Coolier - 新生・東方創想話

迷々々夢

2016/03/05 21:26:16
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●夢の世界の科学世紀1


「ちょっとメリー、まだ準備できないの~?」
 とある大学の学生寮に、そんな言葉がこだまする。
 外出を間近に控えた玄関先で、宇佐見蓮子はルームシェア仲間の相方に、出発の催促を投げつけていた。
「待ってってば。もうっ、普段は蓮子が遅刻するクセに、自分が待たされるとすぐにそうやって急かすんだから」
「聞こえてるわよ~。まあ良いじゃない。そうやっていびられるのもさ、私がいつも小言を言われる気持ちもわかるってもんでしょ?」
「茶化さないで!」
 困惑しながら、マエリベリー・ハーンはリビングでとあるモノを探していた。
 サークル活動での必需品。手入れが必要なため、定期的にカバンから取り出してはいるのだが、なくしたことなど今まで一度もなかったのに、それがどこにも見当たらないのだ。
「おかしいわねえ。お手洗いに行く前は手元にあったはずなのに」
「リモコン隠しみたいな妖怪の出没かしら? この部屋にできた結界のスキマからそういうのが出てきてさ、そいつに盗まれちゃったとか?」
「曝くべき結界は身近にあったってこと? 残念だけど、私たちが住むこの部屋に結界はないって散々言ってるじゃない。無駄口叩いてるヒマがあったら蓮子も探してよ。アレがないと結界がよく見えないんだから」
 金髪をかきながらマエリベリーは懇願する。
 準備万端な蓮子は、しょうがないわねえと履き替えた靴を脱ぎ、再びリビングに戻ってきてくれた。
「ま、メリーの眼は活動の目玉だし?」
「面白くないわよそれ。私が注目を浴びてるみたいじゃない」
「注目されてるじゃない。それこそ、結界とか夢とか、そういう非常識な事象にさ」
「……笑えないってば」
 ため息をつきつつ、雑誌やソファーの下などを探ってみるが、目的のものは一向に見つからない。記憶を辿っても、出発時刻直前には確かにあったはずなのに。
「メリーも抜けたところがあるのねえ。それに比べて、今日の私はパーフェクト。あなたからお小言をもらわないように、こうやって前日から準備してさ」
「それを毎日してくれたら、私もグチを言わなくて済むのだけど……ホント、どこに行っちゃったのかしら」
「ほら、これなんか今の季節便利でしょ? 懐炉にマスク。これで今日は乗り切れるわ」
「そんなのどうでも良いから探してってば~」
「あとほかには……あ」
「あ?」
 勝手に準備自慢を始めた蓮子は、突然表情を固まらせた。
 そして、彼女のカバンから震える手とともに出てきたモノ。それは。
「ゴメン。私が持ってたわ。メリーのコンタクト。忘れてた」
 コンタクトレンズとその洗浄液が入った一式ケース。
 忘れてはいけないと気を利かせたつもりがアダとなったわけで。
「いや~ハッハッハ。妖怪の正体見破ったり~……なんちて」
「バカッ!」

 その日。
 蓮子はマエリベリーから、いつもの三倍の小言を聞くこととなった。

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