地上には、幾多もの色が溢れていた。
私はそれら全て、忌むべき穢れとして避けなければいけないと、自分に言い聞かせた。
その中であなたの髪の毛の色は、月で見た時と変わらず、立葵の花を思わせる薄紫色をしていた。
あなたの髪の毛の色は、月の都の不浄さと同じように、穢土よりずっと高くに在るように見えた。
それなのに。どうして、あの頃と少しも変わらないあなたの赤い瞳は、そんなにも真っ直ぐ、私たちを見据えられたのか。
狂気に笑う彼女に、必ず戻ると告げて。
あなたの弱さを突いた私の怨み言に、ただぎゅっと耐えて。
あれほど臆病だったあなたが、どうしてあのような振る舞いができたのか。
どうして、月の都から逃げ出したあなたが、月の都を目指す地上人たちの呼び声に力強く応えられたのか。
あまつさえ、少しの躊躇いもなく月の都への経絡へ跳び込んだのか。
私はあなたが地上で過ごした五十年間を何も知らない。
もしかすると私にとって、いまのあなたは、まるで分らない相手になってしまったのだろうか。