揺れる中で私は目が覚める。ガバッと起き上がり空を飛べる最速の速さで飛んだ。地面が揺れていて、地霊殿は壁から瓦礫が落ちてきていたりして、崩れそうになっている。他のペット達は逃げている。落ちてくる瓦礫を避けて、中庭に着いた。
いつもは閉まっているはずの灼熱地獄の扉は、溢れそうな赤い水の温度によって既に開いていた。夜の暗さの中、そこだけが揺れながら光っている。私は飛び込んでいく。さっきのドレミーさん──あの夢の話を思い出す。
『貴女の守りたいものはなんですか……』
私の守りたいもの。それは。たださとり様を──こいし様、お燐、地底のみんな。
人間なんでどうでもいい。妖怪なんてどうでもいい。神様だってどうでもいい。幻想郷だってどうでもいい……
ただ、私の、好きを守りたいだけなんだ!
水がどんどん上がってきている。岩に当たりそうになりながら宙を飛ぶ。地の底に向かって叫ぶ。
「私についてこい! 神だとか岩長姫とかそんなの知らない! そんなちっぽけな熱なんて全て持って行ってやる!」
吹き上がる赤い水は意志を持ったかのように私に襲いかかってくる。大きく覆い被さるよう上がってきて避ける。壁の岩に大きく当たる。大きく羽ばたいて私は、水の中に身体を突っ込んだ。熱を制御棒に集めていく。全ての水を消さんとばかりに私はがむしゃらに集める。
熱い。熱い。熱い!
熱さに叫ぶ喉を焼かれ、水に触れる肌を焼かれ。前を見るための目も焼かれ。私の全てを焼かれてなお、熱を受け止められない。
ふざけるな! 私は絶対にさとり様を守るんだ! 私がどうなってもいい、さとり様を、皆を守るだけの力を!
熱に翻弄されながら私は焼かれた喉から声が漏れる。
「がァああァァああぁぁああァああぁ!!!!」
叫ぶ。羽ばたく。奪った熱を抱えて飛ぶ。がむしゃらに、ただただ、ここじゃないどこかへと行くために飛ぶ。前が見えない真っ白な世界で私は飛ぶ。
声が聞こえた気がした。勇儀、パルスィ、ヤマメ、キスメ。
叫ぶような声が聞こえた。お燐、こいし様、さとり様……
がむしゃらに駆けた先はびゅうびゅうと風が吹き付ける音だけが響いていた。
~*~*~
秋の夜の空に輝く地底の太陽を。煌々と光を放つ“それ”を。
地震に叩き起されて避難しようとした博麗の巫女は見た。
ものに押し潰されそうになった魔法使いは見た。
ティータイムを楽しんでいた吸血鬼は見た。
仕事をさぼって散歩に出かけていた死神は見た。
地震に動じない不老不死たちは見た。
光り輝く中で驚きとともに天狗たちは見た。
ため息をつきながら守矢の神と巫女は見た。
里避難を誘導していた寺の僧侶たちは見た。
地震に混乱した人間たちは見た。
慌ててお空の様子を来たさとりとお燐は見た。
幻想郷の全ての人妖は見た。
地底から出てきた謎の光が光るのを。空を染める光を、まるで太陽のようなものを見たのだ。夜の静寂は塗り替えられ、空で光るものを。地震を忘れるかのように食い入るように空を見ているものがいた。夜だとは思えないほどの光は人間達に畏怖を与えた。
どのぐらい経ったのだろうか。光はフッと消えた。
「お空ーーーー!! おくうーーー!!」
燃え尽きたお空が落ちていくのを叫び、懸命に空を飛ぶお燐がいる。
地震はいつの間にか止んでいた。