0 科学世紀と少年少女
40年ほど前に実在した、ひとつの悲劇がある。
それは、3人の冒険家の話だ。彼らは、“北緯40度から+-10度の範囲で人類が著しく発展したのは何故か”という疑問に応えるべく、それよりも遠く離れた不毛の地域を細かく調査する事で、明確な要因を浮き彫りにしようとした。
ひとりは真面目なジャーナリストだ。人々の疑問に応えるため、あるいは自分自身の夢と、家族の期待を叶えるため、彼は南を目指し旅をして、人類が過去どうやって生き抜いてきたかを知った。彼は不幸にも冒険譚を持ち帰ることなく、風土病で死んだ。
ひとりは意志の弱い考古学の大学教授だ。ある心ないメディアに鼓舞された彼は、愛しい家族や大学から離れて北へと旅立ち、人類がなぜ辺境の地では生き延びられなかったのかを知った。彼も不幸であり、真相を心に隠したまま風土病で死んだ。
最後のひとりは強欲だが周囲への配慮を怠らない実業家だ。彼は人類発展のために未知なる資源を探して、遥か海を超えて、正にシャンバラと呼ぶべき島を発見した。彼もまた、例に漏れず風土病に倒れ、生命は取り留めたものの夢半ばにして冒険を諦めた。しかし、強欲な彼は持ちうる技術を結集して、人間でなくとも冒険が可能となる精密なドローンやロボットを創り上げた。彼は幸福のまま死に、業務は受け継がれた。
だが、その後は、どうなっただろう。40年経過した今、誰が、誰の遺志を継ごうとするだろうか。
“私”は考え続ける。
* * * *