向こうを指し示して、
【ナズーリン】かなり消耗が激しい。
すぐには動けないだろうね。
【ナズーリン】まぁ、君たち、
どっちも丸一日は寝てたが。
【ナズーリン】派手な能力なだけに、
ずいぶん燃費は悪そうだ。
【空】丸一日……。
口にした言葉の歯触りの悪さに
暗澹たる気分になる。
初めてのときは丸三日。
そして今回は丸一日。
たったの一日。
それだけの代償で済んでしまった。
良い兆候なワケがない。
きっと思ってる以上に
私の身体は力に適応してしまってる。
恍惚の残滓。
澱のように淀む甘い悦楽の余韻。
匂い立つ破滅の予兆。
くすくす。笑い声が聞こえた気がした。
それが思い込みなのか幻聴なのか。
今の私には判断できそうになかった。
【ナズーリン】どうかしたかい?
青ざめたように見える。
【空】何でもない。
ぬえ、アナタに聞きたいことがある。
【ぬえ】ん? ご指名?
なに?
【空】……パンツ。
もしかして、わざと見せてる?
【ぬえ】は?
……。
【ぬえ】…………?
【ぬえ】……〜ッ!!?
それまで平気でしゃがんでいた彼女が、
声にならない声をあげながら、
ガバッと立ち上がる。
スカートを抑える。
お尻を突き出しながら後退りする。
顔を赤くして睨んでくる。
【ぬえ】……っ、早く言ってよ!
えっち、ばかっ。
【空】いや……。
何か意味があるのかな、って。
【ぬえ】意味なんてないわよ!
ヒトを特殊性癖みたいにっ。
【ナズーリン】む? 違うのかい?
【ナズーリン】雲山も言ってるよ。
【ナズーリン】ーー如何なものかと思ったが、
強く否定することもできなんだ。
【ぬえ】違う! ばか!
馬鹿にして! 嫌い!
【空】……ふふ。
ちょっと元気出た。
【ぬえ】あぁ!? なに!?
【空】何でもない。
縄、解いてよ。
私、いつまでこのまま?
【ぬえ】ったく……。
ナズ、解いてやって。
【ナズーリン】ワガママなお姫様だね。君は。
【ナズーリン】まぁ、構わないよ。
どこかのご主人より、
ずっと心労は少ないしね。
生意気な顔で肩を竦めたナズーリンが、
私の縄を解いてくれる。
縄が食い込んでた部分が痛い。
私は立ち上がって身体の動きを確認しつつ、
コートについていた埃を払う。
ポケットに煙草は入ってたし、
ホルスターの銃もそのままだった。
ホッとしつつ煙草を咥える。
【ナズーリン】……君たちが特別な力を
持っていたとしても、
道のりは簡単じゃない。
私が吐いた煙を、
パタパタと手で払った彼女が、
心底嫌そうな顔で言う。
【ナズーリン】獣たちは、我々に積極的に
攻撃してくることはない。
【ナズーリン】かつて同胞だったことを、
きっと無意識のうちに覚えてるんだろう。
だが、君たちはそうじゃない。
【ナズーリン】どんな暴れ方をするか、
想像もつかない。
心構えはしとくんだね。
【空】忠告ありがとう。
煙草、嫌い?
【ナズーリン】好きなように見えるかい?
【空】ぜんぜん。
【ナズーリン】そうだろうね。
本当は我々のアジトの外で
吸って欲しいところだよ。
【空】大目に見て欲しいな。
寝起きで我慢の限界だったから。
【ナズーリン】口うるさく言うつもりはないよ。
君に歯向かって焼きネズミになるのは
ゴメンだからね。
ため息混じりに言って、
彼女はくるりと踵を返す。
スイングドアを開けながら、
【ナズーリン】獣たちの位置を探知してくる。
【ぬえ】それ、ここにいてもできるじゃん。
【ナズーリン】うるさいなぁ。建前だよ。
ちょっと新鮮な空気を吸いに行くんだ。
せっかく気を回したってのに。
【ぬえ】ナズは小心者だなぁ。
【ナズーリン】ネズミの心臓が小さいのは
道理だろうに。
【ナズーリン】空。連れが起きたら作戦開始だ。
君たちには期待してるよ。
【ナズーリン】獣のこともそうだが、
あの忌々しい薬のこともね。
言って、彼女が部屋を後にする。
一瞬、それが何を指しているか
意味を測りかねていた私にぬえが、
【ぬえ】仏教的にNGらしいんだよね。DeS。
【ぬえ】アイツ毘沙門天の直属だからか、
ヒトを堕落させるものが嫌いみたい。
煙草嫌いもそれが原因だと思う。
言うと、傍らでピンクの拳が
親指を下に向けた。
雲山的にもNGらしい。
そのNGの範囲に煙草も含まれるかまでは、
読み取ることはできなかったけど。
すると、雲山が私に手招きをして、
スイングドアの向こうを指差す。
外で吸えってことかな?
と首を傾げていると、
ぬえが横から頭を突っ込んできて、
【ぬえ】うん、なになに……なるほどね。
【ぬえ】ーー連れの様子を見るか?
【ぬえ】だって。
いいじゃん。見てきなよ。
寝てるかもしれないけどさ。
ぬえが言うと、雲山が親指を立てた。
気を遣ってくれたのかもしれない。
私が不安じゃなかろうか、と。
ゴツい拳だけど、優しいのだろう。
私は小さく頭を下げる。
【空】うん。そうする。
【ぬえ】奥の扉ね。
【空】ありがとう。
ぬえと雲山を残して、
教えてもらった部屋へ。
ぬえやナズーリンには、
雲山の声が聞こえるんだろうか。
少なくとも私には何も聞こえない。
ともあれ、目的はできた。
あの獣たちを大人しくさせること。
彼女たちの仲間を救うこと。
そうすれば、DeSについて判るかもしれない。
でもーー
【空】(ーー少なくとも、私は何もできない)
ぬえたちは、私とさとりの力を見た。
現象数式。時計閻魔の力の片鱗を。
天使にさえ通じる力。
むしろ、天使にこそ通じる力。
外なる神の権能を、此岸の力じゃ砕けない。
でも私は、砕く以外の力を使えない。
相対するものを焼き尽くすことしか。
それじゃ駄目なことは判ってる。
……本当は、あの時も。
他の方法で、何とかできたら良かったのに。
だから、頼りになるのはさとりだけ。
私を天使から戻した、閻魔代行だけ。
すべては、さとりの力に懸かってる。
それに私は、もう力に頼るべきじゃない。
あの力の絶大さに縋ってはいけない。
頭では判ってる。
でも、いざという時、
今と同じ判断ができるかは判らない。
【燐】『死んでもいいと思ってたんだろ!!?
遺言めいたことまで言ってさぁ!!』
お燐の罵声が脳裏をよぎる。
私には判らない。あの時も。今も。
どうして駄目だと言われるのか、
本気で理解できない。
死にたくはないと思う。思った。
天使になって、戻ってきたあの時に。
でも、それは私の感傷に過ぎないとも思う。
命を使える場面であるなら、
私の命なんて、間違いなく使うべきだ。
躊躇うことなく。
私は殺し屋だ。
私は命の価値を理解してる。
ほとんどの場合、それは
取るに足らない程度の金にも劣る。
今更、自分だけ命の価値を叫ぶ気はない。
私が今日を生きているのは、
昨日、死ななかったからなのだから。
ただ、それだけなのだから。
【空】ーーさとり。起きてる?
ドアをノックして、中に入る。
粗末な布団に、横になる彼女がいた。
【さとり】…………。
【空】…………。
起きていた。目が合った。
でも、逸らされた。
怒ってる?
それはそうかもしれない。
せっかく私の中に封じ込めたモノが、
意図せず蘇ってしまったのだから。
私が三和土で煙草を踏み消すと、
彼女は視線を逸らしたまま、
【さとり】……こんなに不安なんですね。
心の読めないヒトとの沈黙って……。
【空】そうだね。不安だね。
【空】私もそうだよ。
だから、銃が手放せない。
【空】これさえあれば、
自分が死ぬことはないから。
【さとり】死ぬことは、怖いですか。
【空】怖いよ。
【空】だけど、それより怖いこともある。
死ぬ自由すらなくなること。
【さとり】……そうですね。
馬鹿な質問でした。許してください。
【空】怒ってないよ。
【さとり】そうは思えません。
言って、さとりがこちらを向く。
弱々しい、儚げな表情。
まるで年相応のちっぽけな少女のような。
ーーあの日の私のような。
【さとり】私が、判断を誤りました。
私が弱かったから。
私の力が足りなかったから。
【さとり】あなたに業を背負わせてしまった。
閻魔代行失格です……!
震える声で言う。
彼女の瞳に涙が浮かび、溢れる。
びっくりする。
思わずたじろいでしまう。
今の今まで考えもしなかった。
私が彼女に背負わせてしまった罪の重さ。
こんな気持ちを押し隠してたのか。
それを今まで私に勘付かせることもなく。
私だけが背負ったつもりだった。
私だけが捨てたつもりだった。
罪も罰も。自分の命も。
命なんて、そんな大層なモノじゃない。
私にはそれが判ってる。
ただ、呼吸が止まるだけ。
ただ、意識がなくなるだけ。
それだけの物だと判ってる。
なのに、お燐もさとりも、
勝手に私の命を背負ってしまう。
背負って、その重さに喘いでしまう。
そしてそれを理由に、
自分の命を軽く扱う私が顰蹙を買う。
迷惑なことこの上ないな、って思う。
でも私はそれを否定しない。
何故なら、私が背負う他人の命も重いから。
軽く扱われたら、嫌な気持ちになるから。
勝手だと思う。
一貫してないとも思う。
でも、いいんだ。
私は馬鹿だから。
矛盾してたって。
【空】……私は、さとりに怒られると思ってた。
上り框に腰掛けて、小さく息を吐く。
彼女の泣き顔を見ないように、背を向けて。
【空】あのとき、決断したのは私。
天使に戻ることを決めたのは私。
死んでも良いって思ったのも私。
【空】全部の責任は私にあると思ってた。
さっきのことも責任は私が取るべき。
だから、その責任を追及されるって。
【空】馬鹿だよね。
私、自分の外側のこと、何も見えない。
何も判らない。知ろうともしない。
【空】さとりに罪悪感があるなんて、
今の瞬間まで考えもしなかった。
【空】だからさ、こうしようよ。
【空】私のことはその辺にいる動物だとでも
思ってもらって、もう全部何も気にしないとか。
【さとり】できるわけないじゃないですか。
何を馬鹿なことを。
【空】あれ? 駄目だった?
【空】気にしなくて良いよって、
言いたかったんだけど……。
【さとり】駄目に決まってます。
私には私の責任があります。
【さとり】お空さんのそれは、責任の放棄です。
その提案を受けることはできません。
【空】うーん、困ったな……。
【空】それじゃ、あとは私の責任を
全部引き受けてもらうくらいしか……。
【空】その辺の動物じゃなく、
きちんとしたペットとして。
なーんて。
【さとり】…………。
【空】あ、あれ?
どうかした?
冗談のつもりで、
というかブラックジョークのつもりで
言ったのに、返事がなくて焦る。
思わず振り返る。
さとりはもう泣いてなかった。
真剣に、何か思案顔で。
【さとり】……いいですね。それ。
【空】え、マジで?
【さとり】マジです。
【空】えぇ〜……。
どうしよう。冗談なのに。
笑って流して欲しかったのに。
というか、普通に嫌だ。
馬鹿でも動物でも良いけど、
ペットだけは絶対に嫌だ。
でも、自分で言ったことを
否定できる空気でもない。
あたふたアワアワしてると、
【さとり】……くす。
さとりが小さく笑って、
私をまっすぐ見つめたかと思うと、
ややあって身体を起こして、
【さとり】ペット扱いはできませんよ。
アナタもそれだけは嫌な筈ですし。
【さとり】ただ、全部背負うというのは、
気に入りました。
【さとり】それくらいの覚悟が無いと。
私も、甘かったみたいです。
【さとり】誰からも嫌われてこそ、
さとり妖怪の本領発揮だというのに。
【空】それもそれで極端な気もするけど……。
【さとり】良いでしょう。お空さん。
アナタの罪、アナタの業、アナタの責任。
【さとり】これから、すべて私のものです。
覚悟してくださいね。
そう言って、
さとりが立ち上がる。
そこに迷いはないようだった。
そこに憂いもないようだった。
心が読めない私でも判った。
それは口先だけの浅い覚悟じゃない。
本当の本当に、全部を背負うつもりだ。
古明地さとりとしての一挙手一投足に。
閻魔代行としての思考と行動に。
とんでもない重荷を背負うと決めて。
そうして動く彼女は、
むしろ今までよりもずっと活き活きとして。
【さとり】さぁ、お空さんーー
威風堂々としたさとりが、
閻魔の悔悟の棒を手に晴れ晴れと言う。
【さとり】ーー獣を調伏しましょう。
危うさが現れていて好きです。(金貨0枚か500枚の2択の仕事を即決で受けたことに対してさとりがツッコミを入れたシーン等)
さとりが読心の能力を失った理由、パルスィの思惑等含めて、今後の展開が気になります。
いいところで終わってくれやがったせいで続きがものすごく気になりました
待ちに待った白蓮教徒の町ですが、ブディストどもが駅で出迎えてくれたところで一気に期待が膨らみ、そこからカジュアルに天使化する勢いが素晴らしかったです