Coolier - 新生・東方創想話

『東方聖魔録』

2026/03/30 18:50:16
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第五節:月兎の驚きと、芽生える信頼

霊夢さんを抱きしめたまま、私はしばらく動けなかった。
胸の奥から溢れた光は、もう静かに消えている。
けれど霊夢さんの呼吸は穏やかで、頬にはほんのりと血色が戻っていた。
その変化を見ているだけで、胸がじんと熱くなる。
涙がまた零れそうになり、私は霊夢さんの肩に額を寄せた。
――そのとき。
廊下から足音が近づいてきた。
コツ、コツ、と規則正しい、訓練された歩調。
扉が静かに開く。
「霊夢さん、包帯を替えに……」
入ってきたのは、月の兎――鈴仙・優曇華院・イナバさんだった。
彼女は霊夢さんの姿を見た瞬間、
目を大きく見開き、息を呑んだ。
「……え……?」
霊夢さんの顔色が良くなっている。
呼吸も安定している。
包帯の下からは、もう血の匂いがしない。
そして――
霊夢さんを抱きしめている私の姿。
鈴仙さんは言葉を失ったまま、
まるで夢を見ているかのように、ゆっくりと近づいてきた。

鈴仙さんは私の横に膝をつき、
霊夢さんの額にそっと手を当てた。
「……熱が……下がってる……?
そんな……さっきまで危険な状態だったのに……」
震える声。
その震えは、驚きだけではなく、安堵と混乱が入り混じったものだった。
鈴仙さんは霊夢さんの呼吸を確かめ、
脈を取り、
胸の上下を確認し、
そして――私の方へ視線を向けた。
その瞬間、鈴仙さんの瞳が揺れた。
「あなた……」
彼女は胸に手を当て、
まるで心臓の奥がざわつくように息を吸い込んだ。
「……なんだか……懐かしい感じがする……
会ったことはないはずなのに……」
その声は、
“波長感応”に戸惑う月兎の本音だった。
優葉の氣は、霊夢の氣と深く似ている。
御神木として霊夢を見守り続けた魂の波長が、
鈴仙の感覚に触れたのだ。
私は涙を拭き、鈴仙さんに向き直った。

「……すみません。
自己紹介が遅れました。
私は優葉といいます」
深く頭を下げる。
「霊夢さんを……助けたかっただけなんです。
ずっと……ずっと……」
言葉にした瞬間、胸が締め付けられた。
霊夢さんの手を握る指が震える。
鈴仙さんは私の言葉を聞き、
その瞳に驚きと理解が混ざったような光を宿した。
「……あなたの氣……すごく優しい……
こんなの……薬でも術でもない……
生命そのものを癒してる……」
専門家としての本氣の驚き。
そして、心からの敬意。
鈴仙さんは、まるで宝物を見るような目で私を見つめた。

――――――――――――――――――――

◆ 霊夢の状態を確認する鈴仙
「ちょっと……失礼しますね」
鈴仙さんは震える指で、霊夢さんの包帯をそっとめくった。
そこには――
完全に塞がった傷跡。
血の跡すら残っていない、綺麗な肌。
「……嘘……
こんな回復……ありえない……
永琳様でも……一瞬では……」
鈴仙さんの声は震えていた。
霊夢さんの呼吸は深く、穏やか。
まるで長い戦いから解放されたような安らぎがあった。
鈴仙さんは震える手で霊夢さんの頬に触れ、
小さく息を吐いた。
「……よかった……本当に……」
その声には、
医療者としての責任と、
仲間としての想いが滲んでいた。

私は霊夢さんの手をそっと布団に戻し、
鈴仙さんに向き直った。
「……他の方も……治させてください」
鈴仙さんは驚いたように目を瞬かせたが、
すぐに静かに頷いた。
「……お願い。
あなたの力が必要だわ」
その声には、
疑いも、警戒も、もうなかった。
ただ、
信頼だけがあった。
鈴仙さんは立ち上がり、
私に手を差し伸べた。
「行きましょう。
みんな、あなたを待ってる」
私はその手を握り返し、
深く頷いた。

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