「たまにはお外でおはがき読みましょ」
「私からも他からもたくさんきてるわ」
私達は紅魔館のテラスへ出た。湖と森が一望できて良い眺めね。このレミリア・スカーレットお気に入りプレイスのひとつよ。もちろん日陰となっている。
小さめのテーブルには既にコーヒーとクッキーが二人分用意してあった。メイドの咲夜ね。コーヒーはもちろん、クッキーからもほのかに湯気が立っている。焼きたてみたい。味わいある苦さと優しい甘さの入り混じった香りが漂ってきて、実に心躍らせる。本当に気が利くメイドだわ。今度ご褒美をあげなきゃね。
私は席に着いて早速クッキーをかじった。我が友パチュリー・ノーレッジも同じように続いた。彼女の手元にははがきが分厚く積まれている。
それを見て私はつい目を細めた。
「今日はどんな質問かしらね? パチェ」
「ええ。読ませてもらうわ」
「クックック……なんでも答えちゃうからね」
外界を生き、幻想を生き、運命をも見通す私には、事あるごとにあらゆる質問や相談が舞い込んでくる。だから私はこうして、迷い悩む子羊達に答えをくれてやっているのだ。後日郵便でね。
さあ、レミリア・スカーレットなんでも質問コーナーの始まりよ!
…
……
………
…………
………
……
…
【一枚目のはがき】
『実はメイド長よりも料理ができるというレミリア様に質問です。料理は味付けが重要ですが、レミリア様だけが知るとっておきの味付け方法があるそうですね。どんな味付けなのですか』
「ああ、あるわね」
「あるわね……って、レミィ貴方料理したことあるの?」
「あるある! あるに決まってるじゃない! ていうか週3から4は私が作ってるからね!? 妹の分だけだけど!」
「ほんとに? ……まあいいわ。その味付けを教えてちょうだい」
「まず最初に用意してほしいのは"感謝の気持ち"よね」
「感謝?」
「そ。人間や一部の妖怪は活動を続けるために他の誰かの命を文字通り喰らう必要があるでしょう」
「主に人喰い妖怪や、それこそレミィもよね」
「ええ。だから私達は命を頂いているということを念頭に置いてほしいの」
「悪魔の発言とは思えないわね……」
「そして喰らうという意志のもとに命を奪われた者は、奪った者にとって食材となる。特に人間は、皮や内臓を処理して、見やすく食べやすくするのがほとんどよね」
「そうね。人間は繊細だもの」
「ここが厄介なところなのよ。ほとんどの人間が既に調理しやすく形の整った食材しか扱わない。それは先の"感謝の気持ち"を薄れさせてしまうの。私の知るとっておきの味付けを難しくしてまう最大の要因よ」
「まさか、家畜でも野菜でも、一から育てろっていうの?」
「ノォン、私が言いたいのは、自分が命を喰っているという意識を持ってほしいということ。これがとっておきへの第一歩なのよ」
「へえ……」
「忘れないで! 今目の前にあるこのクッキーもコーヒーも! もともとは命だったの! むしろ姿を変えただけで、これも命の進化系なのよ!」
「わ、判ったわ。それより味付けの方法を教えてちょうだいよ」
「ええ、ようやくよ! ここから味付けの手順の説明に入るわ! 覚えてなさいよ! 命だからね!」
「え、ええ」
「まず厨房に入る! まあ入る前でもいいわ、よーく石鹸で手を洗って! 次はクリーニングしたてのコック服とコック帽を着る! さあ、今日の料理はステーキよ!」
「うん」
「冷蔵庫から肉の塊を出す! そしたら肩でも腰でも揉んでやりなさい!! いつもありがとうって!」
「うん?」
「揉みながら"今日どこ行きたい?"なんて聞いてやりなさい!!! ドライブでもなんでも、行きたいところ連れてっちゃいなさい!」
「ちょっと」
「デパートで"あれ欲しい!"なんて言われたら、景気良く買ってあげなさいな!」
「試着した服がイマイチでも、"似合ってるよ"なんてお世辞の一つでも聞かせてあげなさい! それでもっと似合う服一緒に探しなさい!」
「レミィ?」
「クリスマスは食事にでも連れてって、プレゼントもあげましょうよ! 夜は一緒に寝てあげて!?」
「レミィなんの話してるの? 食材よね? それ」
「当たり前じゃない! 今隣で安らかな寝息を立ててるのは命なんだって意識して!? 感謝の気持ちを存分に伝えてあげて!?」
「愛情は最高の調味料なの! 感謝すなわち愛! 花は綺麗な言葉や歌を聴かせると綺麗に咲くって言うでしょ!? それと一緒よ! 食材も愛を込めると美味しくなるの! 私のいうとっておきってのはこれなのよ! 問題はどうやって愛情を伝えるかってこと! 実践できるのかってこと!」
「わ、判ったわよ。レミィ落ち着いて」
「ハァ……ハァ……」
「でもねえ……? そんなことしたって……」
「パチェ貴方やったことあるの?」
「ないけど……」
「ないのにそんなこと言っちゃダメよ? 私はあるもの。やっぱり交際期間を経たステーキとそうじゃないのとじゃ旨味が段違いよ」
「交際て」
「肉汁の出かたから違うもん。もう肉汁巡ってるんちゃうかってくらい出るもん。ブッシャー噴くからね、肉汁が」
「それもどうなのかしら……」
「ただそれはうまくいった場合よ。この味付けには失敗またはそれに至る禁忌もあってね」
「禁忌?」
「浮気よ」
「…………」
「そりゃそうよね。浮気されたら誰だって怒るもの。今まで注いできた愛は台無し、味も酷いもんよ」
「レミィは……浮気したことあったの?」
「ええ……。まだ若かった……21の頃だわ。四回目の交際だったんだけど。私もだいぶこなれてきててね。妹にはそういう関係の相手はいないから、なおさら優越感で大人になった気分で、得意になっちゃって」
「当時じゃがいもと付き合ってたんだけどね。こいつだんだん芽が伸びてくるから、その都度丁寧に取り除いてあげてたのよ。でも多分心のどこかで鬱陶しく思った自分がいたのよね。ちょうど一年経った頃、バーで偶然知り合ったとうもろこしに誘われて、ついつい一緒になっちゃったの」
「昼はじゃがいもの芽を処理して、夜はとうもろこしのヒゲを整えてあげる……逆パターンももちろんあったわ。そんなスリリングな関係が大人みたいで、自分に酔ってるところもあったんでしょうね」
「…………」
「んで、しばらくそんな生活が続いてたんだけど、ある夜じゃがいもが私の体にとうもろこしのヒゲがついてるの見つけてね。仕方なく私も白状したわ」
「もうじゃがいもはキレてキレてね。あないキレるかねってくらいキレてたわね。ガラス窓バァーン叩き割ってたからね」
「タチの悪い芋ね……」
「私もかなり動揺……というか後悔とかで内心穏やかでなくってね。せめてフライドポテトにさせてって謝りながら縋り付いたんだけど、彼結局じゃがバターになったわ。最後の最後までほとんど私に手を加えさせずじまい。多分彼なりの反抗だったんだと思うわ」
「…………」
「……初めてのことだったのもあるけど、今思えばやっぱり未練がましかったわね、私も」
「まあどんな相手であれ、別れ話にまでなったらもう味付けは失敗よね……」
「3日目の午前中に別れ話を持ち出された時なんかショック通り越して呆然としたからね」
「誰よそいつは」
「納豆よ。"私の何がいけなかったの?"って聞いたら、"お前は粘りが足りねえ"って。お前の方が足りないだろって言ってやりたかったけどね、もう聞く耳持たずだったわ。糸も引かずに去っていったわよ」
「最後はひきわりにして食べてやったけどね」
「去ってったんじゃないの? ……まあ、食べれば鬱憤は晴れそうね」
「ただ私から振ったことも一回あったわね」
「へえ、そいつは?」
「だし昆布よ。はなっから私の体目当てだったの。めっちゃ煮込んでやったわ。とろっとろになったけどね」
「いい気味ね。というか、足が早い食材はどうするの? 生魚とか」
「あー、特に鮮度が大事な食材はいかに少ないデート回数で愛を伝えられるかが重要ね」
「一回でおしまいじゃないの……? それ」
「そうなってくると色々考えるわけよ。夜景とか、観覧車とか、シチュエーションには特にこだわる必要があったわ。それでプレゼントも比例して高価なモノになるわよね」
「ただプレゼントも高けりゃいいってわけじゃないからね。ホタテに真珠のネックレスあげたら"当てつけか!"ってめっちゃキレられてそのまま音信不通になったりとかもしたわ。もう何回ノックしても全く殻開けてくれないの。その後付き合ったはまぐりに聞いたら、真珠貝にコンプレックス抱いてたみたいなのよ」
「難しいわね……」
「そ。けどね? 簡単に体を許しちゃダメよ? 体だけの関係になったら全然意味がないから。伝えるのは愛よ。これだけは覚えておいて」
「判ったわよ……」
「まあそんなこんなで色々付き合ってきたんだけど、中でも一番大変だったのはドリアンよね」
「もう臭くて臭くて。めっちゃトゲトゲしてるから夜も大変だったわ」
「出掛ける所も気を使うし。駅はもちろん高級フレンチなんて入りづらいのなんの。せっかく二人で選んだホテルを入室拒否されたのには驚いたわね」
「それでも最後は極上の味で私を感動させてくれたわ。やっぱり愛を注げば注ぐほど答えてくれるのよ」
「ふうん……」
「愛を注ぐとほんと違うわよ? 玉ねぎだっておやつ感覚でイケるもん」
「ただ皮を剥く時は優し~くしてあげてね。ああ見えて結構神経質で、がっついて激しく剥いちゃうと怒ってそれだけで台無しになるから」
「覚えとくわ……」
「多分この味付け方法ならたんぽぽもいけるんちゃうかなーとは思ってるんだけどね」
「今は自由な身でいたいからまだ告ってないの」
「そ…………」
「私からも他からもたくさんきてるわ」
私達は紅魔館のテラスへ出た。湖と森が一望できて良い眺めね。このレミリア・スカーレットお気に入りプレイスのひとつよ。もちろん日陰となっている。
小さめのテーブルには既にコーヒーとクッキーが二人分用意してあった。メイドの咲夜ね。コーヒーはもちろん、クッキーからもほのかに湯気が立っている。焼きたてみたい。味わいある苦さと優しい甘さの入り混じった香りが漂ってきて、実に心躍らせる。本当に気が利くメイドだわ。今度ご褒美をあげなきゃね。
私は席に着いて早速クッキーをかじった。我が友パチュリー・ノーレッジも同じように続いた。彼女の手元にははがきが分厚く積まれている。
それを見て私はつい目を細めた。
「今日はどんな質問かしらね? パチェ」
「ええ。読ませてもらうわ」
「クックック……なんでも答えちゃうからね」
外界を生き、幻想を生き、運命をも見通す私には、事あるごとにあらゆる質問や相談が舞い込んでくる。だから私はこうして、迷い悩む子羊達に答えをくれてやっているのだ。後日郵便でね。
さあ、レミリア・スカーレットなんでも質問コーナーの始まりよ!
…
……
………
…………
………
……
…
【一枚目のはがき】
『実はメイド長よりも料理ができるというレミリア様に質問です。料理は味付けが重要ですが、レミリア様だけが知るとっておきの味付け方法があるそうですね。どんな味付けなのですか』
「ああ、あるわね」
「あるわね……って、レミィ貴方料理したことあるの?」
「あるある! あるに決まってるじゃない! ていうか週3から4は私が作ってるからね!? 妹の分だけだけど!」
「ほんとに? ……まあいいわ。その味付けを教えてちょうだい」
「まず最初に用意してほしいのは"感謝の気持ち"よね」
「感謝?」
「そ。人間や一部の妖怪は活動を続けるために他の誰かの命を文字通り喰らう必要があるでしょう」
「主に人喰い妖怪や、それこそレミィもよね」
「ええ。だから私達は命を頂いているということを念頭に置いてほしいの」
「悪魔の発言とは思えないわね……」
「そして喰らうという意志のもとに命を奪われた者は、奪った者にとって食材となる。特に人間は、皮や内臓を処理して、見やすく食べやすくするのがほとんどよね」
「そうね。人間は繊細だもの」
「ここが厄介なところなのよ。ほとんどの人間が既に調理しやすく形の整った食材しか扱わない。それは先の"感謝の気持ち"を薄れさせてしまうの。私の知るとっておきの味付けを難しくしてまう最大の要因よ」
「まさか、家畜でも野菜でも、一から育てろっていうの?」
「ノォン、私が言いたいのは、自分が命を喰っているという意識を持ってほしいということ。これがとっておきへの第一歩なのよ」
「へえ……」
「忘れないで! 今目の前にあるこのクッキーもコーヒーも! もともとは命だったの! むしろ姿を変えただけで、これも命の進化系なのよ!」
「わ、判ったわ。それより味付けの方法を教えてちょうだいよ」
「ええ、ようやくよ! ここから味付けの手順の説明に入るわ! 覚えてなさいよ! 命だからね!」
「え、ええ」
「まず厨房に入る! まあ入る前でもいいわ、よーく石鹸で手を洗って! 次はクリーニングしたてのコック服とコック帽を着る! さあ、今日の料理はステーキよ!」
「うん」
「冷蔵庫から肉の塊を出す! そしたら肩でも腰でも揉んでやりなさい!! いつもありがとうって!」
「うん?」
「揉みながら"今日どこ行きたい?"なんて聞いてやりなさい!!! ドライブでもなんでも、行きたいところ連れてっちゃいなさい!」
「ちょっと」
「デパートで"あれ欲しい!"なんて言われたら、景気良く買ってあげなさいな!」
「試着した服がイマイチでも、"似合ってるよ"なんてお世辞の一つでも聞かせてあげなさい! それでもっと似合う服一緒に探しなさい!」
「レミィ?」
「クリスマスは食事にでも連れてって、プレゼントもあげましょうよ! 夜は一緒に寝てあげて!?」
「レミィなんの話してるの? 食材よね? それ」
「当たり前じゃない! 今隣で安らかな寝息を立ててるのは命なんだって意識して!? 感謝の気持ちを存分に伝えてあげて!?」
「愛情は最高の調味料なの! 感謝すなわち愛! 花は綺麗な言葉や歌を聴かせると綺麗に咲くって言うでしょ!? それと一緒よ! 食材も愛を込めると美味しくなるの! 私のいうとっておきってのはこれなのよ! 問題はどうやって愛情を伝えるかってこと! 実践できるのかってこと!」
「わ、判ったわよ。レミィ落ち着いて」
「ハァ……ハァ……」
「でもねえ……? そんなことしたって……」
「パチェ貴方やったことあるの?」
「ないけど……」
「ないのにそんなこと言っちゃダメよ? 私はあるもの。やっぱり交際期間を経たステーキとそうじゃないのとじゃ旨味が段違いよ」
「交際て」
「肉汁の出かたから違うもん。もう肉汁巡ってるんちゃうかってくらい出るもん。ブッシャー噴くからね、肉汁が」
「それもどうなのかしら……」
「ただそれはうまくいった場合よ。この味付けには失敗またはそれに至る禁忌もあってね」
「禁忌?」
「浮気よ」
「…………」
「そりゃそうよね。浮気されたら誰だって怒るもの。今まで注いできた愛は台無し、味も酷いもんよ」
「レミィは……浮気したことあったの?」
「ええ……。まだ若かった……21の頃だわ。四回目の交際だったんだけど。私もだいぶこなれてきててね。妹にはそういう関係の相手はいないから、なおさら優越感で大人になった気分で、得意になっちゃって」
「当時じゃがいもと付き合ってたんだけどね。こいつだんだん芽が伸びてくるから、その都度丁寧に取り除いてあげてたのよ。でも多分心のどこかで鬱陶しく思った自分がいたのよね。ちょうど一年経った頃、バーで偶然知り合ったとうもろこしに誘われて、ついつい一緒になっちゃったの」
「昼はじゃがいもの芽を処理して、夜はとうもろこしのヒゲを整えてあげる……逆パターンももちろんあったわ。そんなスリリングな関係が大人みたいで、自分に酔ってるところもあったんでしょうね」
「…………」
「んで、しばらくそんな生活が続いてたんだけど、ある夜じゃがいもが私の体にとうもろこしのヒゲがついてるの見つけてね。仕方なく私も白状したわ」
「もうじゃがいもはキレてキレてね。あないキレるかねってくらいキレてたわね。ガラス窓バァーン叩き割ってたからね」
「タチの悪い芋ね……」
「私もかなり動揺……というか後悔とかで内心穏やかでなくってね。せめてフライドポテトにさせてって謝りながら縋り付いたんだけど、彼結局じゃがバターになったわ。最後の最後までほとんど私に手を加えさせずじまい。多分彼なりの反抗だったんだと思うわ」
「…………」
「……初めてのことだったのもあるけど、今思えばやっぱり未練がましかったわね、私も」
「まあどんな相手であれ、別れ話にまでなったらもう味付けは失敗よね……」
「3日目の午前中に別れ話を持ち出された時なんかショック通り越して呆然としたからね」
「誰よそいつは」
「納豆よ。"私の何がいけなかったの?"って聞いたら、"お前は粘りが足りねえ"って。お前の方が足りないだろって言ってやりたかったけどね、もう聞く耳持たずだったわ。糸も引かずに去っていったわよ」
「最後はひきわりにして食べてやったけどね」
「去ってったんじゃないの? ……まあ、食べれば鬱憤は晴れそうね」
「ただ私から振ったことも一回あったわね」
「へえ、そいつは?」
「だし昆布よ。はなっから私の体目当てだったの。めっちゃ煮込んでやったわ。とろっとろになったけどね」
「いい気味ね。というか、足が早い食材はどうするの? 生魚とか」
「あー、特に鮮度が大事な食材はいかに少ないデート回数で愛を伝えられるかが重要ね」
「一回でおしまいじゃないの……? それ」
「そうなってくると色々考えるわけよ。夜景とか、観覧車とか、シチュエーションには特にこだわる必要があったわ。それでプレゼントも比例して高価なモノになるわよね」
「ただプレゼントも高けりゃいいってわけじゃないからね。ホタテに真珠のネックレスあげたら"当てつけか!"ってめっちゃキレられてそのまま音信不通になったりとかもしたわ。もう何回ノックしても全く殻開けてくれないの。その後付き合ったはまぐりに聞いたら、真珠貝にコンプレックス抱いてたみたいなのよ」
「難しいわね……」
「そ。けどね? 簡単に体を許しちゃダメよ? 体だけの関係になったら全然意味がないから。伝えるのは愛よ。これだけは覚えておいて」
「判ったわよ……」
「まあそんなこんなで色々付き合ってきたんだけど、中でも一番大変だったのはドリアンよね」
「もう臭くて臭くて。めっちゃトゲトゲしてるから夜も大変だったわ」
「出掛ける所も気を使うし。駅はもちろん高級フレンチなんて入りづらいのなんの。せっかく二人で選んだホテルを入室拒否されたのには驚いたわね」
「それでも最後は極上の味で私を感動させてくれたわ。やっぱり愛を注げば注ぐほど答えてくれるのよ」
「ふうん……」
「愛を注ぐとほんと違うわよ? 玉ねぎだっておやつ感覚でイケるもん」
「ただ皮を剥く時は優し~くしてあげてね。ああ見えて結構神経質で、がっついて激しく剥いちゃうと怒ってそれだけで台無しになるから」
「覚えとくわ……」
「多分この味付け方法ならたんぽぽもいけるんちゃうかなーとは思ってるんだけどね」
「今は自由な身でいたいからまだ告ってないの」
「そ…………」