Coolier - 新生・東方創想話

情緒不安定乙女と口下手店主

2020/07/18 17:34:57
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紫が何かを差し出したようだ。大した価値はなさそうだし、今のこの状況で本当にどうでもいいものを買うとは思えないが……気になる。
一体何を買ったんだ?
「あら、こちらの使い方は聞かないんですのね?」
「客人に売り物の用途を聞くのは良くて野暮、悪ければ失礼だからな。犯罪でさえなければ好きにしてくれ」

わざわざ店主に使い方を聞いて遊ぶような品物? ダメだ、パッと思いつかない。
魔理沙はもうどうでもいいとばかりに布団を被った。もう一回霖之助にだっこされたような気分になる。
全身が霖之助の匂いに包まれた。早く戻ってきて欲しい。
「せめて一貫文に負けて下さらない?」
「金なら十分持っているだろう。というか脱ぐな」

今度こそがばりと起きて、バタバタと紫の前に姿を表した。そこには何故かブラジャーを半分見せつけている紫と、全く意に介さず研ぎ終えた包丁を包んでいる霖之助がいた
「あら、休んでいるって聞いたけれど、元気じゃない? うふふ」
「当たり前だ! お前なんかにこーりんを連れて行かれてたまるか! そもそも何しに来たんだ。お前ほどの奴が」
「ふふっ、女のカンよ。大当たりでしょう? それに、たまには外にも出ないとね?」

彼女は買ったばかりの扇子を広げて口元を隠すと、甲高い声で笑い始めた。何がおかしいっていうんだ?
紫は毎度これだ。ぴったりなタイミングで来てぴったりなことを適当に言いまくってはまたどこかへ行ってしまう。
彼女に詰め寄る。霖之助は紫へ包丁を渡していて、もう場外乱闘を観戦するモードに入っていた。
「いつもは博麗神社へ顔を出してるくせに、どんな風の吹き回しだ?」
「あら、いいじゃない? あなたに空いた心のスキマ、私にはしっかり見えるもの。それを広げたり閉じたりすることが、私に与えられた役割ですわ」

言うに事欠いて……!
要するに人をからかって遊ぶのが大好きってことだろうが!
「あ、アッチのスキマは私じゃ埋められないから」
「知っとるわボケ! お前に埋められるとか悪夢でしかないわ! そんなのは霊夢とやってろ!」

紫は霊夢と同じように肩をすくめて、出ていこうとした。入口の扉を半分空けたところで、彼女が振り向く。
「もし私があの人を本当に他意なく食事程度の用事に連れて行ったとして──あなたにはどんな不都合があるのかしら?」
「こ……こーりんがあたしのご飯を食べられなくだろうが!」

口に出した瞬間、しまったと思った。紫は何かを見抜いたように目を細めると、よく手入れされた金髪を手櫛でなびかせた。
そうして彼女は微笑むと、その白い長手袋でぱたんと扉を閉めた。
や、やっと帰ってくれた……
「魔理沙、痴話喧嘩は終ったかい? できれば次からは外でやってくれ」
「冗談が過ぎるぜ、こーりん! 後ろから撃たないでくれよ!」

全く、誰のためにケンカしたと思っているんだか。
紫に振り回されて脱力した魔理沙は、何か面白いものでも探して気を紛らわせようと、衣装ダンスの隣にある棚を物色し始めた。
そこは食器棚で、翡翠でできたグラスやら刺繍みたいな模様の皿やら、紅魔館にでも置いてありそうな食器がいくつも置いてあった。ふと下の方に目をやると、そっちは和風の陶磁器で、茶碗が二つ並んでいる。
なんだろう、これ? 似たような形なのに大きさだけ違うぞ?
それは大きめの茶碗と小さめの茶碗が二つセットになっていた。大きい方は青で、小さい方はピンクの模様が塗られている。
「なぁこーりん、これ使ってもいいか?」
「ん? そこの棚にあるものは飲み物のグラス以外はいいぞ。但し持っていくな、そして使ったら洗ってくれ」

魔理沙は頷いて、台所にそれを置いた。こうすれば忘れることはない。
戻りがけ、むんずと首の辺りを掴まれた。霖之助は売り場のはず……じゃぁここにいるのは誰だ?
振り向くと紫だった。わざわざスキマを空けてまで戻ってきた。頭がクラクラする。それに何故かいつもの帽子ではなく新しいのを被っている。
「ごめんあそばせ。渡しそびれたものがあったから」

何を、と聞こうとした瞬間、視線の反対側から胸元に向けてずぼっと何かが入ってきた!
「ふふふふざけるな!」

紫はニコニコとニヤニヤの中間な、全く何を考えているか分からない妖艶な笑みを浮かべた。一体何を突っ込まれたのかと自分の胸をまさぐると、一枚のゴムが出てきた。
「買ったのはいいけれど、そういえば使わせてくれないと気付きましたの」

思ったより薄い。ウワサには聞いていたが初めて見た。
ってそうじゃない!
「バ……バッキャロー、こんなもん使うか!」
「え、使わないの? もう家族計画? 早いわねぇ、おめでたになったら教えて下さるかしら?」
「え、いや、そういうのはまだ早いっていうか。ってちょっと待てちげーよ! 今のなし!」

一瞬頭がフリーズした。
今日ほど弾幕じゃなくて拳で分からせたくなる日はなかった。これからもない。それくらい、紫は必死に笑いを堪えている顔になった。
顔が真っ赤なのは自分でも分かる。このまま紫の話に乗ったらどこまで連れて行かれるか分からない。
魔理沙は話題を変えるために、さっきから被り替えた帽子を指差した。
小さな赤いリボンのワンポイントがおでこについた、小さめの帽子だ。もふもふさはなく、同じところといえば色が白いことくらいだ。
「ところでそれは何なんだよ。それで可愛さを演出してるつもりか?」
「これ? さっき博霊神社にも顔を出したのよ。そこで頂いたの」
「へぇ、あの霊夢がプレゼントねぇ……ってそれまさか」

霊夢が人にものを上げるのもおかしいが、そもそもデザインがおかしい。何故か一部くり抜かれていて髪の毛が見えている。そして明らかに頭のサイズと合っていない。
絶対プレゼントじゃないぞ。
「そ。霊夢のぱんつ。可愛いでしょ」
「帰れド変態!」

文字通り足蹴にせんばかりの勢いで紫を振り払うと、肩をいからせて売り場の方へ戻った。
「何やら騒がしかったが、誰だったんだい?」
「紫。どーでもいーことをぺらぺらくっちゃべってたから追っ払った」

むすーっとして霖之助のヒザに座る。それが完全に無意識の行為だったと気付いたのは、彼が髪を梳かしてくれているのに気付いたのと同時だった。
霖之助がぼそりと一言零す。
「こうしていると思い出すな」
「何をだ?」

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