Coolier - 新生・東方創想話

たとえ高く飛べたとしても

2019/12/27 20:08:18
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 地底の岩と人間の死体がずっと先が見えないくらいに転がっている。私が立つ前に黒の四角のものがある。そこに何が動いている。

“「さとりさま! さとりさま!」”

 そこに私がいる。さとり様もいる。私が何かを言っている。あ、人型になった。何か話している。

“「わたしね、いつかね、そらをとびたいの!」”

 ああ、そうだったな。私は空飛びたいんだったな。そんな夢を持っていたように思う。今こうして見て思い出したけれど。

「おやおや、貴女の夢の心象は荒廃してますね。しかも置いてあるのがブラウン管テレビですか。古いですね」
 黒の四角を見ていたら後ろから声がかかって、振り向く。服に沢山のぽんぽんがついていて長い髪の毛で、頭にはサンタ帽子を被っている。
「……サンタさん?」
「誰がサンタですか。自己紹介がまだでしたね。私は夢の支配者のドレミー・スイートです。お気軽にドレミーと呼んでください」
 スマートなお辞儀をこちらにする。それにつられて私もぺこりと礼をした。

「ええっと、ドレミーさん? なんで私はここにいるんだろう」
 夢の中?に私はいるんだろうか。よく分からない。
「さあ、どうしてでしょうね? 貴女のそのちっぽけな頭で考えてみたらどうです」
 とぼけたような笑いでドレミーさんは両手を広げる。そうして岩と人間の山はパッと消えた。その景色の変化に私は右に左に見る。味気のないまっさらな部屋に私とドレミーさんが佇むのみだった。

「今何をしたの……?」
 いきなり変わったことが理解が追いつかない。
「夢の支配者としての能力を使っただけですが。とりあえずそこに座ったらどうです」
 指をさされて気がついて、椅子に座る。私に続いてドレミーさんは前に座った。
「さて……貴女は悩んでいるようですね。それはどのように解決できるのか考えてみましたか?」
「……あの。なんでそれを知ってるんですか。私はドレミーさんに会ったことないし、そもそも話すのもはじめてですよ」
 初めて会った人に悩みとか話すことは出来ない。しかもいきなり言われて警戒してしまう。
「ああ、警戒しないで。貴女の主人と同期に言われたのですよ」
「……さとり様に?」
 ふっと警戒は溶ける。ドレミーさんは笑いつづけて、右手を中に揺らした。ポンッと分厚い黒色っぽい本が出てきた。それをドレミーさんは取る。
「それではお話を続けましょう。貴女の悩み事を出来ないと言われたのでしょう。しかし諦めてはいけません。貴女にはそれを乗り越えられる力がある……」
 目を閉じて本を開いている。紙の表面をなぞっている。何をしているんだろうか。
「貴女は地獄鴉です。古明地さとりのペットとなり、八坂神奈子から八咫烏の力を受け取りました。さて、その受け取った力はどのような能力でしたか? 答えてください」
 そんなことを言われので面食らった。私は答える。
「ええっと……核融合を操れる能力だけど……」
 大きく頷いている。にこにことしていて少し怖い。
「そう、その通りです。核融合を操れることは何が出来ますか?」
「温度を操れたりする……はず」
 ガタンとドレミーさんは本を持ったまま椅子から立ち上がる。見ていると本からピンクの水のような弾力がありそうな何かが出てきた。
「そうです。そのはずなのです。貴女は何を見て、使ってきたのか。それならばアレの温度は下げられたはずでしょう」
 ピンクの何かに乗りながら話している。こちらに目線を合わせながら私の座る椅子のまわりをくるくると回っている。
 一体何を。何を私に求めているのか。私に何をしろと言うのか……!遠回しな言い方に私はイライラする。いままでの出来なかったこと、出来ないと言われたこと、そうしてドレミーさんの言い方。それらが薪だとして、私が出来ないと思うのが火となり心に怒りになる。ゴウッと髪が舞い上がる。体の底から熱が湧き上がる。

「おお、熱い熱い。怒りをおさめてくださいな。まだ言わないといけないことがあるのですから……」
 ピンクのそれからおりてコホンと軽く咳き込むドレミーさん。
「なんですか」
 声が物凄く低くなった。今すぐドレミーさんをぶっ飛ばしたかった。
「これだけは言っておきましょう。貴女の夢を忘れずに。それと貴女は何を守りたいのか、それだけを思えば良いです。さっきの能力の話は頭に入れて置いてくださいね……」

 ゴゴ……

「おや……時間切れですか」
「なんの音なの……これ……」
 世界が揺れているような感覚を受ける。怒りは萎んでどうでも良くなった。今の揺れの方が気になる。

「今、向こうが揺れています。噴火が始まりました。ではそちらの扉から出れば貴女は起きることが出来るでしょう」

 なんだって!?
 ドレミーさんが指を向ける方に私は立って走った。ダメ、私が守るんだ……!
 両開きの大きな扉を開け放って私は飛び込んで行った。

「どうか、ご武運を。死なない程度に頑張ってください」

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