Coolier - 新生・東方創想話

Zigzag Correspondence

2016/07/30 23:14:54
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「いや、知らないですけど……」
 机に投げ返された雑誌をすくい上げる。この色あせた古道具屋の店内において、原色を惜しみなく使った表紙はとても目を引く。無縁塚で拾ってきた外の世界の雑誌だ。480円という値段設定に外の世界でどれほどの重みがあるのかは想像するしかないが、内容の乱雑さ、俗っぽさからみて推して知るべしといったところだ。むしろこの程度の記事を刷るのにも使えるほど、顔料がありふれている点に瞠目すべきだろう。まあ、十分信頼に足る情報源とはお世辞にも言えないが、僕達幻想郷の住民はこのようなものからでも何らかの知識を得ようとする。それはまるで、渇きを癒すために朝露を啜るがごとしだ。僕に関していえば、新しい情報源を確保してからはその渇きはかなり和らいだのだが。
 その新しい情報源は、雑誌を投げた姿勢のまま固まっていた。自分の感情にどのような名前を付けて良いのか判断しかねている様子に見えた。彼女が来る前にさんざん読んだページには癖がついているから、見なくともすぐに元の記事を開くことができる。そういえば今日は雨が降っていたはずだけど、彼女に濡れた様子はない。超能力によるものだろう。
「知らないというのは、この記事に書かれていることに心当たりがない、という意味かい」
「そうよ。私はこんなことしてないし、宇佐見蓮子? マエリベリー・ハーン? って人も知らない。私は一人で秘封倶楽部を作ったのだし」
 宇佐見は、自分の感情を「いらだち」と呼ぶことに決めたようだ。僕にとっては、あまり風向きが良いとは言えない。「その記事は全部、うそ。あるいは間違い」
間違いでこのような凝った冊子を作るだろうか、と僕は言う。
「記事によれば、こうだ」と僕は記事からキーワードを拾い上げていく。京都の大学、非公認サークル・秘封倶楽部、そして、誘拐。「知らないってば」
 さえぎるように宇佐見が言った。
「本当に知らないのかい。じゃあ、この日、君は何をしていたんだ」記事の下に書かれている年月日を読み上げると、宇佐見はきょとんとした顔をした。
「知らない」
その雰囲気があまりにも今までと違っているので、違和感に顔を上げる。「いつって言ったの?」
「知らないっていうのはどういうことだい? 日付自体を知らないわけじゃないだろう」
「元号を知らないの。今は平成よ。その前は昭和、その前が大正……『神亀』なんて元号は知らない」


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