『くりすます』
世間では、誰しも年の瀬の支度に追われる師走の半ば。
雪深い山奥の古い屋敷には、嘘のように穏やかな時が流れていた。
火鉢で温められた昔ながらの炬燵。そこに、着物姿のふたりが寄り添うように並んでいる。
ひとりは長い髪を束ねた美しい娘。もうひとりは、顔に火傷痕のある女。
娘が、蜜柑の皮を剥きながらふと零す。
「町ではね、『くりすます』っていうのが流行り出してて、ちょっと憧れてたんだ」
「くりすます」
火傷痕の女は、娘の言葉をそのまま繰り返す。
「異国のお祝い事らしいんだけどね」
白いすじを丁寧に取りながら、娘は続ける。
「恋人とか家族とかで集まって、ご馳走食べたりするんだって」
町に奉公に出ている友人が、いつかの日に送ってくれた手紙。
今は手元にないその内容を、娘は記憶をたぐりながらかいつまむ。
「今もしてるわね」
女は、不思議そうな顔をする。
「ふふっ、そうだけど」
娘が蜜柑のかけらを差し出すと、女は素直にそれを口にした。
「なんていうか、特別な日って感じかな」
「飾り付けしたり、贈り物したり」
「なるほど」
はにかむ娘の顔を、女はしみじみと見つめていた。
麓に置いてきた憧れを、軽い気持ちで口にしただけ。
欲しいとも、やりたいとも言っていない。
それなのに、数日後──
襖を開けて、娘は目を見はる。
どこからか切り出してきた、青々とした松の木。
それを彩る、南天の赤い実と折り紙で作られた飾り。
丸ごと焼かれた鶏に、おひつに入ったお赤飯。
娘も耳にしたことのある、名の知れたお酒。
食卓に添えられた色とりどりの琥珀糖。
そして、綺麗な和紙で包まれた小さな箱。
「えっ」
「くりすますよ」
戸惑う娘に、火傷痕の女は言う。
「えっ」
「憧れていたのでしょう」
「そんな、気軽な話だったのに……」
自分が零した言葉で、彼女に無理をさせてしまったのではないか。
そんな風に、娘は思うが──
「残念だけど、けぇきという物は手に入らなくて……」
「けぇき」
耳慣れないその言葉を、娘は思わず繰り返した。
「くりすますには必要らしいの」
女の顔は、真面目そのものだった。
「……」
「ふっ、ふふ……」
娘は、たまらず声を漏らす。
「どんな物かも分からないのに、探してくれたんですか?」
可笑しさと、愛しさと。
そんなものが交じり合った顔で娘は笑った。
山で最初のクリスマス。
日付すら合っていない、ふたりだけの思い出。
「……ありがとう」
今さっきまで笑っていた娘が、目尻をぬぐって礼を言う。
女は不思議そうな顔で、その様子を見つめる。
「嬉しいから言ってるの」
炬燵の上の「ご馳走」を、ふたりは囲む。
娘の手のひらにあるのは、たなびくような緑が白地に浮かぶ三角の石。
山の風を閉じ込めたような色味のそれは、蝋燭の灯りを受け、柔らかに艶めいていた。