Coolier - 新生・東方創想話

水と千里の星海ホロスコープ

2020/07/28 22:03:12
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自分で言って、ぽっと顔が赤くなる。おずおずと横を見る。椛もちょっと顔を赤らめている。
二人で山肌に座って、海のほとりにしばし佇む。姿勢を直したら、椛の手に触れる。にとりはそこへそっと手のひらを重ねた。
静かに鼓動が高鳴る。反対側を見ると、そこの地面には二人を歓迎してくれるかのように、椛のしっぽみたいな純白の山百合が咲き誇っていた。
「こ、これって、いわゆるアレですか。何て言いましたっけ」
「人間で言うところの『逢引』ってヤツだね、ふふっ」

今度は空だ。月以上に星は全く近くなっていない。なのに信じられないくらい澄んでいて、信じられないくらい瞬いている。
これは夢なんじゃないか? そんな思いがにとりの頭によぎった。
赤とか青とか、そんな色を付けることすらおこがましくなるくらい、無数の星達が無数の色を持っていた。
しばらく二人で見とれていたが、やがてにとりは立ち上がった。
「てっぺんまで行こう。そしたら三脚を立てて、星を捕まえよう」
「はい! また乗せて行きますよ!」
「うん、よろしく!」

青と黄色が絶妙に混じった、大きな満月の下で、椛は再び翼を広げた。それは琉璃か瑪瑙か琥珀石、とにかく翼それ自体が輝いているように錯覚した。
それくらい椛は綺麗で美しくて、思わず目を覆ってしまった。
椛がしゃがむ。にとりが乗る。飛び立った空は自由で、外界の全ては雲海の底に沈んだ。
「椛、最高だよ、椛! 本当にありがとう!」
「えへへ、どういたしまして。でもまだ最後のお楽しみがあるんでしょう?」
「もっちろん!」

稜線を伝って、音もなく上昇気流でも捕まえたようにすーっと椛は飛んだ。
時々ばさばさと翼をはためかせる度に、一枚か二枚の羽が抜けて水晶の煌めきを放ちながら静かにゆらゆら落ちていった。
天空を楽しみながら着いた星降山のてっぺんは、名前に反して岩のごつごつした場所だった。
そこへふわりと降り立った椛は、もうなんか月からの使者なんじゃないかと思った。
「少しでも平らな場所を探そう」

三脚を置くにちょうどいい場所を探すこと数分、ガタつかなさそうな地面を見つけてそこに三脚を立てた。
こんなところにも生えている雑草と、そこに浮かぶ夜露が、今夜ばかりは無性に愛おしい。
望遠鏡の調子を確かめる。うん、問題なし!
三脚に本体を据え付ける。次にレンズ。完璧な角度と深さで嵌め込む。最後にキャップを外して、儀式めいた動きでちょっと覗いてみた。
「あ、あ、あぁ……」

嘆息した。これ以上は言葉にしなくてもいい。
椛を呼んで、ファインダーに目を当てるように言った。彼女はウキウキでそれを覗き込み──そして黙り込んだ。
「お星さまって、豆粒よりもちっちゃいのに、どうしてあんなに光るんだろうって、そう思ってました……」
「私もさ」
「これ、動かしても大丈夫ですか?」
「あぁ、固定してるからぐるって回せるよ。三脚ごと動かさないようにね」
「はい! あ、あれ、月の都じゃないですか! 八意先生達の出身とかいう! ウサギかどうかは分かりませんけど、何かすっごく小さいのが動いてます!」
「きっと餅つきの最中さ」
「す、すごいすごい! なんですかこれ! なんなんですかこれ!」
「だから言っただろう、星を捕まえる装置さ」
「明るいです! おっきぃです! キラキラです! ウサギさんのお庭がありますー! あぁっ、あれは仙人様のお屋敷なんでしょうか!」

にとりは微笑を浮かべて、光の窓を夢中で眺め続ける椛を見つめた。興奮を抑えきれずにぶんぶんしっぽを振っている。
連れてきて本当に良かった。そして、いてくれなかったら絶対に辿り着けなかった。
椛がここまで喜んでくれているのが、今日、いや今までで一番嬉しい。
さて、とにとりは地図と星図を取り出した。輪っかのある星がある、と聞いたことがあったから、頑張って調べてきた。
「椛、ちょっと代ってくれ。見たいものがあるんだ」
「ふぇ? はぁい」

残念そうに彼女はファインダーから目を離した。
星図とにらめっこしながら望遠鏡の角度を調整しては覗くことを繰り返す。
外の世界で作られた星図だから、正確なところはレンズに映った世界を見てみないと分からない。
ひたすら空と格闘していたところ、椛が後ろから抱きついてきた。そして頭の上にたわわがのしり。
「えへへぇ、今日は本当に楽しかったです。将棋もいいですけれど、たまのお休みにはまた『逢引』しませんか?」
「ばっ、ばかを言うんじゃないよ。私だって忙しいんだ、そんなちょくちょくは……」

頭の大きさがぴったりなのか、椛は載せてきた胸を下ろす気配もない。というか完璧にハマって動かない。
むぅ、と喉からごろごろした声を出して、輪っかを探し続けた。やっと見つけて声を出そうとした瞬間、とんでもないことが起きた!
「流れ星だ!」
「えっ!」

肉眼でも見えるはずだ。椛が空に目を凝らしている間、にとりも夢中になってレンズ越しにあっちこっちを見た。
しゅーっと光を放っては一瞬で消えていく。箒星の名前通りだ。
画面に広角で映ってくれないのが悔しいところだが、尾を引いているところがバッチリ見える。
「あっ、あっちにも出ました! こっちにも!」
「流石は星降山だ! ここまで頑張って来たことにご褒美をくれてるんだ!」

夜空の星が、一つひとつ落ちてくる。何個も何十個も。なのに星海は一粒も減ったようには見えなかった。
こりゃ一体どういうことなんだろう。空はどんな魔術を使っているんだ!
星を数えようとしてみた──無理だ、沢山ありすぎる!
一つくらいは捕まえられるはず……!
そう確信して、にとりは風呂敷から特製「星取り網」を取り出した。糸じゃなくて鋼線を張り巡らせた、お手製の逸品だ。竿の部分も竹じゃなくて鋼管だ。
「って、それで取れるんですかぁ?」
「さぁね。でもやってみなきゃ分からないじゃないか!」

輪っかの星はどうでも良くなって、にとりは網を構えて辺りをぐるぐるし始めた。
ここは『流れ星のゆりかご』だ。一つくらい落ちてきたっていいじゃあないか?
しっぽの長い星、短い星と色々あるが、どれもこれも空の途中で光が消えてしまう。
一体どこに行ってしまったんだと思いながらなおも探す。気付いたら椛も隣に座って、捕物モードに入っていた。
「ん?」

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