『……あ、れ?』
見知った感覚に、霊夢はふわふわの思考をふわふわと漂わせる。
カラダがゆらゆらして。思考がふわふわして定まらなくて。ほわほわとほんのり暖かくて。ぽかぽかと胸のうちが潤う。
上にはふわふわと漂う空が広がっていて、下にはゆらゆらと揺れる空が広がっている。
海……とかいうものは、こんな風に空の色を映しているんだと、アイツに聞いたことがある。多分それだと思うけれど、ふわふわの頭ではどっちがどっちか分からなくて。だからどっちが上なのか下なのか分からない。だから同時に左も右も分からない。
何処だろうと見回そうとしたけれど、なんだか億劫で動けない。目を開けているのも億劫で、ぼんやりと半開き。眠い、というか、眠たい。そんな心地。
この空間も、こんなふわふわな心と思考の感覚も知っている。
夢。アイツと逢うときに見る夢。薄ぼんやりした、曖昧な夢。
どうせなら意識も感覚もハッキリしたものにしてくれればいいのに。そういつも通りな文句を心の中で呟きながら、この緩やかな空間に身を任す。
「此処がふわふわしてるのは、貴女が空を飛ぶ巫女だから」
何処かから声が聞こえる。動けなくて、なんだか目も開けられなくて。でも、その声を聞いた瞬間に、頬の筋肉が緩んだ気がした。
「曖昧なのは意図的。夢と夢が繋がるのはただでさえ危険なことよ。増してや妖怪と人間だもの……夢関連の専門妖怪(スペシャリスト)なら話は別だけれど」
何を言ってるのか、多分半分も理解できない。
言葉がただ耳に谺する。心地よい声が、耳に響く。
「それとね、頻繁に逢いにいけないのは貴女の精神にかかる負担が大きいから。もうちょっと修行とか頑張るなら、来年は回数を増やせるかもしれないわよ?」
くしゃりと頭を撫でられる。しなやかな指先が髪をゆったりと梳いていく。
(……あぁ、それ好き)
口の両端が緩む。ソイツが微笑む気配がした。
「れいむ」
それも好き。その声で。そうやって、ゆっくりと名前を呼んでくれるの、好き。
「今日はね、プレゼントを持ってきたのよ」
頭を撫でてくれる手も、好き。長くて形の良い指も好き。綺麗に揃った桜色の爪も好き。
「ゆ、か……り……」
緩慢に口を動かす。
この名前、好き。だって、アンタの名前だもん。
また、そっと笑む気配。と、同時に手に何かを握らされた。
「また逢いに行くから」
握った手が離れて。指が放れて。でも最後に、唇に柔らかな感触が残った。