Coolier - 新生・東方創想話

Zigzag Correspondence

2016/07/30 23:14:54
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 外を眺めてため息をついた。校庭からは時折ホイッスルの音や歓声が聞こえてくる。それにつられて外を見る生徒は、董子以外にもいたが、董子ほど外を見続けている生徒は他にいなかった。グラウンドを駆け回る生徒たちの体操着の肩に入った緑のラインは、彼らが一つ上の学年だということを示している。私より一年も長く生きていて、ボールがゴールに入った入らないであんなに大騒ぎできるものか、と董子は思う。
 もう一度ため息をついた。ついてから、しまった、と唇を噛む。ため息は、無意識に負けるほどに知性の働きが鈍っているから出るものだ、と董子はかたく信じていた。
 だが、本当に鈍っているとしたら、それにも理由があるのだから仕方ない。
 あれからというもの、董子の腹の奥では、例の記事が座り込みを強行している。心配事というのは、意識しなければ支障は出ない。だが座り込みは意識せざるを得ない場所を選んでするからこそ効果があるのだ。今のように授業中だろうと、その『事件』は隙あらば鎌首をもたげようとする。
神亀、あるいは神龜は、日本の元号の一つ。養老のあと、天平の前。七百二十四年から七百二十九年までの期間を指す。この時代の天皇は聖武天皇。改元の理由は『珍しい亀が見つかったから』。
この数日間ですっかり覚えてしまった説明文が董子の脳裏に浮かぶ。
過去に実際に存在した元号だということを、董子は目を覚ましてから調べるまで知らなかった。だが、奈良時代の日本にカラー印刷があったという話を董子は寡聞にして聞いたことがなかったし、西洋人らしい『マエリベリー・ハーン』という人物も、おそらくいなかっただろう。董子は鞄から真新しいノートを取り出して、マエリベリー・ハーンの名前を書いた。そして、その隣に『宇佐見蓮子』と書き足して、二人分の名前の上に、『秘封倶楽部』と書いた。さらに、『神亀』そして、覚えてしまうまで繰り返した日付を。
誘拐事件があったとするなら。それは、過去ではなく、未来に起こるのではないか?
何ができるというわけではない。だけど、考えずにはいられなかった。もしかすると董子がきっかけで、秘封倶楽部を名乗ったのではないか? 危険な目に遭ったのも。
外を眺めてため息をつく。唇を噛む。
校庭の生徒たちはいつのまにか、いなくなっていた。

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