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夜の紅魔館。
フランドール・スカーレットがベッドの上で詩集を読みながら寝っ転がっていると、とん、とん、と扉をノックする音がした。このノックの音は何となく聞き覚えがある…きっと…
「はーい。いるよ、お姉さま」
「さすがね。私よ、フラン」
フランが返事をすると、扉から、白のドレスを身にまとうお姉さま…レミリア・スカーレットが顔を覗かせて、ふふ、と微笑んだ。そして、ベッドの上に転がった詩集を見て、目を細める。
「詩集を読んでいたのね。面白い?」
「…どうかな。この季節にぴったりかな、という気はするけど」
ぽんぽん、とその詩集―――ポール・ヴェルレーヌの『落葉』―――を、なでながら、フランはのんびりと返事をする。
…珍しいな。今までだったら、こうして、何の本を読んでいるかなんて、お姉さまは気にしたことなんてなかったのに。
お姉さまもそこそこの読書家だとは聞いていたし…それで気になったのかな?
「それで、今日はこんな時間にどうしたの」
珍しいといえば、こんな時間にお姉さまが訪ねてくること自体、珍しいのだけど。何があったのだろう、とフランは身を起こして、ベッドに座る。
「えぇと、それがね」
レミリアは、刹那、少し戸惑ったかのように眉をハの字に曲げて…照れくさそうに、微笑んだ。
「……咲夜がハーブティー、淹れてくれるの。今日は月も綺麗に出ていることだし、一緒にお茶しないかしら?」
「…………」
開いた口がふさがらない、とはこのことだろうか。フランは返事をすることも忘れて、驚きで目を見開いていた。
「…お姉さま、本当にどうしたの?何かおかしなもの食べた?」
「食べてないわよ。私は至って正気」
「本当?だって今まで、こんなこと聞いてこなかったじゃん…」
「あー…それは、」
レミリアは、また言いづらそうに口を少しつぐませて……深々と、頭を下げた。
「ごめんなさい」
「……何が?」
「今まできちんとかまってあげることが出来なくて。私はね、」
そうしてレミリアは頭を上げて、真っ直ぐな目で、フランを見つめた。
「……あなたのこと、ちゃんと見てあげたい。これからでも良いから、あなたと、どこにでもいる『姉』として…接してあげたいの」
「…ふぅん」
フランの反応は、自分でもびっくりするくらいにはあっさりしていた。
正直、お姉さまのことを、そこまで憎いだなんて、思ったりはしていなかった。お姉さまが館のこと、家族のことでずっと手一杯だったのは分かっているから、お姉さまが私に構ってこなくても、別に何とも思っていなかったのだ。能力の制御がうまくいっていなかったあの時の自分が部屋に閉じこもることになったのも、まぁこういうことだったのかな、とちょっと諦めてもいた。むしろ、今こうして自由に動けるようになったのが、運命というか、奇跡のめぐりあわせなんじゃないかって気はしているし。
だから、お姉さまがこうして謝ることなんて、ないのだけれど……まぁ、今のお姉さまにこういうことを伝えてもきっと私に対する気持ちが払拭されることはないだろうし、黙っておこう。
…まぁ、けど。これはこれで、悪くなさそうかな。
これから、今までとは違う、楽しい日々が待っている。
そんな気がするから。
「…そう。分かった」
フランは、頬を緩めると、ベッドから立ち上がって、つかつか、と扉へと歩き出す。レミリアの横を通るとき、レミリアが驚いたようにこちらを見つめてきていたので、フランはふふ、とおかしげに微笑んだ。
「何してるのお姉さま」
…そうだそうだ。こんなお姉さまの顔を見るのも、一体いつぶりだったかなぁ。いつも凛々しい、というか固い、というか、そういう「当主」としての顔しか、私には見せていなかったのに。
ふふふ。本当、今日は珍しいものを見てばっかりで、とっても愉快な気分だ。
「咲夜の淹れたハーブティーが冷めてしまうわ。だから早く行きましょう?」
素敵なお話でした。
秋神との邂逅によってレミリアの心にも変化があったようで何よりでした
吸血鬼のくせに景色みて感傷に浸ってるのが最高でした。