第三章 逃げた患者
カフェの壁に備え付けてある公共画面が、同じ告知を三度繰り返した。
信州の療養施設において、療養中の一名の所在が確認できなくなっています。当該人物に危険性はありません。お心当たりの方は最寄りの窓口まで。
顔写真も名前も、年齢も性別も出ないまま、画面に映っているのは山の緑の中に白い屋根が小さく覗いているという程度の遠景だけで、これで心当たりを思い出せという方が無理な相談である。
「逃げたのね」
メリーが紅茶の匙を止めて言った。
「所在が確認できない、よ。逃げたとは言ってないわ」
「確認できないようにいなくなることを、逃げるって言うのよ」
サナトリウムのことは誰もが知っていて、そのくせ誰も話題にしたがらない。合成苺のケーキを前にして持ち出すような話ではない、ということになっているのだ。
「でも考えてみれば妙な仕組みよね。この国では、あらゆる病気に治療法があることになっているでしょう。風邪も癌も、遺伝子の綴り間違いも、手順どおりに処置すれば治る。それでも治らない症状が出たら、それは既知の病気じゃないから、未知の病気。未知の病気は、電波も届かない山奥で静かに経過を観察される。定義だけで人が山へ運ばれていくのよ」
「治ったら帰ってこられるのよ。私がそうだったもの」
メリーは一度、あの山に入っている。夢の中で衛星の遺跡を歩いて怪我をし、その傷から得体の知れないものを貰ってきたのだ。隔離の個室で熱が引くのを待ち、ようやく治癒と判定された彼女を、信州まで迎えに行ったのは私だった。帰りの在来線で、彼女が窓の外にある本物の山ばかり見ていたのを覚えている。
「あなたのは、あとから名前の付く病気だったからよ。名前が付けば治療法がある。治療法があれば治る。治れば出られる」
「じゃあ、最後まで名前の付かないものは、どうなるのかしら」
「治せない先天性のものは、病気じゃなくて個性と呼ぶ決まりよ。社会のほうが合わせる。あなたの眼も私の眼も、検査に引っかかったことがないのはそのおかげ」
「見えないものが見える、って申告したことがないだけでしょう」
メリーはフォークの先で、皿の上の苺を端へ寄せた。
「治せないものを病気と呼ばないのと、治せない人を山へ送るのと、どっちが本当なの」
「両方本当よ。合わせると、治せない病気はこの世に存在しない、という命題が成り立つの。論理的には綺麗だわ」
「蓮子が綺麗って言うときは、だいたい嫌なものの話ね」
言い返そうとしたところで、扉の鈴が鳴った。
入ってきたのは二人組で、灰色の制服に灰色の帽子、背丈から歩幅まで測ったように揃っていて、胸には療養施設の徽章が付いている。世間では回収員と呼ばれているけれど、正式な職名を私は知らない。
彼らが店の中へ二歩入ったあたりで、音が変わった。
静かになったというのとは違う。話し声は続いているのに、どの卓の会話も途中から中身だけが抜け落ちて、相槌ばかりが残り、笑い声が一拍遅れ、やがて誰もが手元の画面か、何も載っていない卓の上を眺めるようになったのである。ふと目を落とした皿の上では、いつ見ても同じ赤のはずの合成苺が、陽に晒された印刷物のように浅い色をしていた。
「巡回です。ご協力をお願いします」
卓の横に立った一人の声には、抑揚というものがまるでない。
「所在確認中の人物について、お心当たりはありますか」
「いえ、ありません」
メリーが答えたので私も続こうとしたのだが、何を聞かれたのだったか、それが一瞬分からなくなった。
頭の中には、疑問の列があったはずなのだ。あの日傘の女は誰なのか。ノートを書いたのは誰か。消えたゼミ生の名前は。昨夜まで、眠る前に羊の代わりに一つずつ数えていたその列が、今は霧の向こうへ下がってしまっている。どうでもいいじゃないか、と頭のどこかが言い、そう言ったのが自分であることに気づいた途端、背中にどっと汗が出た。
どうでもいいはずがないのである。
回収員が差し出した板状の端末には、人物の画像が出ているらしかった。見ようとした。見ようとしたのに、視線は端末の縁をつるりと滑って卓の木目へ落ちてしまい、関心というものが、指の間から砂のようにこぼれていく。
「該当する記録はありません。ご協力に感謝します」
次の卓へ移っていく彼らとすれ違いざま、もう一人のほうが鼻歌を歌っているのが聞こえた。四小節ばかりの旋律を同じところで切っては頭から繰り返す、題名を思い出せないまま歌っている人の、あの歌い方だ。
もう一度鈴が鳴って、灰色の背中が通りへ出ていく。苺の赤が元に戻るまでに、三十秒ほどかかった。
「……今の、何」
「褪せたわね」
メリーは自分の指先を、裏返したり戻したりして見ている。
「店の中の色が、全部。境目とは逆よ。境目は二枚がずれて濃く見えるの。今のは、一枚を薄く刷ったみたいだった」
「私、質問を忘れたわ。大事な質問を、大事じゃないと思った」
「蓮子が?」
彼女は冗談でなく目を丸くしている。私は冷めた珈琲を飲むふりをして、その顔から目を逸らした。
あの二人組が通りを北へ向かったので、帰り道は南へ下る川沿いにした。
日はとうに暮れていて、四条の橋の上まで来たところで欄干に肘を置き、カフェで抜け落ちたものを頭の中で一つずつ拾い直してみる。日傘の女、ノート、ゼミの空席。列がきちんと元の順番に並んだのを確かめて、ようやくまともに息がつけた。
「メリー、あの芝生の人のこと、どう思う」
「どうって?」
「旧棟の裏にいたのは偶然じゃないわ。輪のことを知っていて、私たちが出てくるのを待っていたのよ」
「待っていたなら、どうして何もしなかったのかしら」
「観察よ。対象に干渉せずに、ただ見る。私ならそうするもの」
口にしてから、あまり気持ちのいい喩えではなかったと気づいたのだが、訂正する前に、橋の向こうの袂に灰色が二つ見えた。
別の組である。同じ歩幅、同じ速度でこちらへ歩いてくるその前で、橋の上の人通りが左右に割れ、割れた人々は立ち止まって川を眺めはじめた。いや、眺めているのではない。足を動かす理由を、忘れてしまったのだ。
「戻りましょう」
「待って。時刻だけ」
動く前に時刻と位置を押さえるのは、もはや癖のようなものである。私は空を見上げた。
東山の上に、星は出ていた。
出ていたのだけれど、それだけなのだった。
黒い面の上に光の点がばらまかれていて、それ以上のことが何も起きない。いつもなら視線を向けた瞬間に、数字のほうから落ちてくるのに。何時何分何秒、と考えるよりも先に。子供の頃からずっとそうで、空というのは私にとって最初から文字盤だったのに。その文字盤が、ただの模様になっている。ヒロシゲの窓に描かれた星と同じだ。綺麗で、等間隔で、何も言わない。
「蓮子?」
「読めない」
自分の声が、ひどく遠くから聞こえた。
「メリー、読めないの。出てこない。星が、ただあるだけ」
月を探すと、欠けたのが川下に引っかかっていた。月を見れば場所が分かるはずで、ここが四条の橋の上だということは足の下の石が教えてくれているのに、月は北緯も東経も返してよこさない。橋の上にいるという事実を自分の眼で確かめる手段をなくした私は、欄干を両手で掴んだ。そうしていないと、自分の立っている場所ごと、どこかへ流れていってしまいそうだったのである。
灰色の二人は、もう橋の中ほどまで来ていた。
私が茫然としていると、いきなり手首を取られた。
「歩いて」
振り返りもせずに私を引いていくメリーのあとを、足元だけを見て、石の継ぎ目を数えながらついていく。数えることはできた。数字は逃げていない。逃げたのは、空のほうだ。
橋を下り、川端の柳の下まで来て、ようやく彼女は足を止めた。
「もう一度見て」
見上げた。
十九時二十六分四十一秒。北緯三十五度〇分十三秒。
数字は、何事もなかったような顔で落ちてきた。柳の幹に背中を預けたまま、私はしばらく口がきけず、帽子の内側が汗で冷たくなっていくのを感じていた。
「五十メートルね」
やっと出てきたのは、そんな言葉である。
「あの制服から五十メートル以内に入ると、読めなくなる。カフェのときは屋内だったから気づかなかったんだわ」
「測ったの? 今ので?」
「測らないと怖いのよ」
「蓮子が怖いって言うの、初めて聞いたわ」
「言ったことがなかっただけ」
帽子を脱いで、額の汗を袖で拭った。
「メリー、私ね、迷ったことがないの。一度も。子供の頃、縁日ではぐれたって、空さえ見えれば家の方角が分かったから、一人でりんご飴を舐めながら帰ったのよ。親は探しにも来なかったわ。この子は放っておいても帰ってくるからって」
「便利ね」
「便利よ。だから、自分がどこにいるか分からないっていうのがどういう感じなのか、知らなかったの……さっきまで」
欄干を掴んでいた掌には、まだ石の冷たさが残っている。
「床が抜けるみたいだった。橋の上にいるのに、その橋がどこにあるのか分からないのよ。ねえメリー、夢から覚めたとき、いつもああなの?」
「ああって言われても、私はあれしか知らないもの」
メリーは垂れてきた柳の枝を一本、指に巻きつけた。
「どこにいるのか分からないのが普通で、蓮子が時刻を言うと、そこだけ床ができるの。だから蓮子の眼は気持ち悪いけれど、便利よ」
「褒めてる?」
「半分」
それきり彼女は黙ってしまい、握ったままの手首を離そうともしなかった。
橋の上では回収員が、さっきまで私たちのいた欄干のあたりで立ち止まり、端末を掲げてあたりを見回している。そのうちの一人が、こちらの岸へ顔を向けた。
ちょうどそのとき、橋の向こうの袂で何かがふわりと開くのが見えた。
日傘である。
街灯の下に、あの女性がいた。長い金髪に紫の服で、夜の橋の上だというのに、ゆっくりと傘を回している。すると二人の回収員は、誰かに名前を呼ばれでもしたように同時に振り向き、来た方向へ、同じ歩幅で戻りはじめたのだった。
女は傘を肩に載せて、こちらを見た。遠くて顔までは分からないのに、数えられている、という気がした。ちょうど私が星を数えるように。
「メリー……見た?」
「見たわ」
「あいつらに合図したのよ。向きを変えさせた。命令できる立場にいるんだわ」
「追い払ってくれたようにも見えたけれど」
「どうして私たちを助けるの。理由がないじゃない」
「蓮子は、理由がないことは起きないと思っているのね」
女性の姿はもうなかった。傘を畳んだ様子も、歩き去った様子もないまま、街灯の下だけがぽっかりと空いていた。
翌朝、大学の正門には灰色の制服が立っていた。
門柱の左右に一人ずつ、出入りする学生の学生証を端末にかざさせている。普段なら文句の一つや二つは出る場面だというのに列は静まり返っていて、かざし終えた者から順に、少しぼんやりした顔で構内へ流れていく。
私は列の最後尾で、できるだけ距離を取った。門まで二十メートル。空は見ない。昼間なのだし、どのみちあれの近くでは何も返ってこないのだから、見たところで仕方がない。
「蓮子、これ」
隣でメリーが、自分の学生証を差し出していた。
掌ほどの樹脂の板に、顔写真が焼き込んである。入学のときに撮った澄まし顔のメリーで、白い帽子に金の髪、紫の襟というそれを、私は昨日、食堂の会計のときに見たばかりだった。
その金髪が、灰色がかっているのである。
襟の紫はほとんど鼠色で、肌の色も背景の青も抜けてしまい、写真全体が、長いこと窓辺に貼りっぱなしにされた掲示のようになっている。並べてみた私の学生証のほうは、黒い帽子も白いシャツも赤いネクタイも、昨日のままだった。
メリーは写真の上を親指で何度かこすったけれど、色は戻らない。
「昨日より、薄いわ」
列が一歩進んだ。
私たちは、門をくぐらなかった。
列を抜けて塀沿いに裏手へ回り、そのまま大学を背にして歩き出したので、講義を一つ落とすことになったのだ。けれど、端末に学生証をかざした学生たちが揃って少しぼんやりした顔で出てくるのを見てしまったあとでは、メリーのあの写真を同じ機械に近づける気には、とてもなれなかったのである。
「仮説を言うわ」
歩きながら、私は指を一本立てた。
「あの制服のそばでは、何だって褪せるわ。カフェの苺だってそうだった。でも、離れれば三十秒で戻る。戻らないで、晩のうちにまた一段抜けていくのは、よその刷の色を多く持っている順よ。長居もするし、物まで持って帰ってくる。そのたびに色が移って、その移ったぶんから先に抜かれているの。私の写真が無事なのは、川を一度渡ったきりで、ほとんど一枚ぶんの色しか持っていないから」
「蓮子は地味ってことね」
「単色刷りと言って」
「それで、抜かれた色はどうすれば戻るの」
そこから先は仮説というより、ほとんど思いつきに近い。
あの屋台の筍には、同じ場所が一つもなかった。根元と穂先とで味が違って、おそらく一本ごとに形も違う。合成品にはそれがないのだ。どの刷で作ろうと同じ分子が同じ順に並ぶだけのものは、色を運ばないのではないか。運べるのは、刷ごとに違ってしまうものだけなのではないか。
「天然物ね」
「高いわよ。それに京都で天然物を出す店なんて」
「あるじゃない。酔っぱらうほうのお酒」
メリーの指は、木屋町のほうをさしていた。
酒場には二種類ある。
一つは新型酒の店で、世間ではこちらが普通だ。合成された酒には分解酵素が最初から混ぜてあるから、いくら飲んでも悪酔いということがなく、従って店は明るくて清潔で、客もみな行儀がいい。
もう一つが旧型酒の店である。米だの麦だのを黴と酵母に食わせて何か月もかけて造るという代物で、飲めば本当に酔うし、翌朝は頭が割れる。そんなものにわざわざ高い金を払うのは、酔い潰れること自体を贅沢と心得ている人々に決まっているので、店は暗く、床はべたつき、客筋はあまりよろしくない。木屋町の路地の地下にあるその一軒は、三つの条件を余すところなく満たしていた。
もっとも、そういう店が暖簾を出すのは日が落ちてからと相場が決まっている。朝のうちに木屋町まで来てしまった私たちは、閉まっている扉の前で顔を見合わせることになった。灰色の制服が巡回する大通りを避け、私の下宿に籠って日暮れを待つ間、メリーは何度も学生証を取り出しては眺めていた。
夜になり、再び旧型酒の店に向かう。階段を下りきる手前で鞄の中の本を覗いてみると、炎は朱である。
「近くで開いているわ」
「この奥よ。厨房の裏あたり」
境目の位置を、メリーは献立でも読み上げるように言う。
五つある卓のうち三つには先客がいて、どれも私たちの三倍は生きていそうな男たちばかり、そのうちの一組はとうに卓へ突っ伏している。隅の席に陣取った私たちは、いちばん小さい猪口で一合だけ頼んだのだが、それだけで合成苺のケーキが四十個は買える値段だった。
「部費で落ちるかしら」
「部費なんてないでしょう」
先に口を付けたメリーが、少し眉を上げてからもう一口含み、黙って猪口をこちらへ回してくる。
舌に載せたときには甘いのに、喉を過ぎるあたりで辛くなり、鼻へ抜ける匂いは果物のようで、最後に穀物の殻のような渋みが残った。ところがもう一口飲んでみると、今度は辛さのほうが先に来て、甘さがあとから追いかけてくるのである。
「同じ徳利なのに、一口ごとに違うわ」
「でしょう。生きているのよ、これ」
メリーの頬に差している赤みは、酔いのせいばかりではないと思う。卓の上に出された学生証を見れば、写真の髪にうっすらと金が戻りかけていた。
仮説が一つ当たったのだ。すっかり気をよくして二杯目を注いだ私は、それからしばらくして、自分の頭の回転がわずかに粘りはじめていることに気がついた。
「メリー。いま何時か分かる?」
「蓮子に訊かれる日が来るとは思わなかったわ」
「地下だから空が見えないのよ。ええと、店に入ったのが二十時五十分くらいで、だから、今は二十一時の、だいたい」
「だいたい」
メリーは両手で口を押さえて笑った。私が「くらい」だの「だいたい」だのを付けて時刻を言ったのは、物心ついてから初めてだったかもしれない。それなのに、少しも嫌な気がしないのが不思議だった。
「もう一回言って。今、何時?」
「だから、二十一時の、十分か、十五分か、そのへんよ。そのへん」
「そのへん!」
「うるさいわね。誤差の範囲を広めに取っているだけ。統計的には誠実な態度よ」
「蓮子が酔うと、普通の人になるのね。知らなかったわ」
「普通で悪かったわね」
「悪くないわよ。普通の蓮子、もう一杯どうぞ」
「注がないで。これ以上普通になったら帰れなくなる」
卓に肘をついたメリーが、珍しい生き物でも眺めるようにこちらを見ているのが分かっていたけれど、頬が熱いのは酒のせいだということにして、私は猪口の底を覗いていた。
「色を塗るのが下手な客だな」
柱の陰の卓から声がした。
椅子の上で痩せた背中が半分こちらを向き、額に押し上げた眼鏡の下から、インクの染みた指が空の猪口を弄んでいるのが見える。
「一合を二人で舐めていたんじゃ、戻る色も戻らんよ」
反故堂の店主だった。
自分の徳利を提げてこちらの卓へ移ってきた老人は、座ってもなお高い。
「清水だ。清水路幸。名乗っていなかったな」
「それじゃあ改めて私も。宇佐見蓮子です。こっちはマエ……マルべ……メリー。あの、お店が」
メリーは何か言いたそうな顔をしているが、無視だ。
「引いたろう。あれは潮と同じでね。開くところを追いかけて、棚ごと移る」
「棚ごと」
「重いよ。腰にくる」
この人の冗談も和内さんのそれと同じで、冗談なのかどうかの判定がつかない。私は鞄を引き寄せた。
「本をお返ししようと思って、探していたんです」
「読み終わったのか」
「……いいえ」
「なら持っていろ。版は」
「なぞっていません」
「なぞれと言われたろう」
持ち上げかけた猪口を、私は卓に戻した。
「どうしてそれを」
「あれを持たせた相手は、たいてい言われるからだ。たいていはなぞる。なぞった奴は戻ってこない。あんたは戻ってきた。だから聞いてる」
清水さんは自分の徳利から私の猪口へ注いでくれたのだが、こちらの酒はずいぶん色が濃かった。
「読むだけにする、と約束したので」
「約束だけか」
「メリーの眼が要らなくなる、と言われたんです。それは困るので」
老人の視線を受けたメリーは、猪口の縁を指で拭いながら、聞こえないふりをしている。
「いい読者だ」
どちらに向かって言ったのかは、分からなかった。
やがてメリーが顔を上げた。
「お爺さん、信州から来たのでしょう」
卓の上の空気がすっと固くなって、隣の酔っ払いのイビキだけが、間の抜けた調子で続いている。清水さんは眼鏡を額から下ろし、また押し上げた。
「画面で流れていたか」
「顔は出ていなかったわ。でもお爺さん、輪郭が二重なのよ。こっちの紙と、山の紙と、少しずれたまま重なっているの。境目をいくつも抜けて、逃げてきた人の形だわ」
「見えるのかね、そんなものが」
「蓮子は星で時刻が分かるのよ。それよりは普通だと思うけれど」
老人は初めて声を立てて笑った。短い、咳のような笑い方だった。
「私は昔、本を殺す仕事をしていた」
笑いを収めると、彼はそう切り出した。
「電子化事業の技師でね。紙の本を預かって、背を裁ち落として、一枚ずつ機械に読ませる。読ませ終わった紙は溶かして、合成繊維の原料にする。同じ題の本が五冊あれば、いちばん状態のいい一冊だけ読ませて、あとの四冊は読ませもせずに溶かす。どれを残すか決めるのが、私の役目だった」
「定本を決める仕事」
「そんな立派な名前は付いていなかったが、やっていたことはそれだ」
濃い酒を一息に飲み干してから、清水さんは続ける。
「溶かす前に、残りの四冊をめくる癖があった。同じはずなのに、違うんだよ。誤字が直っている刷りと、直っていない刷り。前の持ち主の書き込みに、挟んだままの栞。ある日、そいつを家に持って帰った。そうしたら家内が面白がってね」
「奥さんが」
「裕子という。趣味で版画に色を付けていた。ただ下手でね。金魚を描かせると、どう見ても唐辛子になる」
「絵の話ですか」
「絵の話だ」
インクの染みた指が、猪口の縁をゆっくり一周した。
「ある朝、起きたら隣の布団がなかった。畳んであるんじゃない。敷いた跡がないんだ。絵筆も、絵皿も、唐辛子みたいな金魚の絵も、ない。役所の端末を叩いたら、私は生涯独身ということになっていた。四十年連れ添った相手がだよ」
私は自分の帳面の、あの矢印を思い出していた。ペン貸出中、と書いた先の、初めから白かった紙の手触りを。
「覚えているのは私だけだった。窓口に訴えたら医者が来た。妻がいたという記憶は、どの検査にも引っかからない。引っかからないものは既知の病気ではない。それで山だ」
「サナトリウムには」
「同じような連中がいたよ。弟がいたと言う女に、教え子が一人足りないと言う教師。皆、誰かを覚えている。覚えていることが病気なんだ、あそこでは」
メリーが小さく息を吸い込んだ。
「私、前にあそこにいたのよ。でも、そういう人達には会わなかったわ」
「個室の棟にいたんだろう。治る見込みのある者は手前に入る。私らは奥の棟だ。扉が一枚あって、向こうとは行き来がない」
「どうやって出ていらしたの。電波も届かない山奥でしょう」
「柵に破れ目があった。鉄の柵じゃない。その手前の、何と言うか」
清水さんの手が、空中に縦の線を一本引く。
「景色の継ぎ目だ。同室に、あんたのように見える男がいてね。あそこだけ山が二枚ある、と毎朝言う。半月通って、ある明け方に抜けた。出たところは同じ山の、柵のない斜面だった」
「その方は?」
「残ったよ。自分は見えるだけで、歩くのは怖いと言って」
老人が振ってみせた徳利は、もう空だった。
「抜けた先に家があった。私の家だ。ただし裕子の絵が壁に掛かっている。本人はいないし、向こうの私もいない。空き家さ。そこへ、溶かさずに持ち帰っておいた本を運び込んだ。こっちの家に隠してあったのを、継ぎ目が開くたびに、少しずつ」
「それが反故堂」
「どの紙でも要らんと言われた本ばかりだ。書き損じ、刷り損じ、選ばれなかった四冊。反故にされたものの置き場だから、そう付けた」
床から天井まで並んでいた、あの規格の揃わない背表紙が目に浮かぶ。あれは一冊残らず、誰かが定本にしなかったほうの本だったのである。
「あの本も、ですか。私が預かった」
「あれは違う。あれは最初から棚にあった。私が運んだ覚えのない一人でね、来歴が分からん。分からんから、読む人にしか預けないことにしている」
鞄の上から本の角を押さえて、私は言った。
「誤植、と言うそうです。刷を重ねて、合わないところを消す。消えたものは、初めからなかったことになる。それを校合と呼ぶ、と古い論文にありました」
「校合か」
清水さんは、その単語を口の中でしばらく転がしていた。
「なるほど。私がやっていた仕事だ。誰かが私の続きを、本じゃなくて、世の中でやっている」
「誰が」
「見たよ」
老人の声が、一段低くなる。
「裕子がいなくなった朝、庭に女が立っていた。山の施設の柵の外にも、同じ女がいた。金色の髪で、紫の服で」
その先なら、私にも言えた。
「日傘を差している」
「あんたらも見たか」
「二度。尾けられています」
「なら気をつけろ。あれが消して回っているんだ。私はそう思ってる。消す前に見に来るんだよ。値踏みでもするように」
メリーは首を傾げていて、何か言いたそうに唇を開きかけたのだが、その前に、卓の上の学生証を手に取った。
写真の金髪が、また薄くなりはじめている。
さっき戻りかけた色が、見ているうちにするすると引いていき、メリーの指先は白く、卓の上の酒までが水のような色になった。隣の卓のイビキが止んだのは目を覚ましたからではなくて、イビキをかくほどの熱心ささえ、その眠りから抜けてしまったからだ。厨房の奥で、皿を洗う音がふっつりと途切れた。
清水さんが立ち上がる。座っていたときよりも、さらに高い。
「階段は一つだ」
その一つきりの階段を、靴音が下りてくる。二人ぶん、同じ間隔で。
それに混じって、鼻歌が聞こえた。四小節が、同じところで切れて、また頭から。
厨房の裏の壁というのがメリーの言う境目で、抜けてみるとその先は別の路地だった。
メリーが私の手首を引き、清水さんが背を屈めて続き、出たところは見覚えのある木屋町なのに、高瀬川の柳の葉だけが一段濃い。そこから先のことを、私は順序立てて思い出すことができない。清水さんは潮の満ち引きをそらで覚えている漁師のように次に開く場所を知っていて、先斗町の石段、御所の塀の欠け、廃線になった市電の軌道敷と、私たちを次から次へ引っ張り回した。抜けるたびに街灯の色が変わるものだから、私は抜けるたびに空を仰いで、座標だけは動いていないことを確かめずにいられなかった。
灰色の制服は、どの出口にも少しだけ遅れて現れる。
「あれには境目が見えんのだ」
息を切らしながら、清水さんが言った。
「見えんが、色は嗅ぐ。濃いほうへ寄ってくる。だから撒けはしない。先回りするしかない」
「どこへ」
「北だ。今夜いちばん深く開くのは蓮台野だよ。二時半に」
蓮台野、と聞いて、私とメリーは顔を見合わせた。秘封倶楽部が最初の活動をした、船岡山の西の古い墓地である。あのときも、たしか二時半だった。
墓地の入口で、私はその夜最後になる時刻を読んだ。
「二時二十七分四十一秒。北緯三十五度二分、東経百三十五度四十四分。蓮台野」
あと二分十九秒、と暗算したのと、石段の下に灰色が見えたのが、ほとんど同時だった。
二人ではない。四人、いや六人。墓地を囲む道の、どの角からも同じ歩幅が上がってきている。彼らの提げている灯りの白が届いたところから順に、卒塔婆の木目が消え、彼岸花の赤が抜け、苔が灰になっていく。
メリーの膝が、かくんと折れた。
抱き留めた体は驚くほど軽く、帽子が落ちてあらわになった髪は、灯りの下で麻のような色をしている。
「メリー!」
返事はなかった。息はあるし、瞼も薄く開いているのに、その目は何も見ていない。色を多く持っている順に抜かれるのだ、と昼間得意になって述べた仮説が、私の腕の中で実証されているのだった。
清水さんが、私たちの前に立った。痩せた背中は、並んだ墓石のどれよりも高い。
「ご協力をお願いします」
声は、四方から同時にした。
「所在確認中の方ですね。お戻りください。該当する記録はすべて施設にあります」
「記録なら、ここにある」
老人は自分のこめかみを、指でとんとんと叩いてみせた。
「裕子、という。あんたらの帳簿に載っていないだけだ」
「該当する記録はありません」
灰色の輪が、一歩縮む。
無駄だと分かっていながら見上げた空では、星はやはりただの点でしかなかった。こうなったら、数えるしかない。最後に読んだのが二時二十七分四十一秒で、そこから石段を見て、メリーを抱えて、たぶん二十秒。私は二十一から口の中で数えはじめた。星がなくたって一秒は一秒なのだから、脈で刻めばいい。メリーがいつも握る手首の、あの脈で。
二十五、二十六。
輪がまた縮んで、清水さんの上着の紺が鼠色に変わっていく。
六十、六十一。
はて、何のために数えているのだったか。
七十。そうだ、開く時刻を待っているのだ。開けば抜けられる。メリーになら見える。そのメリーは私の腕の中で、紙のように白い。八十、八十一と進むうちに、数字の後ろにぶら下がっていたはずの理由が一つずつ剥がれ落ちていって、あとには数えるという行為だけが残る。
百。
百というのは、いったい何の百だったろう。
百二十、百二十一。どうでもいいじゃない、と頭の中で誰かが言ったのは、カフェのときと同じ、私自身の声だった。百二十九、百三十。もう数えなくていい。座ってしまえばいい。ここで。
百三十三。
そこで、次の数が出てこなくなった。口は開いていたし、舌だって動くのに、百三十三の次が何であるのかということについて、私はすっかり関心を失ってしまったのである。
「百三十四」
声は、正面の大きな墓石の向こうからした。
「百三十五。百三十六」
私の声だった。
川の霧の中で聞いた、あの柔らかく伸びる声ではない。数を数えるときの、平らで、少しだけ急いた、私自身の調子で、一秒の長さまでがそっくり同じなのだ。
「百三十七。百三十八。百三十九」
二時三十分。
墓石の向こうに、人が立っていた。金色の髪に紫の服のその人は、白い手を目の前の何もないところへ伸ばすと、障子でも開けるように、すっと横へ引いた。
夜が、裂けた。
他に言いようがないのである。墓地の闇よりもう一段黒い線が地面に沿って走り、灰色の輪の足元をぐるりと一周したかと思うと、その線が口を開け、紙を折り目から畳むようにして輪の立っていた地面ごと内側へ折れ込んでいく。六つの制服は声も立てずに、折り目の中へ消えていった。
鼻歌が、小節の途中でぷつりと切れる。
彼岸花が赤い。苔も緑だ。卒塔婆の墨の字が、ちゃんと読める。
「メリー!」
私は墓石の向こうの人影に向かって叫んでいた。助けてくれたのだ、いつものように境目を見つけて、と思ったからだ。
ところが、腕の中で何かが身じろぎをした。
見下ろすと、メリーはそこにいた。私の腕に頭を預けたまま、まだ目を閉じていて、その髪には少しずつ金が戻りはじめている。
では、あれは誰なのか。
女は墓石を回り込み、こちらへ歩いてきた。
月しか出ていない夜の墓地だというのに、歩きながら当然のように日傘を開き、もう一方の手に持った閉じた扇の先で、裂け目の黒い線をすうっと撫でていく。撫でられたところから、線は縫い目のように閉じていった。
「ごきげんよう」
近くで聞くその声は低くてよく響き、さっき数を数えた声とは少しも似ていない。聞き間違えたのだ、と私は思った。そう思うことにした、と言ったほうが正確かもしれない。
「夜分に騒がしいこと。ここは眠っている方の多い場所ですのに」
「あんたか」
清水さんの声は震えていた。寒さのせいでも、疲れのせいでもない震え方だった。
「庭にいたのはあんただ。裕子が消えた朝に。山の柵の外にもいた」
「ええ。おりましたわ」
女性は、あっさりと認めた。
「消えるところを見ておりました。消えたあとを、あなたが覚えているかどうかも」
「あんたが消したんだろう」
「消すのは私の仕事ではありませんの」
開いた扇が、口元を隠す。
「私は隔てるだけ。こちらとあちら、一枚と一枚の間に線を引いて、混ざらないようにしておく。それだけの者よ。線を消して回っている方は、別におりますわ」
「信じろと言うのか」
「信じなくて結構。ただ、あの灰色の方達はじきに戻ってきます。畳んだだけで、破いてはいませんもの。あなた、また走れて?」
清水さんは答えず、ただ肩で息をしていた。無理もない。推定七十を過ぎた人間が、一晩に五つも境目を抜けてきたのだから。
女性が扇の先で空中に短い線を引くと、そこがまた開いたのだが、今度は人ひとりが通れるくらいの幅で、しかも中は黒くなかった。黒くないどころか、何色でもない。色という性質そのものを持たない何かが、そこにあるのだった。
「紙の外です。余白、と呼んでおりますけれど。刷られていないところには、あの方達も入ってこられません。しばらくそこにいらっしゃいな」
「余白」
私はその語を繰り返した。
「刷られていない、って言ったわね。刷のことを知っているの」
「あら」
女は、初めて私のほうを見た。
傘の影の下で、その目は笑っている。笑っているくせに、こちらを測ってもいる。その目つきを、私はどこかで知っているような気がしたのだけれど、どこで見たのかがどうしても思い出せなかった。
「よく勉強しているのね。閉架の紙でも読んだのかしら」
「質問に答えて」
「知っているかと聞かれれば、知っていますわ。住んでいるんですもの、その縁に」
「あなたは誰」
「八雲紫。そう名乗っております」
名前である、とは言わなかった。名乗っている、と言ったのだ。
清水さんは裂け目と女性を見比べていたが、最後に私のほうを向いた。
「本は持っていろ」
「清水さん」
「この女は信用せん。だが足が動かんのも本当だ。あんたらは逃げろ。読み終わるまでは、あれを誰にも渡すな」
背を屈めて色のない隙間へ入っていく間際、彼は一度だけ振り返って、誰かを探すような目で墓地を見回した。その背中を呑み込んで裂け目が閉じてしまうと、あとには私とメリーと、紫と名乗った女性だけが残された。
「どこへやったの」
「安全なところへ。お茶くらいは出ますわ」
「どうして助けたの。私たちを尾けていたでしょう。旧棟の裏でも、橋の上でも」
「尾けていた、というのは心外ね。見ていただけよ」
「同じことじゃない」
「違うわ。尾ける者は後ろにいる。見る者は、どこにもいないの」
禅問答に付き合っている暇はないので、私は質問を変えた。
「刷は、いくつあるの」
「あなたは、いくつだと思って?」
「有限よ。無限ではありえない」
「なぜ?」
「版というのは刷るたびに摩耗するものでしょう。無限に刷れる版なんて、物理的に存在しないわ。線が共通だということは、版が一つだということ。一つの版から取れる枚数には、必ず上限があるはずよ」
紫の扇が、ぴたりと止まった。
それから彼女は、声を立てずに笑ったのである。肩だけが、小さく揺れていた。
「昔、まったく同じことを言った人がいたわ。同じ順番で、同じ得意そうな顔で」
「誰」
「さあ。もう、いない人よ」
はぐらかされているのは分かっている。分かっているからこそ苛立ちが募り、私の口はますます早くなる。
「消して回っているのは誰。校合をやっているのは」
「さあ、どうでしょう。あなたはもう、声を聞いたのではなくて?」
霧の中の声。私の声で、私の名を呼んだ、あれのことだ。
紫は閉じた扇を傘の柄と一緒に握り込むと、言葉に詰まった私の頭へ空いたほうの手を伸ばしてきた。払いのけようにも、メリーを抱えているので腕が上がらない。白い指が、帽子のリボンに触れた。
「曲がっているわ」
結び目を直すような仕草をして、指はすぐに離れていく。
メリーが目を開けたのは、そのときだった。
彼女はまず私を見上げ、それから私の肩越しに紫を見て、何も言わず、瞬きもしなかった。すると紫の視線がわずかに逸れ、傘が傾いて、顔が影の中へ入る。まるで、メリーと目が合うのを避けたかのように。
「お友達がお目覚めね。私は失礼します」
「待って、まだ聞きたいことが」
「境目は二時三十分ちょうどに開いたでしょう。開く時刻に開いた。それだけのことよ」
背を向けた紫の扇が、空中に最後の線を引く。
「あなたは相変わらず、二分十九秒遅いのね」
隙間は、彼女を呑み込んで閉じた。
虫の声が戻ってきて、船岡山のほうで夜鳥が一度だけ鳴いた。
「……メリー、立てる?」
「蓮子」
メリーは起き上がろうともせず、女の消えたあたりを見つめたまま言った。
「あれ、私の体だわ」
「何?」
「手の形も、歩くときの肩の揺れ方も。私が歳を取ったらああなるのよ。自分のことだもの、分かるわ。なのに」
自分の言葉を一つずつ確かめるように、彼女はゆっくりと続ける。
「目つきが蓮子だった」
「酔っているのよ。旧型酒なんか飲むから」
私は落ちていた帽子を拾い、土を払って彼女の頭に載せた。金髪は、もうほとんど元の色に戻っている。
メリーを立たせて、肩を貸す。石段を下りながら空を見ると、星は何事もなかったように読めた。二時四十四分。
相変わらず、と紫は言ったのだ。
私の遅刻の秒数を知っている人間は、世界に二人しかいないはずである。数えた私と、待たされたメリーと。
その数字を、今夜初めて会った彼女が、知っていた。
◇
山を描いている。
刷るのではなく、描く。版を彫って何枚も写し取るというやり方を採らなかったのは、写せば校合ができてしまうからで、重ねて合わないところを消すという真似は、一枚きりのものに対してはやりようがない。
筆は遅い。
稜線を一本引いて、乾くのを待つのに、紙の内側の数え方でおよそ千年。その間に麓へ湖を置き、竹林を置き、人の住む里を置いて、忘れられたものが流れ着きやすいように、縁のところへ傾斜を付けておく。
余白に描いたものは、どの刷にも属さない。属さないから、誰の定本にも入らない。それが設計の要点である。
手を見る。
筆を持つのに向いた手で、線を引くよりは色を置くほうが得意らしい。計算する頭と、色を置く手。合わせれば何でも作れると、昔、誰かが考えた。
作れはしたのだ。
墓地で、数を数えた。
声を使うつもりはなかったのに、あの子が百三十三で止まってしまったものだから、続きが口から出てしまった。
借り物でないのは、あの声だけである。
稜線の上に、月を一つ描き入れておく。
場所を読むためではない。ただ、明るいから。