【二枚目のはがき】
『博麗の巫女として働いていた経験のあるレミリアさんに質問です。現博麗の巫女である博麗霊夢は、本人の性格もあって誰にでも分け隔てなく、中立の存在として来訪者と接していますが、そんな彼女にも唯一差別してしまう存在がいると聞きます。それは誰で、どんな奴なんでしょう。教えてください』
「なんだいうても霊夢も結局は人の子で、それも女の子だからね。そりゃ好き嫌いもあるし、どうしても我慢ならないこともあるわよ」
「まあそうよねえ」
「なのによくやってると思うわ。毎日毎日掃き掃除して、毎日毎日来る客来る客一人ひとりにお茶を出してやり……。あの子の食器棚見たことある? ワンスペース全ッ部湯のみだからね? 年々6~7個ずつ増えてるからね? 多分来年の暮れ辺りで湯のみ専用の棚できるわよ」
「んでもって時には手料理も振舞ってあげて、四方八方から押し寄せる魑魅魍魎に付き合ってやって……」
「大変そうよね」
「あの子って縁側でお茶飲んでだらだらしてるイメージあるでしょ? ノオォン! 今度近くで霊夢を観察してごらんなさい。あれですっごい働き者なんだから! もう私はね、そんとき涙が出ちゃったわよ」
「へえ」
「でも! そんな霊夢にもただひとつ許せない存在がいる!!」
「それは気になるわね……」
「さっきも言ったけどね、霊夢も心ある人間の子、我慢できないこともそりゃあります」
「誰なの? もったいぶらずに教えてちょうだい……」
「ワキガのやつよ」
「…………」
「そりゃ嫌でしょ!? ワキガは! 女の子なんだから特に嫌でしょ!」
「確かに嫌だけど、そんなになの?」
「持ち前のカンの良さと関係あるのかも判らないけど、霊夢は人一倍鼻が利く子でね。他人の匂いとかすごく気になっちゃうのよ」
「よく知ってるわね……」
「香水バッシャー浴びてから霊夢んとこ行ってごらんなさい。絶っ対一言目に悪態が飛び出すから。むしろ一言目が悪態だったらそいつは臭いってことだから。それくらい敏感な鼻してるのよ」
「闇に溶け込んだ宵闇の妖怪を、匂いで感知してシバき倒したって逸話もあるからね」
「あと最近でいえば無意識を操るサトリ妖怪すらも、匂いだけで追跡してド突き回してたからね。見ててかわいそうだったわよ」
「過去に類を見ないわよ、嗅覚のみで妖怪シバいた人間は」
「スゴイ鼻してるのね……」
「ええ。それほどの嗅覚を持つ霊夢なんだから、そりゃワキガは嫌よね。三度の飯もワキガで断念せざるを得ないほどよ」
「差別って言うほどだから……他の人とは対応が明らかに違うってことよね? どんな風に違うの?」
「えーそうね……まずワキガのやつが神社にお参りに行こうとします! もしもその時霊夢がお昼寝してたら? 彼女は目を覚まします! 掃き掃除してたら空を見上げます!」
「その時点で何かしら感じ取るのね」
「そいつが神社に近づくにつれ、霊夢はだんだんそわそわしてくるわ。動物には地震や災害を予知して何かしらの行動をとるケースが確認されているらしいけど、それと一緒よ」
「あの子にとっては災害レベルなのね……」
「さあそいつが神社の階段に足をかけた!もうこうなったら陰陽玉の出番よね」
「まさか、迎撃態勢?」
「オォン違う違う!? もしかしてパチェ、あの玉武器かなんかだと思ってたの? あれ消臭剤だからね?」
「初めて知ったわ……どういう仕組みなのよ」
「あれの白ーいところが香り成分で、あの黒~い方は炭でできてて、臭い成分を吸収するのよ。まあ炭の方は戦ってるとどうしても熱持って赤くなっちゃうけどさ」
「特に臭いが酷い時には白い方と黒い方を同時に引っ張るのよ、開くから。そしたら中のスポンジ面に染み込んでる香り成分が直接外気で拡散されて、より効果的なの」
「詳しいのね。それで?」
「ええ。さあついにワキガが神社の境内に踏み込むわ! 霊夢の視界に入った! その瞬間もみあげウッワァーーーッ!!!なるわ。まさしく威嚇よあれは。近く行くと"ウ~ッ"って聞こえるからね」
「ワキガが神社の敷地内にいる時は常にそんな感じ。それでも手は出さないんだから偉いもんよ」
「…………」
「そういえば易者もワキガだったみたいでね」
「易者?」
「霊夢に退治された妖怪よ。あの時はと~くに凄かったわね。もう目が普通じゃないのよ。クアッてなってて。問答無用で頭叩き割るんちゃうかってくらい凄まじい形相だったからね。 私のイメージでは」
「そこはイメージなのね」