Coolier - 新生・東方創想話

水と千里の星海ホロスコープ

2020/07/28 22:03:12
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そこから先は一瞬だった。
急に空の一点が明るくなった。それは青かと思いきや赤くて、まっすぐにこっちへ突っ込んでくるように見えた。
いや違う、本当に突っ込んできた!
逃げようと足を一歩後ろに下げた瞬間、椛がその牙をハッキリと剥いたのを見た。
瞬きをする前は背中の羽根はしまわれていたのに、瞬きの後そこに椛はいなかった。
翼をまとって飛び上がった彼女は、これまたいつ抜いたのかも分からないくらい素早く太刀を抜いて、流れ星を斬った──多分、正確には弾いた。
耳が破れんばかりにとんでもない音がして、星が地面に激突した。にとりには乾いた笑いしか出てこなかった。
こんな「星取り網」じゃ、捕まえられっこなかった。そして、椛には本当に助けられた……
「大丈夫でしたか、にとりちゃん!」
「う、うん、なんともない。ありがと……うぷっ」

椛が太刀をしまって降りてきて、ぎゅーと力強く抱きしめてきた。胸に顔が埋もれる。鼻が潰れる。く、苦しい……!
涙声の椛が、上ずった息遣いで何度も話しかけてくる。大丈夫かとか、痛いところはないかとか。でも答えようがない。
しばらくむぎゅむぎゅされた後、やっと椛は身体を離してくれた。
「椛のおっぱいで窒息事故」なんて文に書き立てられたら、それこそ死んでも死にきれない。
椛は安心した顔を浮かべていた。涙を含んだ笑みが月影に浮かび上がる。それは天女の誘惑だった。
「あぁ、良かったですぅ……」
「気にしないで。本当にありがとう、助かった。椛は恩人だよ。それで、見に行こうよ? 椛が斬った、あの流れ星をさ」

彼女がうるうる目で見つめてくる。ドキッと心臓が跳ねて、にとりは顔をそらした。
椛は心配そうにあちこちぺたぺた触ってきたが、やがて本当に大丈夫だと信じてくれたのか、手を握ってきた。
かなり恥ずかしかったが、ここで手を離すとまた泣きそうな感じがしたので、黙って握り返すことにした。
爆心地は煙を上げていた。よく見ると流れ星は石ころで、赤熱こそしているがもう眩い程の光は放っていなかった。
こいつは妙な話だ。石が燃えるのか? それとも燃えるところがもうなくなったのか?
それは拳と同じくらいの大きさで、当たったら一発でオシャカだった。そうなった時のことを考えた。
まだ映姫のところには行きたくない……
「はぇー、流れ星って石? だったんですねぇ」
「みたいだね。お土産に持って帰ろっか」

こういう時も水を操れることは便利だ。ひたすらじょばじょばかけて冷やしていく。焼け石に水とはいうが、その内冷えるはずだ。
「あ、そうだ。椛さ、さっきの望遠鏡もっかい見てみなよ? ズレてなきゃ輪っかのある星があるよ。『惑星』ってんだ」
「へぇ、ちょっと見てみますね?」

椛は仕事でもしてるみたいに辺りを哨戒すると、警戒感丸出しでファインダーに再び目を当てた。
すると今度はさっきのようなはしゃぎようではなく、ほーっとため息を漏らした。
はぁーとかほぁーとか声にならない声を上げている。
取り敢えず流れ星は「星取り網」で担げるくらいの熱量になった。掬い上げて落ちないように縛る。
これを分析するのもいい。椛にプレゼントするのもいい。二つに割ってみようか、でもそんな道具はここにはないな……と色んなことを考えながら椛の所に戻る。
「どう、椛?」
「星に輪っかがあるなんて、信じられないです……! これ、夢を見せる機械じゃないんですよね?」
「もちろん本物さ。保証するよ」
「ふぁ、ふぁぁぁぁ!」

椛はしっぽをぱたぱたさせている。白くて毛ヅヤが綺麗で、今すぐ飛び込んでもふりたいくらいだ。
そしてその夜はそのままずっと、あっちへこっちへと望遠鏡を回してみながら過ごした。時々交代したり、流れ星を眺めたり、月に向かって手を振ってみたりした。
少しずつ月が傾いてきて、もう何時間ここにいるんだか分からなくなったころ、椛が東の空を指差した。
「あっ、夜が空けてきましたね?」
「ん? あぁそうだね、もう明るいや」

東の雲海は晴れかかっていて、山々の稜線に沿って白い空が見える。すっかり徹夜しちゃったなと思いつつ、でもこのテンションは一切の眠気を振り払っていた。
月も、星も、雲海も、全てが忘れられぬ印象となって、頭の中に強烈な焼印を押してきた。
「にとりちゃん」
「ん?」

振り向いた瞬間に、椛がしゃがんできた。同じ顔の高さになって、どうしたのと聞くよりも前に、ほっぺにちゅーされた。
「今日はありがとう、こんなに素敵な景色を見せてくれて。それに、こんなに高く高く飛んだのも久しぶり! 本当に楽しかったですよ?」
「え、えへへ、そりゃ良かった。こちらこそだよ」

椛が顔を赤く染めている。それは、沈みかけた月と、昇りかけている太陽の両方が混ぜ合わさって、椛の可愛さが三割──いや三倍増しになっていた。
「だーいすきです、にとりちゃん!」
「え、えへへ……じゃ、私からもお礼。さっきは流れ星から助けてくれてありがとう。ちょっと目をつぶってくれる?」
「ふぇ? にとりちゃんもほっぺにちゅーしてくれるんですか? えへへぇ、嬉しいですぅ」

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