Coolier - 新生・東方創想話

情緒不安定乙女と口下手店主

2020/07/18 17:34:57
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「ふぁぁ……ぁ」

翌朝、魔理沙はまどろみながらごろんと寝返りを打った。途端に、目の前に霖之助の顔がある。
「わぁっ!」

スズメがちゅんちゅん鳴いていて、木々のざわめきが聞こえてくる。
彼の寝顔はとっても安らかで、今日の一日を楽しみにしているようにも見えた。僅かに空いた口から、寝息が聞こえてくる。
メガネは外していて、枕元に置かれていた。
「こーりん、朝だぞー」

ゆさゆさと肩を揺らしてみるが、起きる気配はない。その寝顔をずっと見ていると、とくとくとまた心が小さく高鳴ってくる。
「いつまでも起きないと、おはようのちゅーしちゃうぞー?」

小声で話しかけてみる。返事はない。すぅすぅ息が漏れて、身体が静かに動くことすら感じられる。
魔理沙は震えながら唇を近付けて──急に霖之助から腕を回された。
「キスするなら僕の方からって決めてたからね」

驚くヒマすらなかった。
彼の目がぱっちり開いて、唇を塞がれた。背筋がピンと立って、彼の瞳へ釘付けになる。
「んむっ……んんぅ……っ!」

次第に頭がとろんとしてきて、彼のキスに身を任せる。
永遠とも思える時間が経って、ようやく唇が離れた。
「昨日は『気のせい』なんて言ってしまったが、ここまで来たらどんな朴念仁でも確信できるぞ?」

もしかして夢でも見てるんじゃないかと、小さく震える。彼はそんな魔理沙の手に指を絡めて、もう一回キスをしてきた。
頭が真っ白になる。
ちゅぱ、と唇が小さな水音を立てた。
「僕のこと、名前で呼んでくれてもいいかい?」
「え? ふぇぇぇ」

いっつも「こーりん」か、下手すれば「お前」だった。ちょっと霊夢が羨ましいこともあった。
でも、今ここで呼べだなんて!
「り、りり、りりり……りんの、すけ」
「はい、よくできました」

つっかえながら名前を呼ぶ。ぼっと顔から火が出た気分だ。
すると彼は頭を撫でてくれた。そして抱き締めてくれる。毎日の繰り返しのようでいて、今日は本当に、特別に、とっても、嬉しい。
髪を梳かれながら彼の胸の中に収まっていると、声をかけられた。
「すまないな。僕自身の気持ちも、ずっと前から薄々勘付いてはいた。見ないふりをしていた。魔理沙とは長い付き合いだからね、感覚がマヒしていたんだと思う。でも今ので僕にもようやく踏ん切りがついた」
「へへ、ヘタレだと思ってたけど、男らしいところもあるんだな、こー……い、いや、りんの、すけ……」

かぁぁ……と頭に血が登る。霖之助は「そういうことも可愛いな」とか言いながら頭を撫で続けてくれた。
嬉しいし、こそばゆいし、色んな感情が弾けてよく分からない。
夢じゃありませんように!
布団の中でしばらくいちゃいちゃした後ようやく起き出して、服を着替えて朝食を作った。
あぁ、何もかもが輝いてみえる!
店を開ける準備をしながら、魔理沙はふと聞いた。
「一つだけ、聞いてもいいか?」

顔を上げる。霖之助が振り向く。
魔理沙はゆっくりと口を開いた。
「あたしは先におばさんになって、おばあちゃんになって、ヨレヨレになって先に死ぬんだ。そんなこと分かってる。それでも……いいのか?」
「そんな先のことは、米寿のお祝いにでもなったらまた考えることだね」

彼はどこ吹く風とばかりに、香霖堂の入口に暖簾をかけている。
おばあちゃんになるまでずっと一緒……ポッと顔を赤くしつつ、ニコニコ顔でお釣りを数えて帳簿と合わせたり、窓を拭いたりして過ごした。
「開店直後からここにいたことはないからな、咲夜とか妖夢が買い物に来た時の顔が楽しみだぜ」
「少し気恥ずかしい感じだな? まぁ、いずれ慣れるさ」

店番は定位置──霖之助のヒザだ。
早く誰かお客さんが来ないかなぁと早くもソワソワし始める。昨日までは「誰も来なければいいのに」くらいに思っていたのに、ここまで風向きが変るなんて思わなかった。
そして昨日の荷物は咲夜のだった。あんぐり開いた口を塞ぐ様子もない。
「お、お嬢様達に伝えておきますね……今度機を見て皆で遊びに来ますわ」

咲夜自身もちょっと顔を赤くしてコホンと咳払いをしつつ、支払いをして出ていった。受け取りは魔理沙。お釣りは霖之助。
「完璧な連携だったな」
「ドッキリだと思われていないといいんだが」

ともあれ、最初のお客さんは対応完了!
ウキウキでうにゃうにゃ霖之助にじゃれついている途中、何故か霖之助は天井を見上げた。
ヒザの上から降ろされる。何事かと一緒に天井を見上げた。
「早速僕らのことをお祝いしてくれる人がいるようだね」

霖之助は近くに転がっていた竹竿を取って、天井をごつんと突いた。天井板が外れて、一羽のカラスが落ちてくる。
「あやややや……お楽しみだったところ邪魔してすみません」
「僕らの結婚式で読み上げるスピーチでも練っていたのかな? 随分気が早いことだね」

文だった。
彼女はカメラを構えたまま、真っ青な顔で口をぱくぱくさせている。
「どこから見ていた? 正直に言えば焼き鳥にはしないぞ」
「ややや焼き鳥? そっそんなぁカラスなんて食べたって美味しくないですよいえ今朝魔理沙さんが起きるちょっと前からええ『文々。新聞』の記者ネットワークは光をも超える速度で伝搬するもんでして」

ってことは、朝のできごとを全部見られていた……?
しばらく霖之助と二人して無言で文と見つめ合い、やがて霖之助がメガネをくいと直した。
「魔理沙。しばらくそっちで厄介になるとしよう」
「了解! こーりんならいくらでも泊めてやるよ!」
「ちゃんと名前で呼んでくれると嬉しいな」
「あいよ、霖之助!」
「おおおお熱いことですねこれはもう是が非でも博麗神社や人里の皆に知らさないといけませんよ幸せのおすそわけってやつでしてあややややぁっ!」

魔理沙はミニ八卦炉を取り出して彼女に突き出した。パチパチと刺激的な虹色の光が踊り始める。
彼女は尻もちを突いたまま後ずさりを始めた。もちろんそんな移動速度で逃げ切れるような弾幕なんて撃つつもりはない!
「ちょっと待って下さい悪気はなかったんですただ幻想郷の日常にちょっとしたスパイスを与える素敵な号外がきっと発行できるだろうって大体あなた達二人の結婚式なら幻想郷中いや月からだって山ほどお祝いに来てくれますよそれにおめでたい話じゃないですか少しくらい見逃してくれたっていいでしょうだからだからだから助け」
「射命丸文、素敵な辞世の句だったよ。しかと聞き届けた。続きは映姫にでも聞いてもらってくれ」
「マスタァァァァ……スパァァァーク!」

***

数日後、文はようやく発見された。
にとりが香霖堂の建て直しで出た廃材をゴミ捨て場まで運んで来た時、そこに埋もれていた。
乙女で可愛い魔理沙が大好きです
こんな感じのド甘な作品をこれからも作っていきたいです
あと紫さんは17歳です、異論は認めます
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掘江弘己
https://twitter.com/hiromi_yuh
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コメント



0.200簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
良い甘さでした
3.100終身削除
霖之助のカップリングは数あれど膝の上のベストポジションをキメられるのは一人だけ 魔理霖の王道を往くシチュエーションが本当に全部載せって感じで良かったと思います 夕飯とかお風呂とか霖之助の日常に魔理沙が入り込んでるような暮らしを近くで眺めているみたいでくるものがありました
4.90名前が無い程度の能力削除
甘ぁああああい!
6.80名前が無い程度の能力削除
甘い…甘いまりりんだ…
7.100めそふらん削除
甘々で良かったです
慌てたり照れたりしてる魔理沙が可愛かったです
8.100サク_ウマ削除
古典ラブコメの波動を感じる……
なかなか珍しい味わいの作品でした。良かったです。
10.90クソザコナメクジ削除
昭和のラブコメのほのかな香りがする。
読んでいて恥ずかしくなるほどのあまあまな話でした。
11.90モブ削除
甘い、不思議な話でした。ご馳走様でした。