木々の香りがそっと顔を撫でて、夢は終わりを迎えた。
微かに開いた障子戸から忍び込んだそれが現実を明かしてくれる。
外ではちょうど陽射しが昇ったぐらいだろう。微かに白い光が障子を照らしている。
アリスはそっと起き上がると、そっと上海にお茶を淹れるよう伝えた。
隣で眠っている霊夢を起こすべきか思案してると、んん、と霊夢は目蓋を震わし目を開けた。
「おはよう」
「……おはよう。どうやら、ちゃんと戻ってこれたわね」
「今、上海がお茶持ってくるから少し待ってて」
「う~」
まだ眠気が取れないのか、霊夢はどこぞの半霊のような返事を返した。
「……なんか、本当に旅してたみたい」
意識が定まってきたのか、枕に頭を乗せたまま霊夢はポツンと言った。
「そういう魔法だからね」
夢見の魔法。
それは魔界で研究が盛んな魔術の一つで、難度が高い分、上手く使えば今回の様に夢の中で特定の場所に行く事だって可能な代物だ。
「でも、やっぱり夢から覚めてしまうとあっけないわね」
物惜しそうな霊夢にアリスは笑みを浮かべた。
「でも、何も得なかったわけじゃないでしょ?」
夢見の魔法は胡蝶の夢。宙を漂う蝶のように儚い物だ。
だけど、その術のおかげでアリスも霊夢も幻想郷には無い海を見れた。
その潮風を、その凪を、その営みの一部を、垣間見る事が出来た。
「それに、改めて世界の広さって物を思い出せたしね」
そう、世界はどこまでも広い。そんな当たり前な事でも、ふとした折に忘れがちになりがちだ。
その意味では、今回の旅でその事を再確認できた。
そんな感慨混じりのアリスの言葉に、どこか上の空で霊夢は頷いた。
そのまましばらく、霊夢はぼうっとしていたが、上海がお茶を淹れてきて、アリスがその湯呑に口を付けようとすると、声を掛けてきた。
「……ねえ、アリス」
「なあに、霊夢」
「―――――」
「え? もう一度言ってもらえる?」
猫のように布団で丸くなっている霊夢が、ぼそぼそと何か呟いたが聞き取れない。
「…………魔界の海。アンタがよければ、いつか連れてってくれない?」
ふいな霊夢の申し出に、アリスは思わずその顔を見返した。
蒲団に埋めている霊夢の顔が朝の陽射しに照らされて、ほんのりと赤くなっている。
「……アンタは幻想郷中巡ってるのに、私は魔界の一部しか行ってない。――不公平よ」
霊夢の物言いはぶっきらぼうで、どこか不機嫌そうな響きだったが、知らず知らずアリスは口元を緩め、旧友に微笑んでいた。
「……そうね。霊夢がよければ喜んで」
その笑みのまま、空に目を移す。
朝の空は、あの海のように澄んだ色をしていた。
fin
面白かったです。
ありがとうございます
昔のそそわを思い出しました
最後に霊夢が嫉妬するのも好きです
旅を経て2人の仲も少し進んだように感じられて良かったです
また別のお話というのも読んでみたいです
登場人物達と一緒に自分も旅をしているような気になって
とても心がワクワクします
その旅先に美しい景色が広がっていれば尚更に
ともあれ、とても面白かったです
ノスタルジーでメルヘンな素敵なお話でした。