童女はしばし小首を傾げます。
「でもわたし、お腹ぺこぺこだもん」
「な、何でもするからっ、いっ、命だけは助けてくれっ、なっ、頼む!!」
懇願する男を見て、童女はクスりと笑います。
そしてその小さな唇を目一杯に広げ、男にゆっくり近づくのです。
童女の歪に並んだ牙と、赤黒くてらてらと光る口腔の中が男の視界を塞ぎます。
「っ、ああああぁぁ」
男はそこで目を覚まします。
周りを確かめると、見飽きるほど見慣れた自宅の寝室でした。
泥酔して前後不覚になりながらも、ちゃんと家に帰り着いていたのでしょう。
「おい徹治、おめぇいつまで寝てるんだよ、オイ!!」
勝手口のほうから頭領の怒鳴り声が聞こえてきました。
窓から差し込む光が、寝過ごしてしまったことを教えてくれます。
「ははっ、はははっ」
男は乾いた笑いを浮かべます。
酷い夢だった。
相当うなされたのか寝間着もぐっしょり濡れてる。
でも夢でよかった。
男は安堵し、額の汗を手で拭います。