「ばれんたいん?」
幻想郷では聞き慣れない言の葉が二人の口から零れる。
きょとんとしながらちょっと間抜けな発音で反芻したのは、白と黒の服を纏った魔法使いで。
「ばんあれんたい?」
そして、同じように間抜けすぎる発音でちょっと間違えながら発したのは、紅白のおめでたい色をしたちょっと特殊なデザインの巫女服を纏った少女。
そんな博麗の巫女に、
「『Valentine』よ。なんでそんなベタベタなボケをするのよ?」
と、完璧で瀟洒な発音で訂正したのは、紅い館のメイド長。
その呆れ顔のメイドに、「まぁまぁ」と苦笑を零したのはこの話題を三人に振った張本人。博麗の巫女と似たようなデザインの緑色をした巫女服を纏った少女だった。
紅白の巫女は、なんだかとっても不機嫌そうな顔をして、冬の空を睨んでいた。
冬と春の境界
博麗神社に遊びに来ていた三人、魔理沙、咲夜、早苗は、縁側でまったりと日向ぼっこをしながら、霊夢の出したうっすいお茶に文句を言いつついつも通り他愛も無い話をしていた。のだが、本日の日時は二月十三日。そこでふと思い出したかのように早苗が「皆さんはどうするんですか?」と、軽く話題に出したのがそもそもの始まりで。
流石の咲夜は「準備バッチリよ」と、ちょっと得意げにかなり幸せオーラを出しながら答えたのだが、うっかりすっかりこってり忘れていた魔理沙と、そういうことに全く関心がなかった霊夢は、所謂「ポカーン」という顔をして、冒頭のような間抜けな会話が成り立ってしまったのである。
そんな霊夢と魔理沙に咲夜は呆れながら、溜息を吐き。早苗が懇切丁寧に教えてあげること数分。
「そそ、そんなのもう準備万端なんだZE! べ、別に忘れてなんかなかったんだからな!!」
と、冷や汗を噴出させながらバレバレの嘘を吐く魔理沙は、「さぁーて、買出しにでも行くか!」と土煙を上げながら飛び上がる。咲夜と早苗が突っ込む間もなく、魔理沙はあっという間に米粒サイズになって消えていった。
「まだ一日あって良かったわね」
茶請けの煎餅をボリボリ齧りながら、霊夢はもう何もない空を見上げた。今日は風もなく、日差しも暖かな日だ。
「他人事のように言うけれど、貴女だって何も用意してないでしょう?」
そんな霊夢から煎餅を奪い取って、咲夜が呆れた顔をする。だが霊夢は「だって関係ないでしょ」と何処までもドライな態度を取った。
「関係ないって……」
ちょっと咎めるような視線を送る咲夜と早苗。そんな視線も霊夢はシレっと流して、もう冷めてしまった薄い茶を啜った。
「アイツが今どうしてるか知ってるでしょーが」
お茶が不味かったのか、それとも他の理由か。霊夢は少し眉根を寄せながらぽつりと呟いて。
それを見た二人はもう何も言えなくなって、霊夢と同じように冷めてしまった薄い茶を飲んで眉根を寄せた。
「何、その顔?」
「……お茶がまずいのがいけないのよ」
咲夜は霊夢と視線を合わせられず、薄い茶と睨み合って。それから、お茶のことか別のことか、もう一度「まずい」と呟いた。
「……えっと、その……」
早苗もあまり美味しくないお茶を啜る。それから小さな声で、
「……起きてはこられないんですか?」
そう、なんとなく呟いた。
その言葉には特に深い意味は、多分無い。
ただ、そうだったらいいなと思うから、口に出てしまった希望的観測で。
でも、霊夢はその言葉を、
「まだ春じゃない」
そう、冷たく吐き捨てた。
早苗も咲夜も、なんだか泣きたい気持ちになったけど。でも霊夢が一番そういう顔をしていたから、誤魔化すようにまた不味いお茶を啜った。
幻想郷では聞き慣れない言の葉が二人の口から零れる。
きょとんとしながらちょっと間抜けな発音で反芻したのは、白と黒の服を纏った魔法使いで。
「ばんあれんたい?」
そして、同じように間抜けすぎる発音でちょっと間違えながら発したのは、紅白のおめでたい色をしたちょっと特殊なデザインの巫女服を纏った少女。
そんな博麗の巫女に、
「『Valentine』よ。なんでそんなベタベタなボケをするのよ?」
と、完璧で瀟洒な発音で訂正したのは、紅い館のメイド長。
その呆れ顔のメイドに、「まぁまぁ」と苦笑を零したのはこの話題を三人に振った張本人。博麗の巫女と似たようなデザインの緑色をした巫女服を纏った少女だった。
紅白の巫女は、なんだかとっても不機嫌そうな顔をして、冬の空を睨んでいた。
冬と春の境界
博麗神社に遊びに来ていた三人、魔理沙、咲夜、早苗は、縁側でまったりと日向ぼっこをしながら、霊夢の出したうっすいお茶に文句を言いつついつも通り他愛も無い話をしていた。のだが、本日の日時は二月十三日。そこでふと思い出したかのように早苗が「皆さんはどうするんですか?」と、軽く話題に出したのがそもそもの始まりで。
流石の咲夜は「準備バッチリよ」と、ちょっと得意げにかなり幸せオーラを出しながら答えたのだが、うっかりすっかりこってり忘れていた魔理沙と、そういうことに全く関心がなかった霊夢は、所謂「ポカーン」という顔をして、冒頭のような間抜けな会話が成り立ってしまったのである。
そんな霊夢と魔理沙に咲夜は呆れながら、溜息を吐き。早苗が懇切丁寧に教えてあげること数分。
「そそ、そんなのもう準備万端なんだZE! べ、別に忘れてなんかなかったんだからな!!」
と、冷や汗を噴出させながらバレバレの嘘を吐く魔理沙は、「さぁーて、買出しにでも行くか!」と土煙を上げながら飛び上がる。咲夜と早苗が突っ込む間もなく、魔理沙はあっという間に米粒サイズになって消えていった。
「まだ一日あって良かったわね」
茶請けの煎餅をボリボリ齧りながら、霊夢はもう何もない空を見上げた。今日は風もなく、日差しも暖かな日だ。
「他人事のように言うけれど、貴女だって何も用意してないでしょう?」
そんな霊夢から煎餅を奪い取って、咲夜が呆れた顔をする。だが霊夢は「だって関係ないでしょ」と何処までもドライな態度を取った。
「関係ないって……」
ちょっと咎めるような視線を送る咲夜と早苗。そんな視線も霊夢はシレっと流して、もう冷めてしまった薄い茶を啜った。
「アイツが今どうしてるか知ってるでしょーが」
お茶が不味かったのか、それとも他の理由か。霊夢は少し眉根を寄せながらぽつりと呟いて。
それを見た二人はもう何も言えなくなって、霊夢と同じように冷めてしまった薄い茶を飲んで眉根を寄せた。
「何、その顔?」
「……お茶がまずいのがいけないのよ」
咲夜は霊夢と視線を合わせられず、薄い茶と睨み合って。それから、お茶のことか別のことか、もう一度「まずい」と呟いた。
「……えっと、その……」
早苗もあまり美味しくないお茶を啜る。それから小さな声で、
「……起きてはこられないんですか?」
そう、なんとなく呟いた。
その言葉には特に深い意味は、多分無い。
ただ、そうだったらいいなと思うから、口に出てしまった希望的観測で。
でも、霊夢はその言葉を、
「まだ春じゃない」
そう、冷たく吐き捨てた。
早苗も咲夜も、なんだか泣きたい気持ちになったけど。でも霊夢が一番そういう顔をしていたから、誤魔化すようにまた不味いお茶を啜った。