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地底妖怪トーナメント・1:『1回戦1・洩矢諏訪子VS雲居一輪』

2014/09/05 16:34:42
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 そして、運命の日は訪れた。
 地底に佇む一人の少女は、僅か一週間で完成した半球状の建造物を見据えていた。
「何やってんだ霊夢?」
 他の妖怪達が建物に入っていく中、佇んでいた博麗霊夢は声を掛けられた後方を振り向く。同じ人間である魔法使い――霧雨魔理沙が箒を振りながら歩いてきた。
「魔理沙……」
「何固くなってんだよ。お前が参加するわけじゃないんだぜ」
 笑う魔理沙に箒で軽く尻を叩かれる霊夢も、再び足を進め、建物に近付いていく。
「変な感じなのよね。妖怪達が戦う様をただ見てるだけなんて。これだけ強い奴らが集まったら、もう異変と捉えてもいいんじゃないかしら」
「おいおい、あまり変な事するなよ? 私は純粋に楽しむために来たんだ。巻き添え喰らって私まで追い出されたらたまらないぜ」
「わかってるわよ。私達はただの観客。これでいいんでしょ?」
「そういうこった。祭りを邪魔する権利なんて誰にもないさ」
「楽しいお祭りになればいいけどね」
 会話の最中、二人は南側の入口へとたどり着く。他の観客によって開閉を繰り返している扉からは、妖気や雑音が漏れていた。
「さて、いくぜ」
「あんただって緊張してるじゃない」
 表情を強張らせる魔理沙を笑いながら、霊夢は扉の取っ手を掴み、開く。
 闘技場を挟んだ入り口部分であるにも関わらず、ざわめきはさらにはっきりとしたものになっていく。
「こりゃあ流石に凄いな」
 階段を上り、客席の最上部に辿り着いた魔理沙の視界に入ったすり鉢状の会場には、数百の妖怪と、中央に空いた闘技場があった。
「こころの時に戦った人里の観客なんか目じゃないな。っていうか、妖怪ってこんなにいたのかよ」
「神でさえ八百万っていうでしょ」
「いや、『やおよろず』は別に『はっぴゃくまん』いるって意味じゃあないはず……」
 魔理沙の言葉を話半分に聞きながら辺りを見回す霊夢は、一人の妖怪と目が合う。外周部分の離れた場所にいた妖怪はこちらまで歩いてきた。
「幽香……」
「ごきげんよう霊夢。お久しぶりね」
 幻想郷地上にある、太陽の畑と呼ばれている向日葵畑の主と言われる妖怪――風見幽香は静かな笑みを浮かべていた。
「おーおー。優勝候補様のお出ましだぜ」
 魔理沙の言葉に対し、いいえ、と幽香は否定した。
「私は参加しないわ。こういうのは、もう、見るだけで楽しめるもの」
「なんだ、お前程もある奴が参加しないのか。はっ、だとしたらどんな化物が出るんだろうな」
 魔理沙がおちゃらけを言うと同時に、場内の妖怪達がざわめきだす。
「始まるようね」
 幽香達が闘技場内に視線を向けると、そこには妖怪の賢者である八雲紫が立っていた。河童製のマイクを手にし、ゆっくりと言葉を口にする。
「皆様、ごきげんよう。私、今格闘大会の主催者である八雲紫という者です。地底妖怪武闘会の開催まで少しばかり時間がありますが、どうか私の話を聞いてください」
 今にも騒ぎ出したい妖怪達だったが、地底でも余りにも名が知れ渡っている八雲紫の言葉に対し罵声を浴びせる者は誰もいない。
「私は以前もこうして、自分の思いつきで様々な催しを行ってきました。しかしとある日にある禁忌を犯し、一人の人間を傷つけ、怒らせてしまったのです」
 拡声器によってはっきりと聞こえた紫の声から、霊夢はある出来事を思い出す。八雲紫は、外の世界から沢山の人間を連れて来てある催しを行い、それを知った霊夢をとてつもなく激怒させたことがある。
「今回行うこの格闘大会は、その罪滅ぼしでもあります」
 最上部の手すりに肘を掛ける霊夢は「こんな妖怪達の戦いを見せられたって、私には何の得もないわよ」と、不満そうな表情を見せていた。
「今回行われるこの大会は河童の技術により、予め宣言しておいた地底の各地点や、地上の一部でも閲覧することができます。先程申したゲームは、私が人間を理解したいと思ったがために行ったものです。しかし、私の手段があまりにも強引なものだったためその者の怒りを買い、求めるものを得ることはできませんでした。それから暫しの熟考の末、一つの発見をしました。他者を理解するのと同時に、自らを理解してもらうことも大切なのだと」
 紫の言葉に対し、霊夢はあくまでも表情を崩さない。
「それが、この大会を開いた目的の一つです。その者に限らず人間には、如何に妖怪が力強く、しかし共に歩めばとても頼もしき存在であると、理解して欲しいと思っています。もちろん、妖怪である皆さんも見て楽しめるよう、大会参加者は妖怪に限らず選りすぐりの実力者達を集めました。公平を期すために開催者である私自身が参加できないのは真に残念ではありますが、どうか楽しんでいってください」
 一度息を吸い、紫は左手を上げて高らかに言い放つ。
「それではただいまをもちまして、地底妖怪武闘会の開会を宣言します!」
 紫の言葉から数秒経った時には、会場内は様々な妖怪の歓声で溢れた。
「ひゃー。すっげぇ」
 思わず耳を指で塞ぐ魔理沙の視界には、紫にマイクを渡された一人の妖怪である古明地さとりが映る。
「皆様おはようございます。今大会の司会進行を務めさせていただきます、古明地さとりです。まず初めに、今大会の規則説明をさせていただきます。対戦方式は、一対一による勝ち抜き制トーナメント戦を行い最後の一人に残った者が優勝です。闘技場の範囲は、私が今いるこの円状の場所です。試合が始まると、選手入場口を含めて円柱状に八雲紫さんの結界が張られるので、客席に攻撃が跳んでいくような事は恐らくないのでご安心ください。勝敗条件は、今から述べるものの内一つでも犯した者を敗北とし、勝敗を決定します」
 ――審判長と副審一名に戦闘不能と判断される。
 ――はっきりと降参を宣言する。
 ――弾幕を使用する。
 ――頭部を破壊されるか、首を切断される。
 ――大会を通して、四肢をそれぞれ一度以上切断される。
 ――道具を二つ使用する。
 ――事前登録されていない道具を使用する。
 ――なんらかの方法で破壊された結界の外に出る。
 ――自らの該当する試合にも関わらず現れない状態が十分続く。
 ――今言った事の他に、何らかの行為により、審判三人全員に失格と判断される。
「以上です。ここで、審判長を紹介します」
 闘技場内に足を踏み入れた新たな人物を見て、観客の声は困惑と驚嘆のものに変わった。
「すげぇ。無駄に豪華だなぁ」
 魔理沙は審判長である閻魔の登場に軽く口笛を鳴らした。
「四季映姫・ヤマザナドゥさんが今大会の審判長を務めます。ちなみに副審は、私と八雲紫さんの二名が務めさせていただきます。次に、ルールについての補足を説明させていただきます。今大会の試合は基本、十五分の制限時間を設けています。決着が着かないまま時間切れとなった場合、我々三名の判定により勝敗を決定します。あと、道具についての説明ですが、直接投擲等の使用はいいですが、道具から弾幕と判断されるものが放たれた場合も反則負けと見做します。他には、今まで述べたルールは、試合を行う二名と二名以上の審判が了承すれば、時間制限の増減などいくらかの変更を了承するものとします。しかし弾幕の禁止は絶対とします」
「拘るのね」と霊夢は小さく呟いた。
「ええ、あと最後に一つあるのですが……。これは選手ではなく、試合を見ている方々に対する禁止事項です。地底にいる限り、この大会に関する内容の賭け事一切を禁止致します」
 最後に放たれた大会の禁則事項に客席中が大きくざわめき、マイクを受け取った紫が代わりに説明する。
「この大会を最も楽しみにしているのはあなた達ではなく私です。この禁止事項は、賭け事の操作を行うために選手や我々に妨害しようとするのを防ぐためです。我々ほどの実力者の妨害をしようとする者は少ないですが、それでも邪魔をしようとする者は容赦なく処分します。くれぐれもお気を付けください」
 処罰、罰則、など色々な言葉があるにもかかわらず『処分』と言った時の紫が放った妖気は、大きな力を持っていない観客達に一瞬息をする事を忘れさせた。
「まぁ、怖い話はここまでですので御安心を……」
 言い終わり、紫はさとりにマイクを返す。
「ではお待たせいたしました。これより選手入場を行いたいと思います」
 さとりが言い終わると突然、観客の一部が立ち上がる。その六人は各々に楽器を持ってきて、演奏を始めたのだ。
「霊夢、この曲……」
「……『心綺楼囃子』……だっけ?」
 騒霊であるヴァイオリニストのルナサ、トランペッターのメルラン、キーボーディストのリリカによるプリズムリバー三姉妹。付喪神である、琵琶を持つ九十九弁々、琴を持つ九十九八橋、和太鼓とは違う楽器を叩く堀川雷鼓。彼女達は、以前宗教戦争が起きた際に人里でよく奏でられていた音楽を演奏する。その軽快ながらも、胸を躍らせるような響きは、先程見せられた紫の殺気に圧された妖怪達に歓声を取り戻させていった。
 心を読めない映姫が審判団の中で唯一驚いている中、さとりは再び大会を進めるため、マイクの音量を上げて喋る。
「ちなみにトーナメントの組み合わせですが、十数分前に四季映姫さんによるくじ引きによって既に決定しており、その対戦順に選手三十二名が入場します。どうか皆様、大きな拍手でお迎えください」
 八雲紫が南方の席に戻り、他の二人も均等の弧になるよう散っていく。
 妖怪達の大歓声の中、さとりの読み上げる大会参加者の名簿と共に、次々と強き魑魅魍魎達が闘技場に集っていく。
 ――守矢神社、坤神(こんしん)、洩矢諏訪子!
「はは、あいつが一番か!」
 魔理沙が楽しそうに笑う中、次々と参加者が足を進める。
 ――命蓮寺、入道使い。雲居一輪!
 ――紅魔館、門番。紅美鈴!
 ――妖怪の山、天狗。射命丸文!
 ――マヨヒガ、式神。橙!
 ――命蓮寺、毘沙門天の弟子。寅丸星!
 ――神霊廟、尸解仙。物部布都!
 ――地霊殿、地獄鴉。霊烏路空!
 ――白玉楼、亡霊、西行寺幽々子!
 ――輝針城、小人族、少名針妙丸!
 ――魔法の森、人形師。アリス・マーガトロイド!
 ――幻想郷、鬼。伊吹萃香!
 鬼である萃香の登場に、観客は一際大きく歓声を上げる。一方で魔理沙と霊夢は驚いた表情をしていた。
「アリス……この大会に参加してたのかよ! っていうか……」
「いきなり萃香と戦うのね。これはなかなか……」
 そして、十三人目以降の名前が上げられていく。
 ――命蓮寺、舟幽霊、村紗水蜜!
 ――幻想郷、式神。八雲藍!
 ――妖怪の山、河童。河城にとり!
 ――命蓮寺、化け狸。二ッ岩マミゾウ!
「お。鬼が被らなかったな。これで最後まで楽しめるのは決まったわけだ。とはいえ霊夢、萃香と勇儀は必ず決勝に残ると思うか?」
「さぁ」
 魔理沙達の会話をよそに、もう半分である十六人の参加者が読み上げられていく。
 ――命蓮寺、鵺。封獣ぬえ!
 ――永遠亭、月の民。蓬莱山輝夜!
 ――人里、ワーハクタク。上白沢慧音!
 ――彼岸、死神。小野塚小町!
 ――神霊廟、聖人。豊聡耳神子!
 ――地底、鬼。星熊勇儀!
 萃香の時以上に妖怪の歓声が闘技場中を振るわせていく。
「お、神子対勇儀か。これはどうなるかな」
「勇儀でしょ、多分」
 会話をする中、勇儀の次に出て来た妖怪は二人やある程度の参加者を驚かせる。
 ――輝針城、天邪鬼。鬼人正邪!
「はぁっ!? あいつ、なんでこんな大会に出てるんだ?」
 驚いている魔理沙や天邪鬼と関わっている妖怪に詳しい説明をすることなく、さとりは口を動かし続ける。
 ――地底、土蜘蛛。黒谷ヤマメ!
 ――白玉楼、半霊。魂魄妖夢!
 ――神霊廟、亡霊。蘇我屠自古!
 ――竹林、ワーウルフ。今泉影狼!
 ――命蓮寺、僧侶。聖白蓮!
 ――永遠亭、月の兎。鈴仙・優曇華院・イナバ!
 ――守矢神社、乾神。八坂神奈子!
 ――竹林、元人間。藤原妹紅!
 ――霧の湖、最強の氷精。チルノ!
「以上、三十二名による勝ち抜き制トーナメントを行います。ちなみに、相打ち等により両者が失格となるような事が起きた場合、審判団で次戦について判断しますが、基本は次に相手をする者の不戦勝とし、選手補充は行わないものとします。それではこれより十分後、一回戦を開始します。対戦者である二名を含む全選手は、一度闘技場から退場……え?」
 さとりの側にはいつの間にか紫がいて、マイクを受け取る。
「失礼。参加選手や観客の皆様に、ちょっとしたサプライズを忘れていました」
 言い終わった紫は指を鳴らす。無機質な半球状の天井空間に突如大きな裂け目が入り、八雲紫のスキマが開く。
「うっそだろ……」と上を向いて呟く妹紅の目には満月が映っていた。確かに今日は満月の日である。しかしその光は当然地底に届くはずもなく、闘技会場には先程まで天井が存在していた。
「戦うあなた達に敬意を表して、私からのサプライズを用意しました。これでより、強い力を見せる事ができます。ちなみに、月の光を拒絶する結界によって観客席に届くことはないのでご安心ください」
 説明の中、視線を変えた妹紅の目に映った慧音は目を覆っていた。
「慧――」
「大丈夫だ……きちんと並んでろ……」
 月によって変貌する半獣の慧音の髪は、既に半分ほど緑色に変色しつつあった。
 紫はにこやかにマイクを返し、さとりは「で……では、一回戦を始めるので、選手は退場して結構です」と言って、マイクを切った。
 各々の選手が四つある入場口に散っていく中、魔理沙はただ闘技場を見ていた。
「相変わらずだなぁ紫。それはそうと、ぽつぽつ、出てない奴がいるな。パチュリーは出ないとして、レミリアや天子もいないなんて」
「逆に、アリスとか輝夜がいることが驚きよ」
「妹紅が決闘でも申し込んだんじゃないか?」
「ああ」
「天子がいないのは分からないけどな」
「紫は嫌ってるもの、あいつ」
「なるほどな」

 霊夢や魔理沙が会話する最中、一回戦参加者である洩矢諏訪子は、闘技場出入り口前に立ちながら、手足をばたばたさせていた。
 ――ま、上手い具合に神奈子とばらけたね。それにしても、あいつらの内五人も素手で喰っていいのかい。いいねぇ、最高だよ。
「ま、せっかくだ。お客さんを楽しませないとね」
 余裕綽々な表情を見せる諏訪子の耳に、さとり妖怪の声が響く。
『時間になりました。洩矢諏訪子選手と雲居一輪選手は入場してください』
「行きますか」
 そして、祭りは始まる。



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