【パルスィ】あ〜あ。
知り合いを売ってしまったわ。
憎まれたらどうしましょ。
空の居なくなったバー・フレキャダンにて、
パルスィがほくそ笑みながらひとりごちる。
彼女の他に誰も聞く者はなかった。
ただひとり招いた客が店を出て、
バーには彼女がひとりだけ。
新たな客人の姿もなかった。
Closedを知らせる札もそのままに。
なのに、パルスィは言葉を紡ぐ。
恍惚と言えるほど、喜色満面に。
まるでーーそう、まるで、
誰かに語りかけているかのように。
【パルスィ】ずっと赤の女王に傅いてる癖に、
興味があるときだけ、
都合よく指示してきて。
【パルスィ】嫌だったけど、従ってあげたわ。
なんせ私、巫女だもの。
たまの我儘くらい、聞かなくちゃ。
【パルスィ】嫌なのよ? 本当に。
せっかくのお客さんを、
カミサマの生贄にするようなこと。
口ではそう言いながら、
彼女は笑っていた。
ーー否、嘲笑っていた。
まるで、虚空に浮かぶ月のように。
まるで、いと高き無貌の神のように。
そこには誰もいない。
その言葉を聞く者は、誰も。
漂う虚無の気配を除けば、何も。
チクタク。時計の音がする。
チクタク。喝采の予兆を讃えて。
チクタク。互いの歯車を複雑に絡ませて。
【パルスィ】でも、見ものね。
堕ちた御仏の加護跋扈する彼の地で
最後に立っているのは誰なのかしら。
【パルスィ】精々、頑張ってね。殺し屋さん。
彼女、きっと全力で抗うわ。
これまで積み上げたすべてを無為にしてでも。
【パルスィ】妬ましいわ。あぁ、妬ましい。
カタストロフのその瞬間に、
立ち会うことができる無辜の妖怪たちが。
【パルスィ】きっと鳥肌ものの快楽でしょう。
ひとつの世界が、ひとつの律が、
崩壊する様を見るなんて。
パルスィが笑う。パルスィが嘲笑う。
まるで開演を知らせるブザーを聞いた
客席の少女のように。
踊れ、踊れ、役者たち。
強欲と怠惰の御旗を掲げて。
その旗の主も認識しないまま。
根源から分かたれた7つの大罪。
争い、奪い合い、白き罰を導く道標。
いずれ舞い降りる<原初の大罪(シン)>の褥。
破滅の予兆を嘲笑い、
嘆きの結末を嘲笑う神に代わり、
彼女は小さく告げるのだ。
【パルスィ】ーーあぁ、願わくば。
【パルスィ】甘く芳しい死の香りを、
アナタに。