「パチェ、ちょっといいかしら」
我が館の大図書館で、私は友人に声をかけた。
「何、レミィ?」
「はい、これ」
私は、動揺と後ろめたさを悟られまいと慎重に、そっけないフリをして三冊の本をパチェに渡した。
「これは…」
「魔力を帯びた『博物誌』、この国の失われた史書、最新の予言の書よ。ほら、今日は私たちの記念日じゃない。私たちが出会った日の」
パチェは私から本を受け取ると、それをまじまじと見つめた。そして、魔法の力でそれらを浮かび上がらせると、それぞれを本棚にしまった。
「なるほど、魔理沙たちが来ていたのはそういう訳ね」
「うっ。な、なんのことかしら」
「忘れてたでしょ、記念日。だから慌てて魔理沙と霊夢のところの居候に私の気に入りそうなものを捜させた。違う?」
冷汗が止まらない。
「ち、違うのよ。あなたのことを大事に思っている気持ちに変わりはないの。ただ色々忙しくて。気づいたら記念日が迫っていて。私自ら探しにいっても良かったんだけど、ほら、私が動くと色々と目立つでしょ。咲夜にも負担をかけるし。あんまり私とか咲夜がばたばたして、あなたに心配かけてもまずいし、サプライズ感が薄れちゃうし…」
パチェから視線を外しながら、あれこれと言い訳をする。一生の不覚だ。でも、何百年も生きていると、たまに、そういうことがあると思うの。すると、私の醜い言い訳を聞いていたパチェが、突然ふふと笑いだした。
「まあ、私も同罪なんだけれどね。はい、レミィ」
そういってパチェから手渡されたのは、真っ赤な輝きを放つ宝石だった。
「実は私もすっかり記念日のことを忘れていて。ちょうど貴女が魔理沙たちを呼び寄せた日に思い出したの。喘息がひどくてディナーに出れないっていうのは嘘。図書館に籠って、ずっと魔法でこれを作っていたわ」
「…お互い記念日を忘れていたなんて、そんなことがあるのね」
それから私たちはお互い顔を見合わせて笑った。これからも、ずっとこの親友といられますように。柄でもなく、何かに祈った。