第二節:異変拡大
夜が、少しずつ壊れていく。
ルーミアが消えた夜から、
幻想郷の空氣はどこかおかしくなった。
風は吹いているのに、
草は揺れない。
虫の聲(こえ)は聞こえるのに、
その姿は見えない。
まるで世界の“どこか”が欠けているような、
そんな違和感が静かに広がっていった。
その違和感を、
誰よりも早く察知したのは――
弱き者たちだった。
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◆ チルノの場合
湖のほとりで、
チルノは氷の花を作って遊んでいた。
「今日もあたいは最強よ!」
いつも通りの声。
いつも通りの調子。
しかし――
その背後に“影”が立っていた。
白い膜。
黒い影。
赤い光。
ルーミアを取り込んだ“あれ”とは違う。
しかし、同じ“氣配”を持っていた。
チルノは振り返り、
氷の羽を広げた。
「なにあれ……?
あたいに勝てると思ってるの?」
氷の弾幕が放たれる。
しかし――
影はそれを“吸い取った”。
「えっ……?」
影の身体に、
薄い氷の膜が走る。
次の瞬間、
影は氷の速度でチルノに迫った。
「速っ――!?」
氷の羽が砕ける。
チルノは叫ぶ暇もなく、
影に包まれた。
氷の欠片が散り、
湖面に落ちる。
その音だけが、
彼女の存在を示していた。
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◆ ミスティアの場合
夜雀の歌声が響く。
しかしその歌声は、
すぐに途切れた。
ミスティアは氣づいた。
“何か”が近づいている。
「……誰?」
影が揺れる。
ミスティアは歌う。
仲間を呼ぶために。
自分を守るために。
しかし――
影はその歌声を“飲み込んだ”。
「歌……が……?」
影の身体に、
淡い音の波紋が走る。
次の瞬間、
影は“音もなく”ミスティアを包んだ。
夜雀の歌声は、
二度と響かなかった。
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◆ リグルの場合
虫たちが逃げていた。
リグルはその異変に氣づき、
必死に呼びかけた。
「待って! どうしたの!?」
しかし虫たちは答えない。
ただ、恐怖に震えながら逃げていく。
その先に――
影がいた。
影は虫の群れを吸い込み、
その身体に“無数の光点”が灯る。
リグルは震えた。
「……やめて……!」
影が伸びる。
虫たちの聲が消える。
リグルの聲も消える。
そして影は、
虫の群れのように蠢きながら夜へ溶けた。
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◆ 幻想郷は、静かに侵食されていく
誰もまだ氣づかない。
しかし確実に“何か”が広がっている。
その異変を、
最初に察知したのは――
境界を操る賢者だった。
紫はスキマの中で目を開けた。
「……境界が……揺れている……?」
空間が歪む。
時間が滲む。
存在の境界が薄くなる。
紫は眉をひそめた。
「これは……ただの妖怪の仕業じゃないわね」
スキマが開く。
紫は呼びかけた。
「霊夢、魔理沙。
異変よ。すぐに来なさい」
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◆ 霊夢と魔理沙、異変解決へ
博麗神社にて。
霊夢はお札を握りしめ、
魔理沙はミニ八卦炉を構えた。
「また異変? 最近多いわね……」
「まあ、あたいがいれば大丈夫だぜ!」
紫は静かに言った。
「今回は……少し違うわ。
“何か”が幻想郷を侵食している。
取り込まれた者たちの氣配が……消えているの」
霊夢は息を呑んだ。
「取り込まれた……?」
魔理沙は眉をひそめた。
「誰が……?」
紫は答えなかった。
ただ、スキマを開いた。
「行きましょう。断絶の回廊へ」
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◆ そして、最初の敗北が始まる
霊夢。
魔理沙。
紫。
そして、
取り込まれた者の縁者たち。
友人たち。
仲間たち。
多くの妖怪や妖精が集まり、
紫が見つけた“断絶の回廊”へ突入した。
しかし――
そこに待っていたのは、
彼らの想像を遥かに超える“災厄”だった。
光と影の奔流。
時間の歪み。
能力をコピーした聖魔たち。
そして――
多数の犠牲。
霊夢も魔理沙も深手を負い、
紫は結界の維持で手一杯。
幻想郷は、
静かに、しかし確実に“崩壊”へ向かっていた。
ただ――
そのすべてを、
ひとつの“視点”が見つめていた。
風に揺れる葉。
地面に根を張る草。
森の奥の木々。
植物たちだけが、
すべてを見ていた。
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