私はやっと退院することが出来た。目が覚めてから身体の火傷はみるみる治り、背中の羽は少しづつ生えてきている。周りが薄暗く見えていた視界も疲れて時々休まなくちゃいけないけれどもしっかりと見えるようになっていた。
お燐に迎えに来てもらっている。私は永遠亭の玄関で座って待っている。永琳先生はもう少しだけ休養が必要だと言われたけれど怪我の治り具合から退院しても大丈夫だって。やっとさとり様に会える。さとり様にごめんなさいって言うんだ。許してもらえるのかな。少し怖い。ぼうっと扉を見る。誰か来たのか影が出来た。
「お空を迎えに来ま……てうわぁっ!?」
ガラガラと戸が開いたと思えばお燐だった。いるとは思ってなかったのだろう、猫の耳がピンと立っていた。
「あ、やほーお燐。迎えに来てくれてありがとう」
ひらひらと手を振ったらお燐は怒った。
「もう! お空、びっくりさせないでよ! 心臓止まるかと思ったじゃないか!」
「あはは、ごめんごめん。さとり様なんか言ってた?」
「無事に帰ってきてって。それと待ってるって」
お燐は手を伸ばしてきて、私はそれを取る。引き上げてくれる勢いで立ち上がる。
「そっか。さとり様に謝らないと……」
「はは、それはあたいは知らない。おおーい、帰りますねー!さ、行こうお空」
お燐が私の手を取って引っ張っていく。玄関を出て、竹林に入ったところでお燐は飛ぼうとした。
「ちょっと待って。今飛べなくて……」
燃えた羽は背中の骨だけが残って、やっと産毛が生え揃ったばかりでまだ風を切れない。飛べないことは無いのだけれど、コントロールが上手くいかない。
「あー、そっか。どうやって帰ろうかな。あたいがおんぶしようか?」
「う、うん。お願いしようかな……」
少し恥ずかしくて頬をかく。お燐が私を背負う。
「だ、大丈夫? 重くない?」
「大丈夫! ほら、飛ぶよお空!」
タンッと軽そうに地面から跳んで、すぐに当たるのは笹だった。ガサガサガサと鋭いような葉がたくさんあって地味に痛い。ザザ、と竹林から空に飛び出した。目の前に大きく広がるは、青だった。
「わあっ……空ってこんなに綺麗だったかな……」
「何言うのさお空! 空は綺麗だよ!」
「そっか、そっかあ……」
私は空を高く飛べたのかな。空の青さに圧倒されながらそんなことを思った。
***
地底に帰ってきた。入口から縦穴を下って、旧地獄に繋がる橋へ。パルスィが橋にいないのが気にかかった。そういえば縦穴でもヤマメとキスメを見ていなくて疑問に思った。お燐に聞こうかと思ったけどやめた。地霊殿が近くなってきて怖くなってから。さとり様は怒ってないかな。ああ、怖くて冷や汗が出てきた。
「お空、そろそろ着くよ? すぐにさとり様の部屋に行くから。そう言われてるからさ」
「う、うん。分かった……」
逃げたかったけどもう無理だった。玄関で下ろされて、手を引かれて歩いて、考えているうちにさとり様の部屋の前に着いていた。
「二人とも入りなさい」
「失礼しまーす」
「し、失礼します」
扉を開けたら、さとり様はいつもの様に難しそうな資料を積んだ机に座っている。いつも以上にボサボサになっていて、少しクマがあるのが気になった。
「お空、前の椅子に座りなさい。お燐、貴女は部屋から出てくれるかしら」
「りょーかいです。お空、話し終わったらリビングに来てね」
そう言ってお燐は出ていった。ああ、どうしよう。
「お空」
「は、はひっ!」
驚いて飛び上がる。さとり様はじいっとこちらを見ていた。
「とりあえず座りなさいな。まだ立っているのは辛いでしょう?」
「ありがとうございます……」
さとり様の前に置かれた椅子に座る。どうすればいいのか分からなくて頭がぐるぐる回る。
「それでお空。怪我の方は大丈夫ですか」
「目覚めてからある程度治りました。けど少しだけ火傷の跡は残るって……」
「そうですか」
ほぼ綺麗に治ってはいるけれど、火傷の跡はまだある。別に残ってもいい。言い方を変えれば勲章みたいなものだから。
「勲章ですか。そういう風には言って欲しくないですね。私は貴女がどれだけ悩んでいたのかを欠片を覗いただけですが。守りたいと思ってくれたことは嬉しかったですよ、お空」
こちらを見続けたままさとり様は言う。
「あっ、あのっ」
ごめんなさい、ごめんなさいさとり様。
「ごめんなさい、ですか」
「ごめんなさい! 私が勝手なことしたから、さとり様が笑顔じゃないから……」
「こら、それ以上謝るのはやめなさい。自分を責めるのはやめなさい。お空は頑張ったのですから。そうやって責められると私は悲しいです」
え、あ、私……わたし……
「お空、ありがとう」
そう言ってさとり様は笑いかけてくれた。
「さとりさま……さとりさまぁ……!」
立ち上がって私はさとり様に突撃して抱きしめる。
「ちょ、お空、待って苦し……」
私は嬉しくて、さとり様がここにいて……ぎゅううと抱きしめる。
「お空! 離して! 苦しい!」
肩を叩かれて私は離れた。さとり様は私の手を握る。
「リビングに行きましょうか。待っていますよ」
なんだろう。さとり様は楽しそうに笑って、一緒にリビングへと行った。
「開けますよ」
リビングの戸をさとり様は開けた。
パンパンパァン!
いきなり音が鳴って色とりどりの紙が舞っている。びっくりした。みんながいた。キスメにヤマメに、パルスィ、勇儀、お燐、こいし様……
「お空、退院おめでとう!」
こいし様が大きな声で言う。
「……へぁ?」
びっくりしすぎて反応しきれなかった。
「プッ、あっははは! お空なにその顔! マヌケだよ!」
おははは、と大声で笑いだしたのはヤマメだった。それに続いてみんなが笑った。
「えっ、なに……」
「お空の退院祝いさ。みんな心配してたんだからさ。さぁ飲むぞー!」
盃を掲げて勇儀は私の肩を組んだ。 それに続いてみんなが私を囲う。
「あいたたた!? えっ、ちょっと、うわぁ!?」
「ほら、お空も飲めよ!」
ヤマメはお酒を進めてくる。
「お空、本当に怪我大丈夫?」
キスメは桶の中から心配そうに見てくる。
「無茶ばっかして。本当にお空はあたいが見てないとダメだね」
お燐は私の頭を撫でながら言う。
「……愛されていて妬ましいわ。けどあんたは無茶しすぎなのよ」
パルスィは素直じゃないけど心配してくれている。
「おまえさんはやる前になにか言わないとな。だから心配かけるんだぞ」
勇儀はコツンと私の頭を小突いた。
「お空、自分の成すことを出来て良かったね!」
こいし様は満面の笑みで嬉しそうだ。
「貴女は愛されているのですから。何より私のペットなのですから。勝手なことして心配させないでください」
さとり様はそう言ってくれた。
「みんな……ありがとう……」
私はそんな簡単なことしか言えなかった。けれどもみんながとても楽しそうにしていたのが嬉しかった。ちっぽけだけど、守れたんだって。私は大切な人たちと笑えたのが本当に嬉しかった。
こじんまりとした宴会は話も尽きないで朝まで飲み通した。みんなが潰れるまで続いた……
***
帰ってきて、私は思う。たくさん無茶して、大好きな人たちを守ることが出来て。それで良かったのだと。神様に逆らったかもしれない、それで呪われてもいい。だけれど、大好きな人たちには手を出させない。その決意を。さとり様が聞いたらまた怒るかな。何度も言われても懲りない意地の汚さがこの私、霊烏路空だ。何度だって挑んでやる……
もう一度、高く高く、空を飛べたとしても。
私はこの地の底に居続ける。
大好きなさとり様、こいし様、お燐に地底のみんな。
ここには私の大好きがいっぱいだから。
たとえ高く飛べたとしても、ここに、私は、ずっといる。
あついぜ!!!!
王道でありながら作者様の熱が伝わってきました。
映画化決定。
けっしてウマくはないのですが 勢いまかせの少年マンガのような熱さがあります
変身に痛みが伴うこと 溶岩を赤い水と表現するのもナカナカない発想で好きです
愛する家族のために戦ったお空がマグマよりも熱かったです
まさに王道といった物語でした
最後の1文もお空の心を見事に表現していたと思います
面白くて、スライドする手は止まりませんでした。
良かったです。
その分、サビが終わってからの引き際は、少し冗長だったかもしれません。
面白かったです。40KBがあっという間でした。
ただ共感できないところも多かったなあと思います
虎視眈々とチャンスをうかがって病み上がりのお空をぶん殴るお燐とか特に……
お空の二つ名の通り熱かって悩んで、それでも色々な愛が入り乱れているのも作品に華を添えている感じがしました。
異変とは少し違って、主犯が居なくても主賓は居て。となれば当然酒宴で締めくくられている所が暖かい、良い終わり方でした。