「ねぇ、星降山まで行こうよ。凄くいいものを作ったんだ!」
「はぇ? 何しにです?」
「もちろん、星を捕まえにさ!」
河城にとりは開口一番、しかも先週やりかけたままの盤面よりも先に、犬走椛へとキラキラに輝かせた目を向けた。
滝から水が流れ落ちて、遠くで一定の穏やかな旋律を奏でている。
「星って……虫取り網みたいな物で捕まえられるようなものなんですか?」
「ふっふっふー、それもできるんじゃないかって、今準備してるとこ。それよか、『こりゃ確かに捕まえたぞ!』って絶対言わせてみせるよ?」
ふんすと胸を張る。いや張るほどにはないのだが。
彼女は怪訝な目をしている。また変な発明をしたんだろうという顔だ。分かる。前科なら食べたきゅうりと同じくらいいっぱいある。
でも今回は違うんだ!
「それにしたって、どうやるんですか?」
「へっへっへー、それは秘密! だって今教えちゃったら面白くないだろ? でもイタズラで作ったんじゃない、これだけは約束するよ」
約束は破ったことはない。特に椛との約束は。だから、信じて欲しい!
任せなさいとポンと自分の胸を叩く。椛はアゴに指を当てて少し考え、ちょっとしてから頷いてくれた。
「ふむー。にとりちゃんがそこまで言うなら、連れて行ってあげますよ? その代り……」
「その代り?」
「干し肉下さい! すっごく噛みごたえがあるのを!」
「はっはっは、お安いご用さ」
やったぁと椛は両手を上げて喜んだ。人間の子供みたいに無邪気に笑っているのに、背丈はにとりのそれより頭一つ分高い。
そんな彼女を見ているだけで、ちょっと心がほっこりする。
次の休みに一緒に出かけることを決めて、二人は将棋盤に向かい合って座った。
椛は盤面を睨みながら、銅将を斜め前に出す。それを猫叉で受ける。
もふもふの白いしっぽが左右にぱたりぱたりと揺れている。
そこに包まるとすっごくいい匂いがするしふわっふわで気持ちいいのだけれど、よっぽど機嫌が良い時でないと絶対に触らせてくれない。
パチパチ駒を動かしながら、にとりはゆっくり口を開いた。
「悪いんだけど、行く時は私の家まで来てくれない? 荷物が色々あるからさ」
「はぁい。夕方、そこにある杉の太枝へお陽さまがかかったら出発しますね」
そこからはお互い無言になる。彼女が腕組みをしながら互いの浮き駒を探っていた。
その腕にたわわが二つ載っていて、にとりはちょっぴり切ない気分になった。
数刻して、勝負はついた。
「王手」
「え? ウソ、そこから? あー、うー、うわぁ、負けた」
「えへへぇ、私の勝ちですぅ! ご褒美にアレやって下さい、アレ!」
今度は椛の目がキラキラし始めた。何ならさっきの自分より元気いっぱいなくらいだ。
二人は外に出て、にとりはカバンからフリスビーを──香霖堂で買ってからというもの、椛には大人気だ──取り出した。
それを、腕のスナップを思い切り効かせて遠くへ投げる。
「とってこーい!」
「わぅっ!」
しゅるしゅると回転しながら空に舞うピンク色のそれを椛は必死に追いかけた。そしてばっとジャンプする。
フリスビーを口で見事に咥えると、ぱたぱたとしっぽをちぎらんばかりに振りまくって戻ってきた。
「よしよし、上手く取れたね」
「わぅぅ、くぅん! にとりちゃんになでなでしてもらうの、すっごく気持ちいいし……嬉しいですぅ」
それを受け取って、頭を撫でたりアゴをくすぐったりする。ちょっと長くやっていたら顔が上気してきた。
その艶のある表情にドキッとする。
「ねね、もう一回! もう一回お願いします! ……はっ、念のため言っておきますけど、私は犬じゃないんですからねっ!」
「はいはい」
董子がこーゆー性格のことを何とか言ってたな──そんなことを思いながら、にとりはもう一回フリスビーを全力で空へと飛ばした。
今度は笛も買ってみよう。犬と笛……いや狼と笛。中々に似合いそうじゃないか。
「はぇ? 何しにです?」
「もちろん、星を捕まえにさ!」
河城にとりは開口一番、しかも先週やりかけたままの盤面よりも先に、犬走椛へとキラキラに輝かせた目を向けた。
滝から水が流れ落ちて、遠くで一定の穏やかな旋律を奏でている。
「星って……虫取り網みたいな物で捕まえられるようなものなんですか?」
「ふっふっふー、それもできるんじゃないかって、今準備してるとこ。それよか、『こりゃ確かに捕まえたぞ!』って絶対言わせてみせるよ?」
ふんすと胸を張る。いや張るほどにはないのだが。
彼女は怪訝な目をしている。また変な発明をしたんだろうという顔だ。分かる。前科なら食べたきゅうりと同じくらいいっぱいある。
でも今回は違うんだ!
「それにしたって、どうやるんですか?」
「へっへっへー、それは秘密! だって今教えちゃったら面白くないだろ? でもイタズラで作ったんじゃない、これだけは約束するよ」
約束は破ったことはない。特に椛との約束は。だから、信じて欲しい!
任せなさいとポンと自分の胸を叩く。椛はアゴに指を当てて少し考え、ちょっとしてから頷いてくれた。
「ふむー。にとりちゃんがそこまで言うなら、連れて行ってあげますよ? その代り……」
「その代り?」
「干し肉下さい! すっごく噛みごたえがあるのを!」
「はっはっは、お安いご用さ」
やったぁと椛は両手を上げて喜んだ。人間の子供みたいに無邪気に笑っているのに、背丈はにとりのそれより頭一つ分高い。
そんな彼女を見ているだけで、ちょっと心がほっこりする。
次の休みに一緒に出かけることを決めて、二人は将棋盤に向かい合って座った。
椛は盤面を睨みながら、銅将を斜め前に出す。それを猫叉で受ける。
もふもふの白いしっぽが左右にぱたりぱたりと揺れている。
そこに包まるとすっごくいい匂いがするしふわっふわで気持ちいいのだけれど、よっぽど機嫌が良い時でないと絶対に触らせてくれない。
パチパチ駒を動かしながら、にとりはゆっくり口を開いた。
「悪いんだけど、行く時は私の家まで来てくれない? 荷物が色々あるからさ」
「はぁい。夕方、そこにある杉の太枝へお陽さまがかかったら出発しますね」
そこからはお互い無言になる。彼女が腕組みをしながら互いの浮き駒を探っていた。
その腕にたわわが二つ載っていて、にとりはちょっぴり切ない気分になった。
数刻して、勝負はついた。
「王手」
「え? ウソ、そこから? あー、うー、うわぁ、負けた」
「えへへぇ、私の勝ちですぅ! ご褒美にアレやって下さい、アレ!」
今度は椛の目がキラキラし始めた。何ならさっきの自分より元気いっぱいなくらいだ。
二人は外に出て、にとりはカバンからフリスビーを──香霖堂で買ってからというもの、椛には大人気だ──取り出した。
それを、腕のスナップを思い切り効かせて遠くへ投げる。
「とってこーい!」
「わぅっ!」
しゅるしゅると回転しながら空に舞うピンク色のそれを椛は必死に追いかけた。そしてばっとジャンプする。
フリスビーを口で見事に咥えると、ぱたぱたとしっぽをちぎらんばかりに振りまくって戻ってきた。
「よしよし、上手く取れたね」
「わぅぅ、くぅん! にとりちゃんになでなでしてもらうの、すっごく気持ちいいし……嬉しいですぅ」
それを受け取って、頭を撫でたりアゴをくすぐったりする。ちょっと長くやっていたら顔が上気してきた。
その艶のある表情にドキッとする。
「ねね、もう一回! もう一回お願いします! ……はっ、念のため言っておきますけど、私は犬じゃないんですからねっ!」
「はいはい」
董子がこーゆー性格のことを何とか言ってたな──そんなことを思いながら、にとりはもう一回フリスビーを全力で空へと飛ばした。
今度は笛も買ってみよう。犬と笛……いや狼と笛。中々に似合いそうじゃないか。