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東方流重縁~forgotten wanderer~ 第七話 史上最強の超常現象

2025/07/25 20:44:31
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「芳香ちゃんの様子を見に来てみれば…そんな怖い顔してどうしたんです?」
 人気の無い、静まり返った墓地。そこに、真の黒幕が立っていた。飛仙髻が特徴的な短い青髪に、かんざしのように鑿をつけている。青い中華風のワンピースに、羽衣をまとっている。
「よくもやってくれたな…霍青娥!」
 ぬえさんが声を上げて立ちあがる。威嚇のポーズ。
「ふふふ、そんなことされても、かわいいだけですわ」
「…ちくしょう」
 何しに来たんですか。
「ルーミア、リグル、みすちーのカタキは私が討つ!くらえー!」
 手から弾幕を繰り出すチルノさん。しかし、私と戦った時とは比べ物にならないほどの弱弱しい弾幕だ。
「芳香ちゃん」
「うおおおおおお!!」
 弾幕を遮るように、青娥の前に立ちふさがる者。青白い顔色で、腕は前方に伸び切っている。顔にはペタリとお札が張り付けられており、そこからのぞく目に生気はない。これが、話に出ていたキョンシーか。弾幕がキョンシーに直撃する。しかし、まるで効いている様子はない。
「うおおおおおお!この宮古芳香に、そんな弾幕が効くとおーもーうーのーかー」
「み、都良香!?あの大文人の!?」
「…何を勘違いしているかしらないけど、この子は「みやこよしか」。「みやこのよしか」なんて人とはまったく関係ありませんわ。氏と苗字の違いが分からないとは言わせませんわ」
「む、むぅ…」
 どうにも胡散臭いな、この人。そんなに名前が似てて関係ないということもないと思うが。ただ、私が伝え聞いている都良香は当然男だから、青娥の言っている事の方が正しいのだけれど。
「何が目的だ、邪仙!」
 あいかわらず威嚇のポーズを続けたまま、ぬえさんが問いかける。
「ふふっ。ではその可愛らしい姿に免じて教えてあげましょうか。公益と私益。この両方を満たすための行動ですわ。――私益の方はこういうことよ!」
 そういうと青娥は芳香に手を置いた。
「あばばばばばば!」
 置いた手から、UFOの光線によく似た光が発せられ、芳香を包み込む。
「さあ、行きなさい芳香ちゃん!」
「いえっさー!毒闇爪『ダーク・ポイズンレイズ』!」
 芳香が腕を振るうと、辺り一帯が闇に包まれる。
「これは…ルーミアの力!?」
「その通りですわ。力の付け替え…様々な妖怪の力を芳香ちゃんにエンチャントしてパワーアップさせる。面白いでしょう?」
「チルノさん!ぬえさん!無事ですか!?」
 芳香の生んだ闇のせいで、互いの姿が見えない。
「うっ!」
 そこに弾幕が襲い掛かってくる。すこしかすったか。
「くっ、集中集中!流れを読み取れば、たとえ弾が見えなくても!」
 神経を集中させ、弾幕の流れを感じ取る。つくづく思うが、私の能力は弾幕ごっこと相性がいい。
「へえ、面白い能力をお持ちですのね。でも、私がいるのもお忘れなく。邪符『ヤンシャオグイ』!」
「ぐっ、流れが増えて…うわっ!」
 一撃、もろに喰らってしまった。その場に倒れ込む。それと同時に闇が晴れる。
「くぅうううう…」
「さ、さいきょーのあたいが…」
 ぬえさんとチルノさんも同様に倒れている。――絶対絶命。
「ふふっ。まだ力を返すわけにはいかないの。だってそうしないと、消えてしまう者たちがいるんですもの。私が力を再分配してあげなきゃね。これが公益。ふふっ、私ってなんて優しいのでしょう」
「消えてしまう者たちというのは、レティのように…?」
「ええ。一体なんでなんでしょうねぇ。妖怪たちが力を失っているのは」
 青娥は意味深長な笑みを浮かべて私を見る。
「ともかく、とどめを刺しましょうか。さあ、行くわよ芳香ちゃん。降霊『死人タンキー・改』!」
 スペルカードの宣言と共に、芳香から弾幕が放たれる。統一性のない、ばらばらの弾幕。
「みすちーとリグルのも…」
「私の弾幕をパクりやがって…」
 まずい、万全でないチルノさんとぬえさんはこのままじゃ。
「ふふ、これでおしまい」
 芳香の後ろから、青娥がナイフを投げてくる。
「う、うおおおおおっ!」
 無理やり立ちあがる。 
「夢剣『封魔陣剣』!」
 刀を突き立て、ぬえさんとチルノさんを守るように防護壁のように青白い光を展開する。芳香のいびつな弾幕たちを受け止める。せめて、芳香だけでも。刀を地面に突き刺して手を離し、素早く芳香の手前まで移動する。青白い光が消える。ここまで近づけば十分。
「超人『飛翔道満』!」
 芳香の胸元に飛び込み、思い切り殴りつける。
「ぐわーっ!」
 吹っ飛ばされる芳香。
「あら、やられちゃった。でも残念ながらここまで」
「ぎっ!」
 芳香を殴り飛ばした隙を突かれ、ナイフが太ももの辺りに刺さる。がくりと膝をつく。これではさすがに動けない。私たちの、負けなのか…。
「よく耐えたわね!あとは私に任せなさい!」
 そんな弱気を吹き飛ばすような明るい声。
「チルノさん!」
「最強のあたいが今ここに復活する…はぁぁああああ!」
 チルノさんの周りを青い光が包む。輝きが辺り一帯を支配する。光が収束すると、そこには。
「チルノさんの羽が、戻っている!…いや違う、増えている!」
 輝く氷の羽が10枚。最初に弾幕ごっこをした時は6枚だったから、4枚増えている計算になる。
「なんというでたらめな…一回休みからの復活ということかしら?」
「あたい、完全復活!さあ、決着をつけるわよ!」
 チルノさんはそう叫ぶと青娥に向かって突進していく。さすがの青娥も動揺からか、反応できていない。
「氷符『アルティメットブリザード』!」
 猛吹雪のような氷の弾幕が、青娥を襲う。
「きゃあああああっ!」
 弾幕をもろに喰らい、芳香と同じように吹き飛ばされる青娥。
「ぶい!」
 振り返ってピースサインを見せるチルノさん。その笑顔に私もつられて笑ってしまった。


「ふふふ、まさか妖精に負けるなんてね」
「なんてな!」
 よろよろと立ちあがる青娥。芳香は足が曲がらないのか、倒れたままだ。
「仕方ありませんね。これ以上アブダクション大作戦はしないことにするわ」
「ところで、なんでUFOなんですか?」
 私の問いに一瞬キョトンとした顔をする青娥。それから青娥はふふふと笑い出した。
「まあ、あなた達みたいに勝手に標的が集まってくれたり、そこのレッサーパンダさんに罪を擦り付けられるかもというのもあったけど…一番は何となく面白そうだったから。それだけよ」
 なるほど、霊夢さんが言っていた通りだ。まともに考えるだけ無駄という事か。
「さあ、返せよ!私の正体不明の力!」
「…ああ、ごめんなさい。あなたの力がいろんな妖怪に適合していたからあらかた配っちゃって。今力を戻しても中途半端になるだけだから。まあ、そこの妖精のように自然に戻るのを待ちなさい」
「この野郎!」
「ちょっと芳香ちゃんに似てると思いませんか、このポーズ」
「…ちくしょう」
「あの三妖怪の力は返してあげるわ」
 よかった。あの三人は自然に治らなそうだったから。
「ところで、まだ力が抜けて困っている妖怪がいるのですか?」
「ええ。あともう少しだけ力があれば、全員に行き渡るのだけれど」
「でしたら私の力も使ってください」
「あら、一生力が戻らないかも知れないのよ?」
「うっ。でも、困っている人は見過ごせませんから。それに、妖怪の皆さんよりはまだ回復の目が有りそうというか」
 何となくの直感だけど、寝てれば治るのではなかろうか。
「そう。なら遠慮なく」
 そういうと青娥…さんは手のひらから光線を放った。
「あばばばばばば!」
 ああ、力が抜けていく。そのまま、私の意識は闇に落ちて――

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