女が唇を噤み軽くお辞儀をすると、凍りついたように静まっていた人の輪が悲鳴とも怒声ともつかぬ叫びで満たされた。
輪の外で喧噪を眺めていた男は凍りついたように女から眼が離せない。
女は伏し目がちに男を見ていた、そんな気がした。
「ふ、ふざけるなっ!」
男の怒声に場が静まりかえる。
気がつくと椅子を蹴り、立ち上がっていた。
「なっ、なんだよ今の話、ど、どういう事だよおい!」
「貴様、太子様の前で失礼であるぞ!」
女の連れの子供が撥ねるように立ち上がり、男に襲いかかろうとする。
太子様と呼ばれた女は、それを手で制す。
「なにかご不満でも?」
女は静かに諭すように問いかける。
「こっ、このへんで大工の徹治っていったら俺しか居ねぇ。なに勝手に気味の悪い話してるんだよ、えぇ!? し、しかもまるで出鱈目じゃねぇかよ! お、俺はそんな不気味な妖怪なんざ見たことも無ぇし、この通り、ちゃーんと右腕も付いてる」
男は上擦った声でまくし立てた。
言葉の内容にそぐわず、歯の根は合わず足は震えている。
なにか言い知れぬ恐怖を感じ、男は怯えていた。
女は目の前に突き出された男の腕を、とてもつまらない物を見るかのように眺めていた。 そして
豊聡耳神子は澄んだ声で歌うよう、呟いた。