Coolier - 新生・東方創想話

『東方聖魔録』

2026/03/30 18:50:16
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第十二節:明るい食卓と霊夢の決意

魔理沙の元氣な声に引っ張られるようにして、
優葉、霊夢、魔理沙、そしてココアはそのまま食堂へと足を向けた。
食堂の扉を開けると、
ふわりと湯氣と出汁の香りが鼻をくすぐる。
すでに華扇と鈴仙が席に着いており、
湯氣の立つ味噌汁や煮物、炊き立てのご飯が並んでいた。
そして――
「……あれ、慧音いつ来たの?」
霊夢が思わず声を漏らす。
食卓の端には、
いつの間にか慧音が腰を下ろしていた。
片手には湯呑み、もう片手には“昨夜の自警団の報告書”らしき紙束。
食べながらも視線は紙の上を滑り続けている。
「夜明け前から動いていた。
人里の状況確認がひと段落したからな」
淡々と答える慧音の声は、
疲れを滲ませながらも凛としていた。
「相変わらず働きすぎだぜ、慧音は」
魔理沙が笑うと、
慧音は紙束を軽く持ち上げて返す。
「誰かさんが暴れた後始末をするのが私の役目だからな」
「うっ……」
魔理沙が肩をすくめると、
華扇と鈴仙がくすりと笑った。
そのやり取りを見て、
優葉の胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……霊夢さんの周りには、
こんなに頼れる人たちがいるんだ)
霊夢は当然のように席に着き、
魔理沙はキノコ料理を見つけて早くもテンションが上がっている。
ココアは慣れた手つきでお茶を配り、
華扇は落ち着いた笑みで全体を見守り、
鈴仙は氣遣いの言葉をそっと添える。
その輪の中に、
優葉も自然と溶け込んでいた。
食堂には、
朝の光と、温かい湯氣と、
仲間たちの明るい声が満ちていく。
優葉は静かに息を吸い込み、
その光景を胸に刻むように目を細めた。
(……こんな朝が、ずっと続けばいいのに)

――――――――――――――――――――

◆ 立ち直る強さと朗らかな食卓
食堂の窓の向こうから、
朝の光と一緒に賑やかな声が流れ込んできた。
「はいはい、並んでね~」
「こっちは粥だよ~、熱いから氣をつけてね!」
宿の女将さんと仲居さんたちが、
大鍋を抱えて人里の住民たちに料理を配っている。
湯氣が白く立ちのぼり、
子どもたちの笑い声がその上を跳ねるように響いた。
「助かるよ、本当に……」
「ありがたいねぇ。昨日はどうなることかと思ったよ」
そんな大人たちの声も混ざり、
まるで昨夜の恐怖が嘘だったかのように、
人里には“朝の生活”が戻っていた。
その光景をちらりと見た慧音が、
湯呑みを置きながら静かに呟く。
「……人里は強いな。すぐに立ち直る」
その横顔は、
守り手としての誇りと安堵が滲んでいた。

窓から吹き込む風が、
外の明るい声を運んでくる。
魔理沙が箸を動かしながら笑った。
「なんか賑やかだな。いい朝じゃん」
霊夢も味噌汁をすすりながら頷く。
「人里が元氣なのはいいことよ。
昨日は本当に大変だったもの」
慧音は報告書を閉じ、
自警団のまとめ役らしい落ち着いた声で言った。
「昨夜は混乱したが……皆、よく頑張ってくれた。
あの状況でここまで被害が少なかったのは奇跡に近い」
その言葉に、
鈴仙も華扇も静かに頷く。
優葉はその声を聞きながら、
胸の奥でそっと息をついた。
(……よかった。
みんな無事で、笑ってる)
外の賑わいも、
食堂の温かさも、
霊夢たちの笑顔も――
優葉にとっては、
どれもかけがえのない“救い”だった。

――――――――――――――――――――

◆ 日常の音
霊夢は配膳された皿をじっと見つめ、
眉をひそめた。
「……肉、無いじゃない」
その言い方は、
“世界の終わり”ほどではないが、
“朝のテンションが三割下がる”くらいの深刻さだった。
華扇が苦笑しながら言う。
「重傷者が多いんだから、今日は消化にいいもの中心よ。
霊夢もまだ本調子じゃないでしょう?」
慧音も報告書を閉じて補足する。
「贅沢は後だ。まずは皆が食べられるものを優先した」
霊夢は箸を持ったまま、
「うぅ……」と渋い顔をする。
だが次の瞬間には、
煮物をひと口食べて、
「……まあ、美味しいけど」
と小さく呟いた。
優葉はその様子を見て、
胸の奥がふっと軽くなる。
(……よかった。霊夢さん、ちゃんと食べてくれる)
苦笑しながらも、
霊夢が食べてくれるだけで嬉しかった。

一方その隣では、
魔理沙が自分の皿を見てぱっと顔を輝かせた。
「おっ、キノコじゃん! やった!」
声の大きさとテンションの高さが、
霊夢の“肉不足ショック”を一瞬で吹き飛ばす。
ココアが照れたように笑いながら言う。
「魔理沙さんのために、ちょっと多めに入れました」
「さすがココア! 分かってるな!」
魔理沙は親指を立てて満面の笑み。
霊夢が呆れたようにため息をつく。
「ほんと単純ね……」
慧音も苦笑しながら言う。
「食べられるなら何でもいいんじゃないか、魔理沙は」
「いいんだよ! キノコは正義だぜ!」
魔理沙の元氣な声に、
食堂の空氣がさらに明るくなる。

優葉は自分の料理にはほとんど手をつけず、
霊夢、魔理沙、ココア、華扇、鈴仙、慧音――
みんなの笑顔を静かに見守っていた。
(……こうして笑ってくれるなら、それだけで十分)
昨夜の混乱が嘘のように、
温かい朝の光が差し込む食堂。
霊夢の不満げな顔も、
魔理沙のはしゃぐ声も、
ココアの照れた笑顔も、
慧音の落ち着いた声も――
優葉にとっては、
どれも愛おしい“日常の音”だった。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……この朝が、少しでも長く続きますように)
優葉はそっと手を合わせるように、
静かに心の中で願った。

――――――――――――――――――――

◆ 楽園の巫女の役割
賑やかだった食卓も、
ひと通り箸が進んで落ち着きを取り戻しつつあった。
そのタイミングで、
霊夢がそっと箸を置いた。
ほんの少しだけ背筋を伸ばし、
いつもの氣だるげな雰囲氣とは違う、
巫女としての静かな氣配が漂う。
「……私、今日のうちに神社に戻るわ」
その一言で、
食卓の空氣がわずかに揺れた。
「もう動いて大丈夫なのか?」
魔理沙が心配そうに身を乗り出す。
霊夢は軽く頷き、
真っ直ぐ前を見据えた。
「結界の維持は私の仕事だもの。
神社を空けたままにはできないわ」
その声音は静かで、
けれど揺るぎない。
真っ先に反応したのは慧音だった。
「霊夢、無理はするな。
だが……お前が戻ってくれるなら、人里としても心強い」
その言葉には、
霊夢への信頼と、
人里の守り手としての本音が滲んでいた。
華扇も頷きながら続ける。
「私たちもできる限り支援するわ。
何かあったらすぐ知らせて」
鈴仙は霊夢の顔を覗き込むようにして、
優しく声をかけた。
「霊夢さん、氣をつけてくださいね。
まだ完全に治ったわけじゃないんですから」
霊夢は照れたように笑い、
「分かってるってば」と肩をすくめる。
そのやり取りを見つめながら、
優葉の胸の奥がきゅっと締めつけられた。
(……霊夢さん、行ってしまうんだ)
けれど、
霊夢の決意が本物であることも分かっている。
だから優葉は、
その想いをそっと胸に押し込めて、
静かに霊夢を見守った。
(……どうか、ご無事で)
その祈りは、
誰にも聞こえないほど小さく、
けれど確かに優葉の心の中で響いていた。

朝食を終えると、
霊夢は椅子から立ち上がり、軽く伸びをした。
「さて、帰る準備しなきゃ」
魔理沙がすぐに声をかける。
「手伝おうか?」
霊夢は笑って首を振った。
「大丈夫よ。荷物なんてほとんど無いし」
その軽さが霊夢らしい。
霊夢は宿の部屋へ戻り、
巫女服の袖を整え、
御札、針金、護符――
最低限の道具をひとつひとつ確認していく。
その姿は、
さっきまで肉が無いと文句を言っていた少女とは思えないほど、
巫女としての氣品と責任感に満ちていた。
途中で華扇が顔を出す。
「無理はしないでね、霊夢」
霊夢は振り返り、
少しだけ柔らかい笑みを浮かべた。
「分かってるって。
でも……やらなきゃいけないことだから」
その横顔を見て、
華扇は静かに頷いた。
霊夢は巫女としての覚悟を胸に、
静かに旅支度を整えていく。

霊夢が旅支度を始めた頃、
優葉はそっと席を立ち、静かに台所へ戻った。
朝食の準備の際、
霊夢のために少し多めに作っておいた料理が、
まだ湯氣を残して並んでいる。
優葉は小さな弁当箱を手に取り、
ひとつひとつ丁寧に詰めていった。
まずは、
消化の良い野菜の煮物を彩りよく。
次に、
霊夢が好きだと知っている玉子焼きを、
ふわりと柔らかく折り重ねて入れる。
そして――
ほんの少しだけ、霊夢が欲しがっていた“肉の代わり”に、
香りの良い山菜をそっと添えた。
最後に、
温かさが残るよう工夫したおにぎりを二つ。
その手元には、
霊夢の無事を願う“緑の氣”が
ほんのりと宿っていた。
「霊夢さん、絶対喜びますよ」
台所に顔を出したココアが、
ぱっと明るい笑顔で言う。
優葉は小さく微笑み、
弁当箱の蓋をそっと閉じた。
「……道中で、少しでも元氣になってくれたら」
その声は、
誰に聞かせるでもなく、
ただ霊夢の無事を願う祈りのように静かだった。

霊夢が旅支度を終えて宿の玄関に姿を見せると、
自然と仲間たちが集まってきた。
優葉、ココア、魔理沙、慧音、華扇、鈴仙――
まるで霊夢を囲むように立ち並ぶ。
魔理沙が腕を組みながら言う。
「ほんとに一人で帰るのか?
まだ無理すんなよ」
鈴仙も心配そうに眉を寄せる。
「途中で無理しないでくださいね。
本当に……まだ完全じゃないんですから」
華扇は真剣な表情で霊夢を見つめた。
「何かあったらすぐ知らせて。
私たちも動くわ」
そして慧音が一歩前に出て、
霊夢をまっすぐに見つめる。
「霊夢。人里は私たちが守る。
だから、お前はお前の役目を果たしてくれればいい」
その言葉には、
霊夢への信頼と、
仲間としての温かさが込められていた。
霊夢は少しだけ目を細め、
素直に礼を言う。
「……ありがとう、慧音」
その横顔は、
巫女としての覚悟と、
仲間への感謝が静かに滲んでいた。

霊夢が門の前に立ち、
軽く伸びをしながら空を見上げたその瞬間――
優葉はそっと一歩前へ出た。
両手には、小さく包まれた布包み。
胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じながら、
優葉は静かに差し出した。
「……これ、お昼に食べてください」
霊夢はぱちりと瞬きをし、
一瞬だけ驚いたように優葉を見つめた。
だが次の瞬間には、
いつもの霊夢に戻っていた。
「え、私に? ……やった、タダ飯じゃん!」
その無邪氣さに、
魔理沙が「お前はほんと……」と呆れたように笑う。
霊夢は包みを開き、
中身を覗き込んで目を輝かせた。
「おお、うまそ〜。
でも相変わらず肉は無いのね……。
あ、玉子焼きがある! ありがと!」
悪氣なんて一切ない、
満面の笑み。
優葉は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
同時に、霊夢のあまりの軽さに
思わず小さく笑ってしまう。
(……そういうところも、霊夢さんらしい)
魔理沙がすかさず茶化す。
「お、いいな! 私の分は?」
霊夢は弁当を抱えたまま振り返り、
にやりと笑った。
「帰ってきたら作ってもらえば?」
「ちぇっ」と魔理沙が肩を落とし、
ココアがくすっと笑う。
その光景は、
優葉にとって何より温かかった。

霊夢は弁当を大事そうに抱えながら、
みんなを見回した。
「じゃ、行ってくるわ」
軽く手を上げるその姿は、
いつもの霊夢であり、
巫女としての覚悟を秘めた背中でもあった。
「氣をつけろよー!」
魔理沙が大声で叫ぶ。
「また戻ってきてくださいね!」
ココアが手を振る。
「無理しないでください!」
鈴仙が心配そうに声をかける。
「霊夢、頼んだわよ」
華扇が静かに言う。
慧音は腕を組んだまま、
霊夢をまっすぐ見つめた。
「神社を守るのはお前だ。誇りを持て」
霊夢は少しだけ照れたように笑い、
「分かってるってば」と返す。
優葉は胸の奥にそっと手を当て、
静かに祈った。
「……どうか、ご無事で」
その声は誰にも届かないほど小さく、
けれど確かに霊夢へ向けられた想いだった。
霊夢は最後に一度だけ振り返り、
小さく笑ってから歩き出す。
その背中が朝の光に溶けていく。
優葉はただ、
その姿を静かに見送った。



第一章 幻想郷に舞い降りた癒しの葉 了

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