「どーして、こうも冬ってやつはムカつくのかしら」
炬燵に寝そべりながら、霊夢は呟く。あの後、魔理沙は結局戻ってこないで、ちょっと……いや、大分気まずいまま解散となった。
「やっちゃったなぁ……」
結構色々な事に頓着のない霊夢だが、流石にあれはまずかったと反省する。いや、お茶もまずかったけれど、そうじゃなくて。
「……八つ当たりしちゃった」
八つ当たりなんて結構頻繁にしているけれど。でも、今日のアレはまずった。
霊夢は炬燵でぬくぬくとしながら、今日のことを思い返す。反省しながら、自分が八つ当たりなんてしてしまった原因のことを想って。自然と眉間に皺が寄って行くが分かった。
「だからイヤなのよ……」
冬はきらい。だって、逢いにきてくれないんだもん。寒いんだもん。
「……リリーでも叩き起こしてこよかしら」
そんなことしたって、本当の春は来ないって解かっているけれど。起きてこないって分かってるけど。でも。
(夢の中で逢いに来るって……言ったのに……)
嘘は、つかれていない。ちゃんと逢いにきてくれてる。一週間から二週間に一回なんていうペースだけれど。
ただでさえ夢なんていう現実味のない逢瀬なのに。
「……さむ」
ごそごそと丸まって、炬燵にすっぽりと潜る。炬燵の中はあたたかい。一度入ってしまうと出られなくなってしまう、そんな魔法がかかっているのかと思うほどに、炬燵というものが作る空間は暖かい。その内うとうとしてきて、思考がふわふわとしてきた。
ふわふわとした頭で、ふわふわとした優しい夢を思い出す。あの妖怪が見せてくる、ふわふわとした甘い夢のコト。甘く微笑んで夢の中に出てくる、あの妖怪のコト。
居心地がいい筈の炬燵の中。なのに、胸にスキマ風。霊夢は転寝からふっと戻ってきて、また炬燵の中でもぞもぞと動いた。
居心地がいい筈の夢は、いつも覚めた時に痛い。現実のモノじゃないぬくもりは、起きた瞬間に消えてなくなってしまうから。
「さむ……」
もう一度呟いて、炬燵の中で丸まる。
本当は暖かくなくたっていい。寒くて悴んで、血が滲んで。そんな風に痛くてもいいから。そんな風に痛んだ手が、冷たくなった手が、届く場所にいて欲しいだけで。
「これなら、あの手紙の方がマシよね……」
霊夢は炬燵から上体を出して、そこに置いてある箱に手を伸ばす。その中には幾枚かの封筒が綺麗に整頓されて入れられていた。和紙で作られた封筒は一つ一つ模様や色が違っていて、その中に一つを取り出して中の物をそっと取り出す。それは冬になってから届くようになった手紙。もう何度も読み返した所為で、少しよれてしまっている手紙。それを開いて、霊夢は文字を眺める。
流麗な文字で丁寧に綴られている、言ノ葉。もう見なくたって内容なんて覚えてしまっているけれど。一文字一句、隅々まで覚えてしまっているけれど。霊夢は手紙を広げて、散りばめられた言ノ葉を眺める。
この日の天気は、多分雪だろうとか。今日のおやつは羊羹なんじゃない? とか。ちゃんとご飯食べてるの? とか。お金大丈夫? だとか。炬燵でゴロ寝は風邪をひくわよ、とか。
「……ふん。余計なお世話だってのよ」
口から思わず出る言葉は、相変わらずトゲトゲしいけれど。でも、声音が自分でも分かるくらいに緩くなっているのは確かで。
夜に届いたり、朝に届いたり。真昼間、留守にしている時に届いたり。でも三日に一度、必ず届く気まぐれな手紙。何通も届く手紙には、こんな風に他愛も無いことが書いてある。きれいな文字で、丁寧に丁寧に。
あたしのコト、想って書いたの?
ね、あたしに逢えなくて……アンタもさびしい?
箱にまた手紙をしまって。霊夢は寝転がったまま、その箱ごと手紙を抱き締めてみる。
恋文、なんて恥ずかしくて呼べないけれど。多分、これはそういう類のもの。嬉しくて、ちょっと照れ臭くて。恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくて。
――ねぇ。あたしのコト想って、書いたの?
「…………ぃ……た、い……」
ぽつりと零れる。
一緒に、ひとしずくポロリ。
あいたい。
あいたい。
「……逢いに来なさいよ、バカ」
これ以上零れないように、霊夢は固く目を閉じた。