お姉ちゃんへ
こいしです。
黒ネコが死にました。
一晩中吐いて吐いて、ネコは胃の中にあるものを全部吐いてしまうと、その後ではリンゴの芯すら吐くことができずに白い胃液を口の端から垂らしながら身体を縮こまらせて苦しんでいました。
その後で、黒ネコは魔理沙の腕の中で静かに死んでいきました。
私はすっかり死んでしまったネコの腹を触りましたが、それは固くて冷たくてさっきまで生きていたようには思えませんでした。
お姉ちゃんの言うとおり、黒ネコは魔理沙を好きだったのだと思います。
ネコは嫌いな者には決して死にゆく姿を見せないからです。
魔理沙も黒ネコを好きだったのだと思います。
でも魔理沙は泣きませんでした。
魔理沙は無意識に黒ネコに前ひっかかれたところを指でなぞります。
傷はとっくに治り、近くで見てようやくそこがピンク色に少しだけ盛り上がっているのが見分けられる程度の薄い痕です。
無意識について私は人よりも多くを知っています。
恐らく魔理沙はいずれ消えてしまう傷跡でさえも、黒ネコとの思い出として惜しんでいるのです。
私にはよく分かりません。
悲しいのならば、泣けばいいのではないのでしょうか。
魔理沙は苦しんでいるように見えます。
でも悲しんでいるようには見えません。
それが一体どういうことなのか私にはさっぱり分からないのです。
霊夢は魔理沙を無理に慰めたりはしません。
でも相変わらず不機嫌そうにしてはいるのに、行動の節々から魔理沙を気遣っている様子が感じられます。
それでどうも私も声をかけづらいのです。
雪が降ってきました。
お姉ちゃんにも少しだけこの冷たさを味わって欲しいと思います。
節分に使ったイワシも同封します。
こいし
追伸:お燐に帽子を託します。だから、もしお姉ちゃんにイワシが届かなくてもお燐を叱ったりしないでください。あと、お燐の姿を見たときに私はなぜかとてもほっとしました。……なぜか、というのは嘘です。分かるよね。私は卑怯者なのかな?