【六枚目のはがき】
『私には宿敵がいます。そいつは私のものを盗んでおきながらいつもへらへらと笑っていて、すごく腹が立ちます。会うたびにそのことを思い出して責めるのですが、毎回簡単にいなされてしまいます。なにかいい仕返し方法はないでしょうか』
「えっと~やっぱりそういったトラブルっていうのはどの現場でも決して絶えるものではなくってねえ。非常に悲しい現実ではあるんだけど……」
「でもだからといってねえ? いざ仕返しだと拳でこうやったら、向こうも同じようにこう返してきて、それでまたこう……。キリがないわけよ」
「そうね」
「突き詰めるといかにしてそのループを断ち切るかってところに焦点がいくわけ」
「どうすればいいの?」
「簡単よ。宿敵と呼ぶ程の関係が今の悪いループを生み出しているわけだから、その関係を根本から変えていきましょうってこと」
「ええ ええ」
「だからなっちゃえばいいじゃん、恋仲に」
「えっ」
「パン咥えて曲がり角でぶつかったらいいじゃん。運命の出会い果たせばいいじゃん」
「なんでそうなるのよ」
「だってそうでしょ? 恋人同士になればもう仕返しとかどうでもいいじゃん」
「"そういえばあんなこともあったね"って、笑い合える関係になればいいじゃん」
「だから夜訪ねればいいじゃん。唇奪えばいいじゃん」
「いきすぎでしょそれは……。そもそも同性かもしれないわよ?」
「ああ……でも妖怪同士なら全く無問題でしょ。妖怪なんて便宜上人の姿してるだけだからオスとメスの絶対的関係もないし」
「だとしても恋愛関係になんてなるもんかしら」
「ん~まあ人間に比べたら相当難しいけどなるわ。お互いを認め合い尊重しあい……。性愛ではなく存在そのものを心で求め合う関係になる……! これこそが妖怪同士の恋愛成立ってわけよ! この質問者が妖怪かは知らんけど」
「そうよ。人間同士だったらどうするの」
「えっとぉ……そうね……まあ今の世の中人間は単に子を増やすためだけでない、愛の多様化が進んでるわ」
「へえ」
「ほんとよ? 色んなパターンがあるけど、結局それはどれも、さっきも言った性愛ではない、"心を満たすための愛"……妖怪のそれと一緒よ」
「ふむ……」
「それのためなら同性だろうがなんだろーが構わないわ。子孫を残すという生物的本能は人間誰にでもあるから、周囲の理解を得るのは難しいでしょうけど……。それでもいつかお互いの心が満たされるようになれば、もうカップル同然よ! だからめげずに頑張れっ! 私は応援してるわ!」
「…………」
「…………」
「これちゃんと本人に送ってね?」
「判ってるわよ」