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アスファルトを蹴って、走る。追ってくる男たちの足音は、いくつもが混ざり合って、三つからは判別できない。きっともっと大勢だろう。私たち秘封倶楽部に何の用があるのか知らないが、ご苦労なことだ、と思う。皮肉は口に出してこそだと思うけど、私の呼吸器は新鮮な酸素を求めてぜえぜえと鳴るので精いっぱいで、意味のある言葉を発することは、できそうにない。それに、聞かせたい相手の蓮子ともとっくにはぐれてしまった。無事に逃げ切っていることを祈るしかない。次の角を右に曲がって路地に入ると、すぐに左に折れる道があるはずだ。そう頭の中で地図を展開して、私は路地に飛び込んだ。
地図は正しくなかった。袋小路の壁に背中を付けて、私は、すでに人によってふさがれた、路地の入口を見る。ここまでか、と観念する。
「そこまでよ!」
空を切り裂く声に、私たちは空を見上げる。月を背にして、年を取った女性が、宙に浮いて、夜風にマントをはためかせていた。小脇には蓮子を抱えている。
「蓮子!」そう叫ぶ私は、自分の身体が何らかの力によって浮き上がっていることに気付く。徐々に高度を増す私に追いすがろうとする男たちは次々と苦悶の表情を浮かべて倒れていった。
「修行のために留守にしていたの、アフリカでね」
屋根に降り立った老婆はそう言って笑う。蓮子は、足が着いた瞬間に泣き笑いの表情を浮かべて、老婆にしがみついている。
「お会いできて光栄です、初代会長」
私は秘封倶楽部初代会長・宇佐見董子と、固い握手を交わした。時空を超えた、私たちの逃走劇は、今やっと終わりを迎えたのだ――
終