こいしへ
黒ネコのこと、残念でしたね。
ネコが魔理沙のことを好きだったのだとしたら、魔理沙の腕に抱かれて天に旅立ったことはネコにとって一抹の救いになったのではないでしょうか。
こういう物言いは気休めだと思うかもしれませんが。
あなたが恋愛小説にベッドシーンが避けられないものである、と言うのと同様に、生き物にとって死は避けられないものです。
むしろ死に向かっているからこそ生があると言ってもいい。
だから、死に縁遠い私たちはある意味で死者以上に死んでいるのかもしれません。
魔理沙は泣かないのではなく、泣けないのではないでしょうか。
愛する者を喪う時には、人は同時に自分の一部分をも喪います。
それは感情であったり雰囲気であったり言葉であったり……一口には言えません。
もちろん、泣けば少しは楽になるでしょう。
泣かないことは苦しみを正面から背負うことです。
魔理沙は一番辛い形で死者を悼んでいるように思えます。
そしてそれは彼女が本当に黒ネコが好きだったからに違いありません。
人が悲しんでいるように見えないからといって悲しんでいないわけではないのですよ。
ところで、あなたが帽子の庇に乗せて送ってくれた雪はほとんどが溶けて帽子の黒に消えてしまっていたけれど、ほんの少しだけがまだ消えずに残っていて、それはとても綺麗でした。
舌の先に乗せてみるとほろりと崩れて、懐かしいような冷たさを残して消えてしまいました。
素敵な贈り物をありがとう。
さて、あなたが感じたことについて、私はあなたが卑怯であるとは思いません。
死者よりも生者に望みを懸けるのは、生きている者の性であり義務です。
なぜなら、愛を受け取ることが出来るのは生者だけだから。
あなたと彼女がどちらも元気なうちに、出来るだけ優しい言葉をかけてあげてください。
死者を悼むのはずっと後でも遅くはありません。
彼らはいつでも、いつまでも、死んでいるのです。
それと燐はちゃんと私のところにイワシを届けてくれたので、その場で彼女にあげました。
少しは信用してやってね。
あなたの姉、さとり