Coolier - 新生・東方創想話

宵闇亭

2012/09/12 01:46:17
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 人垣の中心に居たのは、若い女だった。
 場末の大衆酒場にそぐわない品のある顔立ち、小綺麗だがひどく奇妙な身形。
 不自然なほど生活感の無いその風体に、男は不気味さを感じた。
 女の傍らには連れらしき子供が座っていた。こちらは時代錯誤と映る。
 二人組は店の空気から明らかに浮いた存在だ。

 席に着くとき女と目が合う。軽く会釈すると向こうは微笑んで返す。
 だがその微笑みには感情らしき物が欠片も込められていない。

「では、そろそろ次のお話しを」

 女は、ありえないほど透き通った声でそう告げた。声を張っているわけでも無いのに、とても明瞭に聞こえる。
 いくらかざわついていた人垣が、女の一声で水を打ったように静まりかえる。

「月の明るい夜のことでした――」






 

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