5.証人
突如として出現した怪物群が、また突如として消え失せてから早一ヶ月。
秋も深まり、冬の雪踏みしめる足音も徐々に聞こえ始めていた。
神社に森に、館に里に、どこも来る冬に備えて忙しなくしているようだった。
忙しい、つまり暇が無いというのは悪いことではなかった。余分が無いのだから、思考が堂々巡りすることも無い。新聞が売れないのは、言ってしまえばいつものことなのだし。
人里もまた活気があった。以前の沈んだ雰囲気はどこへやら。
『天狗の里』からの食糧配布と、比較的気候変動が少なく被害の少なかった人里からの援助――そこを手引きしたのは〈文々。新聞〉である――のお陰で食糧危機が去り、未だ〈願い石〉による失踪事件の傷痕こそあるものの、随分と元通りになったものだ。そんなことを内心呟きながら、射命丸文は悠々と人の間を抜け歩く。
すれ違う度に聞こえる会話はとても楽しげであり、それでいて目の前のことで精一杯といった感じ。大変よい。
「あ! 久しぶりじゃないか! 相変わらず細っこいね!」
頭にガツンと来る元気な声。八百屋の女将であった。
そういえば随分と顔を合わせていなかった。
「お久しぶりです。どうですか、お店は」
「一人だから中々お友達とお茶会なんて出来なくなっちゃったけど、なんとかやってるよ」
「それは何よりです」
「旦那も見守ってくれてるだろうしね、頑張るよあたしゃあ!」
胸を叩いて張り切る女将を見て、自然と笑みが零れる。
顔を出さなかったのは、女将がまだ暗い顔をしているのではないか、という不安からだったのだが、杞憂であったらしい。
「ほらほら! 天狗様印のお野菜持ってきな!」
「て、天狗様印……?」
貰った紙袋を見れば、可愛くデフォルメされた鼻高天狗の顔が印字されていた。
「天狗様は私らの為に一肌脱いでくれたって話だし、これからは仲良くやってかないとねぇ!」
あれだけ天狗に対して懐疑的だったのに、なんと現金なと思わなくもないが、ある意味でこれが人間の良いところである。
懐柔されやすいというのは短所に捉えられがちだが、柔軟な思考が出来るという風に見れば立派な長所だ。懐柔した側もこんな風見鶏みたくクルクルと見る方向を変えるのでは、顔の向きを固定させるべく躍起になるというもの。
「ありがとうございます。美味しくいただきます。では」
一礼して文は踵を返し、後ろ手に手を振りながら八百屋を後にした。
◇◇◇
背中を見送る女将は天狗のマークを見て苦笑していた文を思いつつ、少しだけ目尻に光るものを湛える。
彼女達は怪物に関すること、里に関することを事細かに調べあげていた。石には近付かない旨が書かれた天狗の新聞が出回ったのはその直後だ。しかも直近では他の里との会合の切っ掛けも作ってくれた。
あれで隠しているつもりなのだから、天狗という妖怪も随分抜けている。
利にはならなかったはずだ。それでも文は親身に話を聞いてくれたし、事実として人里の問題解決の立役者となった。
勿論、ほとんどの人間は文のやったことを知らない。
だからせめて、自分ぐらいは言うべきだと女将は感じた。
「ありがとう、天狗様」
◇◇◇
その後、博麗の巫女や魔法使い、風祝のところに軽く顔を出してはやたらと怪物退治の苦労を聞かされた。そのほとんどは、頑張ったのに最後は別の誰かに手柄を横取りされたという私怨であった。
何となくばつの悪さを感じつつも、営業スマイルで乗り切り離脱する。
変な汗を拭いつつ、次に向かったのははたての家である。
なんでも一ヶ月近く体調が優れなかったというから、さすがに心配になったのだ。
が――
「なによ、手土産の一つも無いわけ? こちとら病人よ病人」
同情した己を呪いたい。
はたてはベッドで横になりながら文に対してそんな不遜な態度を取る。
「元気みたいね、じゃっ」
「待って! ごめん嘘だから帰らないで! 寂しいこと言わないでよぉ!!」
何とも情けの無い声をあげるはたてに、嘆息する。はじめからそう言えばいいのに。
文が作業机とセットの椅子に腰を降ろすと、はたては怪物との決戦の日のことを話しはじめた。
摩多羅隠岐奈の『後戸の国』にて、延々と念写し続けていたのだ。しかも対象は次々と増える怪物全て。
それを文をはじめ、怪物討伐に出た巫女や他の人間、妖怪に隠岐奈が配った端末へ発信して位置を教えていた。
普通の探知には掛からない敵。力になれるならばなりたい。鼻血を出し、目は回り、頭は割れるように痛みながらも、必死に怪物を追い続けた結果、未だに本調子にならないと言う。
何故そこまでして、と問い質したが、そっぽを向いて――
「分からないのよね。でもやらないと、気分悪かったのよ」
と言うだけだった。
後に分かったことなのだが、怪物が増殖、消滅するまでの人的被害はほぼゼロ――森で一人、男の死体の一部があった程度――だった。
真意はどうあれ、はたての力無くして被害をここまで抑えることは不可能だっただろう。
文は椅子のキャスターを転がしてベッドの近くに移動すると、はたての普段は結われた長い髪をとかすように頭を撫でる。
「な、なによ……」
「なんでもー」
にひひと笑う文に、はたては困った顔をしていた。
結果論とは言え事態を拡げてしまった張本人として、はたて自身責任を感じていたのかもしれない。
なんにせよ、彼女も彼女なりに戦い、責務を果たしたのだ。
剣を携え戦う術が無い彼女の、新聞記者としての責務を。
これはあくまで妄想だが、きっとあの"二人"の為でもあったはずだ。
文は気恥ずかしさと、言ったところで無意味だと分かっていたから口には出さなかったが、心の中でありがとうと呟いた。
続いて向かったのは、椛のところだった。
完全憑依により共に戦ってからはあまり顔を――後始末で忙しかったのもあるか――見なかったので気にはなっていた。
マスターのダメージはスレイブにも及ぶ為、それで療養しているのかもとも思ったのだが、他の白狼天狗からの話を聞く限りでは、何やら奔走しているらしい。
"彼"との離別を忘れるのに必死なのかも知れない。
少し気が重かったが、家の戸をノックする。
と、中から慌ただしい足音が聞こえた。間が悪かったか、出直そうかと思っていると、ガラリと引き戸が開き、中から鬼気迫る表情の椛が現れた。
「お、おはよう椛……?」
お昼過ぎにも拘わらずの挨拶をしたのも束の間、突然抱き付かれた。
あまりに唐突であった為に、文は目を白黒させる。癖っ毛の髪と激しく振られる尻尾のインパクトが凄すぎて思考がまるで纏まらなかった。
ひとしきり堪能されると肩を掴まれたまま、椛は一度離れ、プリプリという効果音が入るのではという感じで文句を言ってきた。
「一ヶ月! 一ヶ月もですよ! なんで会いに来てくれなかったんですか!?」
わからない。
なんだこれは。
目の前にいるのは、あの気難しくすぐに噛み付く狂犬のような椛――ではなく、まるで忠犬。
うるうるとさせた瞳で見つめられ、存外悪くないかもなどと心臓を高鳴らせながら、咳払いして、質問する。
「誰かが変身してるとかじゃなくて、椛なんですよね?」
すると椛は露骨にショックを受け、肩から手を離し、数歩下がってその場に崩れる。
「酷いです……文様」
文"様"。
様付けとな。
下手をすれば敬称などくそ食らえとばかりに呼び捨てにしてくる椛が。
文の脳内で開かれた討論会では多種多様な論説の投げつけ合いになっていたが、結論など出るはずもなく、眼前で起きていることを受け入れることも出来ず、ただ頭から湯気を立ち上らせるのが関の山であった。
しかし一体どうしたことか。これではまるで別人だ。
正直な話、悪い気はしないのだが薄気味悪さが先行してしまう。
原因を考察していると、椛は立ち上がりおもむろに腕を絡めてきた。
「文様、お茶出しますからどうぞこちらに――」
まぁめんどくさいことは一先ず置いておこう。こんなに可愛く変貌を遂げたのは、僥倖と言える。これで喧嘩にならずにこき使うことが出来る。
そんな黒い思惑を知ってか知らずか、椛はニコニコと無邪気な笑みを向けてくる――瞬間、傍らにいた可愛げしかない椛が背後より駆けてきた何か狂暴な者に蹴り飛ばされた。
腕を絡められていた文もその勢いを受け顔面から地面へダイブした。
鼻高天狗ならあわや大惨事である。
「がぁ! ようやく見付けた! まさか探しに出たタイミングで入れ違いに侵入した挙げ句、家でくつろぐとは……」
椛であった。
いつもの椛。
が、蹴り飛ばされ泣きべそをかいている椛もまた健在。
「こ、これは一体……?」
混乱していた脳がより混乱をきたす。
右を見れば笑顔の眩しい椛。左を見れば怒りの形相椛。
「まぁなんだ、こっちの方がいいわよね。よーしよしよし痛かったねー」
「文様ぁ……」
文は笑顔椛の顎と頭をわしわし撫で回す。
直後――速く、鋭く、的確に放たれた刺突が、手の中にあった愛らしい椛の額を貫いた。
数瞬の沈黙、手から光の粒になって消えていく椛。
「貴様ぁ! 私の椛に何てことを!!!」
「誰が私のだ誰が!」
――本物の椛曰く、夢の中で出会った妖怪に警告されたのだという。
自分の鏡写しのような者が現れる可能性がある。それは夢の世界における犬走椛であり、完全憑依をしたことで本来入るべき受け皿――椛の身体から漏れ出たことで自在に動けてしまうと。
「つまり先程のが夢の椛ですか。確かに完全憑依による弾幕ごっこが盛んだった頃は、妙な行動に出る参加者が出たなんて話はありましたが……こんな形で裏が取れるとは」
次の新聞に使えるネタとして文花帖にペンを走らせていると、お茶を淹れる椛は嘆息しつつ、逆に文に質問した。
「お前、何で家に来た。何か用事があったんじゃないのか?」
椛側から質問とは、珍しい事もあるものだと驚いた。
言ってしまえば家に上がらせてもらうのも、お茶を出してくれるのも、かなり珍しい行動ではあるのだが。
彼女の中で、何かが変わったのかもしれない。
「あれから一ヶ月、身体の具合はどうかなと思ってね。私がマスターとは言え、あれだけ派手に攻撃を受けたのだもの。しかも弾幕とは違う、殺意ある攻撃を」
「大丈夫ですよ。鴉天狗と違って白狼天狗は丈夫なんで」
「そーかい。そりゃあ結構なことね」
「ところで、もう一つ聞きたいことがある……あります」
椛はその瞳で文を真っ直ぐに見つめ、言った。
正直なところ、あまり聞かれたくなかったし、言い出して欲しくなかったこと。
「私があなたの家で寝ながら完全憑依し、怪物と戦ったというのはわかりました。ただ……あなた以外にあの家、誰かいた気が、するんです」
事件解決直後、不可思議なことが起きた。
『幻想郷』に住む全ての者から、"二人"の記憶や痕跡が消え失せたのだ。
怪物が出た、それが拐かしや里襲撃の黒幕という部分は残っていたが、二人の人間が関わった部分のみ虫食いの如く無くなり、橋を失った道のように合点の行かない事件内容になってしまっていた。
四人で撮影したと記憶している写真も、妙な位置関係で立つ文と椛しか写ってはいない。
まるで、そこにははじめから誰もいなかったよう。
事実として、椛もはたてもまるで覚えていないという。
「メモがあったんです。あったような気がするんです。私のことを、犬のお姉ちゃんって――」
「椛」
名を呼び、言葉を制す。
「わからないものを追い掛けても、徒労に終わるだけよ」
椛はそれからも食い下がったが、忘れている以上思い出す必要は無いと考え、一切話さなかった。
何故か『幻想郷』で"文だけ"が覚えている姉弟のことを。
あの日、共に戦った家族のことを。
話せばきっと、忘れていることを重荷に感じてしまうだろうから。
不満げな椛に一抹の罪悪感を覚えつつも、なんとか誤魔化した文は、人が最も畏れ最も忌避を感じる場所に足を運んだ。
対岸見えぬ永い永い川。見えたが最後、現世との決別を約束される最期の地。
『三途の川』、その此岸側である。
以前のように紫の桜が咲いているわけではないから、それに引き寄せられたなどと難癖はつけられまい。
ギコギコと鳴るのはボロい木船の櫂の音。賽の川原で独り佇む。
求め人は、見つからず。
木船の船頭たる死神は、「また来てやがる」と悪態をつきながら、向こう岸へと戻っていく。
この一ヶ月、定期的に訪れていた。
悪人善人、男女に子供に大人に老人に関係無く、人間が最後に辿り着くのはこの殺風景な場所である。
閻魔様の裁きを受けにいく前の、最期の船旅。そのタイミングであればまた会えるかもしれない。そう思った。
だが一度だって二人は現れなかった。
やはり、所詮は紛い物の命。魂としてカウントされていないのやもしれない。
手頃な石を川に投げ入れ、溜め息一つ。
乾いた風が髪を揺らす。視界の端に、ある者が立っていることにようやく気付き少し驚く。
小さな身体だが、背負う存在感は『幻想郷』でも屈指の存在。
「小町から聞いてまさかとは思いましたが、本当にあなたがここにいるとは。ここには刺激的なネタは別に転がっていないでしょうに」
「そうですね。転がってるのは手頃な石ころぐらいです」
また一つ石を川に投げ入れながら、楽園の裁判長、四季映姫・ヤマザナドゥを見やる。
厄介な人に目を付けられてしまった。あえて二人のことを死神に聞かずにいたのは彼女の耳に入るのを避けたかったからなのだが、サボりの死神め余計なことをと内心毒づく。
「自殺志願というわけでもないでしょう? あなたは生に執着しているタイプですし」
乾いた笑いでその悪口――本人は悪口とは思っていないだろうが――を流すと、どうせ目を付けられたなら聞いてしまった方が早いなと考えた。
「閻魔様に是非お聞きしたいことがあります」
文はこの二ヶ月程のことをかいつまんで話した。
願いを叶える怪物。
それにより生き還った二人の外来人。
姉弟である二人と暮らしたこと。
怪物を倒すことで二人も消滅したこと。
消滅したことで、皆の記憶からも消えたこと。
映姫は時折頷きながら、文の話を黙って聞いていた。そしてあらましを話し終わったタイミングで、口を挟んできた。
「成る程。確かにそのような姉弟の話は私も聞き及んでいません。それが本当であれば、やはり二人の魂は怪物によって喰われたということになってしまうのやも……。しかし態々こんなところまで探しに来るとは、あなたはその姉弟とまた会いたいと考えているわけですね?」
その口調は少しだけ嬉しそうに聞こえる。
彼女はかつて人間、子供を見守る地蔵菩薩であったのだから、文の行動や三途の川を訪れた動機は喜ばしいものなのだろう。
しかし思うのだ。
二人に会ってどうする?
特に何も考えていなかった。ただ後悔はある。もっと気の利いた別れの挨拶ぐらいあったのではないかと。
そして謝ろう。
約束守れなくてごめん、と。
「動機は不純です。あくまで自分の中にしこりを残したくないだけですから」
「あら、不純な動機で行動しない妖怪がこの世界にどれだけいるかしら」
「……確かに。不純で利己的、それが妖怪の在り方ですね」
自嘲する。
何をらしくないことを。永い年月生きてきて、その内のたった数ヶ月の付き合いでしかない子供に、これは過度な感情移入でしかない。
もしくは、悲劇に酔ったナルシシズムか。
それこそ一笑して蹴り飛ばせる程にあり得ぬ話だ。
下手に話せば頭がおかしくなったのだと笑われるような出来事。それでも話すことで、心の整理はついた。
「話を聞いていただいてありがとうございます、閻魔様。お陰で吹っ切れました」
「それはよかった。ただ私はメンタルセラピストではありませんからこれきりにしてくださいね」
優しい笑顔を浮かべる映姫に苦笑しつつ、文は翼を広げた。補助的な力――隠岐奈の扉など――が無くともすっかり傷の癒えた翼には、最早傷痕らしい傷痕は皆無であり、本当に今回の事件が全てが終わったことを改めて感じる。
『幻想郷』は変わらず、己もまた、変わらないだろう。
そんな文を見て、映姫は言った。
「仮に誰も覚えていなくとも、あなただけは覚えている。知っていますか? 人間にとって本当の死とは、妖怪や神と同じく、皆に忘れられた時に訪れるのですよ」
映姫は文に一歩近付き、胸を指差す。
「無縁で無ければ、誰かが心に繋ぎ止めていれば、生きていた証は消滅することはない。だからあなたが消えたと思わなければ、縁はそこにある。あなたの利己的な心の端にでも二人を置いておくことです。あなたこそが尊き姉弟がいたことを証明していく、ただ独りの証人(あかしびと)なのですから」
「証人……」
「そうですとも。神秘や怪異を永らえさせる為に人々を使っているのですから、逆もまた然りです」
鴉天狗の射命丸文は新聞記者である。記録を残しておくことなどは、家事をこなすよりも簡単なことなのだ。
一陣の風を残し、文は飛翔する。死に最も近い場所はあっという間に遠退いていく。
書くべきことは決まっている。夕食までには記事を練り上げなければ。
この生活サイクルもまた二人が隣にいたことの証明だなと、文はふと思い、自然と笑みが零れた。
後日、〈文々。新聞〉は人里が未曾有の自然災害、そして怪物の襲来に対してどのように戦ったかを特集する記事――撮影協力・姫海棠はたて――を掲載した。
天狗を持ち上げるような内容で、わざわざその為に"いもしない二人の姉弟"を登場させたりと、相変わらず脚色が酷すぎると皆呆れ顔であったが、物好きな人々にはそれなりの好評を得た。
霊夢や魔理沙の酷評に対しても、文は反論せずに、邪気の無い笑顔で「そうですね」と応えたという。
◇◇◇
文がその場を去ってすぐ、映姫を迎えに来た者らがいた。
「あら、あなた達ですか。小町は?」
三途の川と妖怪の山の裏側、その間に位置する死者が通る道、『中有の道』の出店に用向きがあるらしい、とそれは答える。
「まったくあの子は……。あとでお説教が必要ですね」
その迎えは未だ死神としての姿を確立出来ていない、霊魂のままの格好であるが、カラカラと笑っているのがわかった。
その傍らからひょこりと顔を出したもう一つの霊魂が、文のことを聞いてきた。
「え? 先程の妖怪ですか。あれは天狗の新聞記者です。えぇ、久遠の命を生きる彼女は我々とは縁遠い存在ですね。――楽しそうな人、ですか? むしろ他人を面白可笑しくあげつらうのが彼女の役割ですが……」
そこまで言ってから、映姫は思い当たる。
成る程――こういうことも、無くはないのだろう。
「では行きましょうか、船を出してください。それにしても――あなた達はいつも二人、仲良しさんですね」