「ん……」
ふわりとした思考が、障子の隙間から入ってきた光に解かれる。しょぼしょぼする目を漸く開けると、昨夜の状態なままの部屋。とりあえず身体を起こしてみるが、朝のひんやりした空気に呆気なく負けて、また炬燵に逆戻り。霊夢はしょぼしょぼする目を朝日にどうにか慣らしながら、思考を覚醒させていく。
「……寝ちゃったんだ」
お風呂にも入らずに、そのままで。何やってんだか。朝風呂は寒いからしたくないのに。
そんな風にぼんやりしながら、枕代わりにと丸めて頭の下に敷いていた座布団に染みが出来ていることに気付いた。
零れた何かの雫。その跡を見て、霊夢は顔を顰める。ペタペタと自分の顔を触って、自分が間抜けな顔をしていないか確かめる。頬は濡れていない。服の乱れと寝癖は後で直すとからいいとして。
霊夢は瞼に何度も触れて腫れていないこと再度確認して起き上がった。
泣きながら寝てしまったのかと思うと、自分の弱さに情けなくなる。こんな夜の過ごし方は初めてではないけれど。もう何度もこうやって夜を過ごしてしまったけれど。
「……夢、見てたのよね……」
誰に問うわけでもなく、自分に確認するように呟く。
あまり覚えていないけれど、いつもの夢だったような気がする。あの妖怪が見せてくる、茫洋として淡い、でも優しげな。そんな夢。
「ついこの間、夢見たばかりの筈なのに……」
次に夢を見るのは、多分来週あたりの筈。霊夢は「なんでかなー」と考えながら、ぼんやりと自分の唇に触れた。
「…………」
ぬくもりはもう消えてしまったのに。
でもなんとなく残っている、感触。
甘い柔らかさ。
「……バカ」
悪態を吐きつつも、自分の唇を触れる指を離すことができなくて。頬が少し熱を持ってしまったから、もう一度「バカ」と呟いた。
(……そういや、なんか渡されなかったっけ?)
手には何も持っていない。周りを見渡しても何もない。勘違いだったのか、それとも。
霊夢はとりあえず身を清めて朝食の準備をしようと、緩慢な動きで立ち上がった。