四章 老婆と豊穣祭
今日はお祭りにございます。秋の豊穣祭。秋の神様たちに感謝をするお祭り。
私の家は農家ですので、神様にはお世話になっております。
歳がましても、それでも里に貢献出来る事が幸せに思います。
私は秋神様にお礼を言いに行くために歩いておりました。
豊穣祭故に人妖が入り混ざっておりまする。私はそれを区別は出来ませぬが。
「ああ、秋神様、今年も感謝にございます」
私は秋神様達の前にて礼をする。
「チヨさんこんばんは。あら……その羽根……」
穣子様が少し言い淀んでいた。胸飾りの大切な羽根。
「私の大切な人の羽根にございます」
「ふふっ、凄いわね。まさかの天魔様だなんて」
静葉様が笑っていらっしゃる。
「やはり、分かるのでございますか?」
「ええ。それはもちろん。妖怪の山を中心に幻想郷の秋を染めに回っているからね。その妖力には馴染みがあるの」
神様のことはよく分かりませんが、私はそういうものだと理解をしました。
「私の大切な人にございます故に。盗らないでくださいよ?」
少しの冗談を混ぜる。
「はは、チヨさんその冗談はきついよ。盗りはしないよ」
秋神様、二柱は少し苦笑いをしていらっしゃった。
「それではこれにて……」
「ああ、ありがとうね、チヨさん。これで私達も生きていける」
ハッハッハと大笑いの穣子様。それをたしなめている静葉様。私はゆっくりとこの場を離れていった。
私は祭りの人だかりを歩いていると後ろから声をかけられた。
「お久しぶりですチヨさん。元気にしていますか?」
この方は……射命丸様ですね。私は後ろを振り向く。里に来る時の服装だと思われる。
「お久しぶりです、射命丸様。私は元気にしていますよ。今回は豊穣祭の取材ですか?」
「ええ、そうですよ。しとかないといけないことなので」
忙しそうにメモをとっている射命丸様。
「天魔様はお元気で?」
聞いておきたかったことを聞く。
「ええ、ええ、元気にしております。むしろ会いたいとかずっと言っていますので私が会ったことは隠しておかないと……」
……とても大変そうだ。中々ですね……
「射命丸様、気をつけて下さいね」
「チヨさんに気をつけられるほどまだ落ちぶれておりませんので」
「それなら良かったですよ」
そう言って私は射命丸様と別れる。あとは……守矢の二柱に挨拶をいかないと。神様の信仰はとても大事にございますから。
守矢の神々のいる広間に入っていく。ゆっくりと私は風祝さんの所に向かう。
「こんにちは! 二柱にあいさつですか?」
「ええ、よろしくお願いします」
そうやって風祝さんの後をついていく。
「……おや?天魔の気配。ここは里だぞ?」
「八坂? ああ、本当だ。気配がする」
「お二人とも、客人をお連れしました!」
私はそう言われて前に出る。八坂様の目がこちらをうかがっている。
「そういうことか……まあ後から本人に問いただすとして……我を呼ぶのは何処の人ぞ?」
私は礼をしながら言うのです。
「チヨにございます。豊穣祭を無事にして下さり、ありがとうございます。そうして里に実りをくださり……」
「ああ、そこまででいい。時にチヨ、と言ったな?」
八坂様の声が私に問いかけられる。
「はい。そうでございます」
「あの堅物天魔をどうやって落とした?」
周りの空気が一変したように思った。
「それは……天魔様にお聞きください。私めが言うことではありませんので。お答えできなく申し訳ございません」
「そうか……なら下がるとしよう。それとそこまで言葉を固くしなくても大丈夫だよ」
急に言葉が軽くなる八坂様。
「いえ、これが私の言葉ですのでこのままで……」
「それなら良いが……本当に天魔のやつが羽根をあげているなんてね。そっちの方が信じられない」
「いやーほんとにね。あの堅物が良く落ちたもんだよ」
えっと……もう一柱様は……
「ああ、困っているようだね。私は洩矢諏訪子。どうとでも呼んでくれればいいよ」
小さきお身体の中からとてつもない力を感じますゆえに、とても大きな神様であられるのでしょう。
「それでは洩矢様と。天魔様は良い天狗ですので」
「ひゅー、人間に畏れられない天狗ってのも珍しいや。しかも天魔ときた! こりゃ数百年笑いものに出来るね」
洩矢様はケラケラと笑っていらっしゃる。
「まあ……天魔は悪い奴ではないが……最近なんか腑抜けてるなと思ったらそういう事か。後で弄ってやるか」
八坂様が少し不穏なことをおっしゃっている。
「あの……天魔様をいじめ過ぎないでくださいね……」
「大丈夫大丈夫。どうにかなるでしょう」
「御二方! あんまり笑いすぎも良くないとは思いますよ!」
風祝さんがたしなめていらっしゃる。この二柱相手によく言うものだと私は思う。
「まあ、天魔はしっかりしてもらわないと困るからね。そのぐらいしか言わないよ」
「それなら良いんですけれど……」
風祝さんは言いくるめられている。お手柔らかにお願いしたいものです。
「それでは八坂様、洩矢様、失礼しました」
「ああ、チヨさん、あなたに会えてよかったよ。出来ればまた神社にも来てくれると嬉しいかな」
山にはもう行かないと思っていましたが……神社ならばどうでしょう?でももう天魔様にはお会い出来ませんし……行けたら行きましょう。
「ありがとうございます。また行けたら行きます故に」
そう言って私は失礼した。
今日は様々な神様に出会えました。
豊穣祭は大切な祭りです故に、行けたことに感謝を。
天魔様……すみれ様もお元気で。