椛は可愛く目を閉じた。白髪が最後の月灯りにふわふわ浮かび上がっている。
にとりも小さく目を閉じて──
キスした。唇に。
「んんっ……」
「奇遇だね、椛? 私も、大好き」
ぼんっ! と頭が一瞬で爆発した。なんてことを!
我ながらふらふらと望遠鏡のところまで行って、それを片付けようとする。
こんな顔、椛に見られたくない……!
カチャカチャと本体を三脚から外している時、後ろから抱きしめられた。
「私も、にとりちゃんに負けないくらい、にとりちゃんのことが大、大、大、大好きですよぅ?」
「へ、へへっ、そう言われると照れるな……」
むぎゅむぎゅされる。すっごく心地良い。このまま寝ちゃいたいくらいだ。
姿勢的に顔を見られないのも、今はちょっとだけありがたい。
お互い無言で、にとりは椛のぬくもりを感じながら片付けを終らせた。
「あ、あの流れ星、さ」
「ええ」
「一回私の家に持ち帰っていいかな? 二つに割って片方ずつ持っておきたいんだ」
「だーめーでーす!」
頭の上から不満そうな声がかかる。え、なんで? とハテナが頭の中でぐるぐる周る。
こうなると椛は聞いてくれない。
「じゃ、どうするの?」
「石を割るんじゃなくて、私がにとりちゃんの家に住みます! そうすればほら、一つのままでいいでしょう?」
そりゃ合理的だ──いや違うだろ。
風呂敷を結んで、にとりは言葉を選びながらゆっくり口を開いた。
「次の休み、博麗神社に行こうか」
「ふぇぇ! で、でも、とっても嬉しいです!」
椛が頬ずりしてくる。しっぽのぱたぱたが史上最速だ。
まったくもう、椛は可愛い。
しばらく二人は抱き合ったまま、満月が手を振って雲の海へ還るのを眺めていた。
「さて、冒険は生きて帰らなきゃね? 帰りも頼めるかな?」
「はい! 幸せの分だけ、にとりちゃんが軽く感じますよ!」
椛は今日四回目の翼を広げた。何回見ても、神々しさが漂ってくる。
風呂敷を担いで、椛の背中に乗る。凄くあったかくて、凄く広くて、凄く安心する。
「寝ないで下さいね? 万が一落っこちちゃっても何とかしますけど!」
「大丈夫さ。それじゃ帰ろうか、私達の幻想郷に!」
しっぽが背中にかかる。首筋をもふりとくすぐる。
とっても気持ちいい!
そうして二人は大空に飛び上がり、雲海の下にある懐かしの我が家へ向かってスピードを上げた。
東の空からは、朝陽がニッコリと顔を出し始めていた。
最後にとんでもない量の砂糖を口の中に注ぎ込まれたような芳醇な甘さでした。ごちそうさまでした。