無用途商品店/裏
「対局、ですって?」
いつもの香霖堂。椛は例の将棋盤の一件以来、ちょくちょく顔を出していた。
いつまでも品を置いておくわけにはいかない、といったのは店主の方であるが、ならばとその買い手が対局を申し込んできたというのだ。
「うん、そうなんだ。この将棋盤をかけてね。
ただ僕自身、将棋の腕に自信はないし、なにより今回の将棋盤については、僕だけの問題ではないからね。
君になら任せられそうだと思ったのだけど、どうかな」
「え……それはつまり、負けたらこれがその方に持っていかれるということですよね?」
「そこは負けなければ良いさ」
「それは、そうなんですが。……勝ったら私が買うんですか?これ」
値段がつけようがないといったのは誰でしたか、と言外に含みを持たせて返す言葉も、なお弾かれることとなる。
「うん、それに関わることなんだけどね。わかったんだ、出元。聞いたら驚くよ」
そう言う霖之助は少しにやにやしている。先を続けたくて仕方ないという感じだ。
「わかったんですか」
「うん、霧雨の家で調べ物をさせてもらってね……おかげで、誰にならいくらで売ってもいいか見当もついた」
誰になら。
それはつまり、人によってはふっかけるということなのだろうか?
ともあれ、椛としては続きを聞きたかった。
「それで、どこだったんですか」
「それがね、なんと」
「失礼します」
表の方から男性の声がした。なんというタイミングだ。
「……すまない、お客は放っておけない」
「私もお客ですよ、一応」
「わかっているさ、失礼……」
ばたばたと表の方に走り去る店主。
やがて聞こえてきた声は椛に聞かせるかのようなトーンであった。
「ああ!これはちょうど良かった……待ち人がご訪問中ですよ」
「そうなんですか?」
「ちょうどついさっき来たところでね」
「それは運が良かった……のかな?」
「さ、それは勝負の結果次第かと」
二人の声が近づいてくる。
そうして、彼らは三度出会う。
夢でも見そうな白昼に。
「ええと、はじめまして……あれ?」
「はい。お初にお目にかかり……え?」
夢でも幻でもなく、まぎれもない現実として。